帰還
回復薬と解毒剤で、なんとか保てているが。
シエナは満身創痍だった。
ヒト一人を掴んで飛ぶのに限界になったベンヌから、ランターナが飛び降り。
ハルハは、未だ炎上しているムカデの残骸を注視している。
そこに。
反対側で、挟撃の足止めをしていたドワーフ。
プリムティスがやってくる。
「シエナ、ハルハ、ランターナ……あと、ベンヌ……」
一人ひとり名を呼び。
その声に振り返った面々に。
プリムティスは労いの声をかける。
「――お疲れ様、よくやったわ」
「プリムさま……」
「プリム……!」
「プリムさん……」
ハルハ、シエナ、ランターナが先生の名を呼び。
ハルハが、ドワーフの担いでいる大剣に目を止める。
「それは……?」
「見ての通り、剣だけど……魔物の抜け殻ってところ?」
事情を知らないハルハの顔に『?』が浮かぶ。
「持って帰るのですか?」
ランターナの問いに。
プリムティスは頷き。
「当然。ちょっと変な形になっちゃったけど、売ればそれなりのお金になると思うわ。『鋼瘴菌』が寄生してた、……って言えば、――冒険者ギルドや、武器屋より、錬金術師か、魔術師ギルドの方が、高く買ってくれるかもね?」
それに、今度はランターナも『?』を浮かべてしまう。
けど。
プリムティスはシエナが傷だらけなのを気にして。
「これ、ちょっと持っておいて」
そうして、地面に切っ先を突き立てたその大剣を、倒すようにしてハルハに受け渡す。
「はい……うっ――重っ!?」
ぐぎぎ、と精一杯の筋力で大剣を支えるハルハと。
そっと、その助力に入るシエナ。
その間に。
プリムティスは、祈る。
「守護神アティスに願う……かの者達を癒したまえ――『標的数増大・大いなる治癒の天恵』」
シエナ、ハルハ、ランターナ、ベンヌ。
対象とした3人と1羽に光の柱が立ち昇り。
怪我や負傷が治癒され、生命力が充実する。
さほど負傷していない者も居ただろうけれど。
プリムティスは念のために全員を治癒したのだった。
ありがとう。
と三人のお礼を耳にしつつ。
そして、プリムティスは、ハルハとシエナが二人で支えている大剣をひょいと担ぎ直し。
「――冒険者の仕事はまだ終わりじゃないわよ。……この奥に残党が居ないか確認して、この、ムカデから金目の物を剥がし取って、あそこで寝てるゴブリンが持ってる杖を回収して、依頼人に終了報告して……街に戻る。――まだ気は抜けないわ」
「そうだね……」
治癒を受けて、幾分元気になったシエナと。
「……私にも天恵が使えれば……」
治癒の力を羨ましがるハルハと。
「そうね……。アンタ達にも神官が欲しいところね」
同意するプリムティス。
そうして。
血と汗と死闘を共にし。
支え合い、助け合う皆の姿を。
祈る様にしてただ見つめている狐の獣人。
(あたしはただの壁、ただの壁、ただの壁――)
気配を殺しながら。
何かしら、温かいキラキラを感じているランターナが居て。
そんな皆は、プリムティスの言う通り。
洞窟内の残党を駆逐し、お金になりそうなものを回収し、村へ報告し。
ふたたび、片道10日間の帰路に着いたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その全てを。
冒険者ギルドに報告する。
「――大変でしたね。お疲れ様でした。……こちらが、依頼報酬の銀貨15枚。こちらが、現象核結晶ワンドと、巨大蜈蚣の外骨格等の買い取り上乗せ報酬、銀貨8と銅貨6枚になります」
ねぎらいの言葉と共に。
受付嬢が、カウンターにじゃらり、と報酬の入った袋を二つ置く。
その横で。
プリムティスはギルド長と話していた。
無論、プリムティスは擬装用の頭からつま先まで全身革鎧姿で。
「で、どうだね? ……あの弓使いは?」
ギルド長は、フロアで色々な冒険者の女子に目移りしている獣人を示す。
「……アンタが言ってたほど、悪くないわよ? 獣人だから、目も鼻も耳も良いし、気配にも敏感だし、まだ資格は無いみたいだけど、斥候もやれそうね?」
それに、ほう、とギルド長は相槌を打つ。
「弓使いとしてやっていけそうかね?」
「それはどうかしらね。弓士ギルドの想定している戦闘距離には、合って無いから、なんともだわ。――ただ、後衛ではなく、中衛として見れば、総合能力は高いかもね? 特殊な矢ってのもそれなりに機能してるし……――謎の鳥も居るしね」
思ったより、元勇者の評価が高いことに、ギルド長は意外だと感心しつつ。
その表情はすぐに、胡乱な物に切り替わる。
「とり? なんだね、それは?」
尋ねられると、プリムティスは言い淀む。
だって、絶対に普通の鳥ではないし。
正体はいまだ不明なままだ。
解っているのは、ランターナに協力的で。
シエナやハルハとも上手くやっていけそうな気配があるだけだ。
――ただ、油断はできない。
「何か問題か?」
加えて尋ねるギルド長に。
プリムティスは首を振る。
「いえ。大丈夫よ。――それより、ギルド長」
「なんだね、アルフヴェイン殿?」
「――神官の問題児、とかは居ないわけ?」
ギルド長は首をひねり、記憶を掘り起こす。
「問題児? 今度は神官かね……?」
「ええ、このままじゃ、私がずっとついて回るハメになんのよ」
なるほど。
治癒できる者が居ないのか。
とギルド長は理解して。
「良いだろう。すぐにとはいかんかもしれんが、探してみよう」
「よろしく。できれば鉄等級くらいでね」
「まったく。注文が多いね、勇者様は」
大袈裟なジェスチャーで、やれやれ、とポーズをとるギルド長と。
さらに、依頼書の想定ランクと実際が合わないことについての文句を言い始めるプリムティス。
そんな喧騒に包まれた賑やかな冒険者ギルドは。
今日も盛況な様子だった――。
今日も、夢やロマンを追い求め、突きつけられる現実に散っていく。
そんな冒険者達で、満ちていた――。




