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全身全霊


 洞窟の壁際をランターナは走っていた。

 その後方から、巨大蜈蚣ジャイアント・センチピードが迫りくる。

 

「この!」


 振り向きざまに、短弓から矢を射かけるが。

 頑丈な装甲にその矢は弾かれるばかりだ。

 威嚇射撃にすらなったかどうか。


 ただ、敵意だけは、向けさせることが出来ていた。


 そんな状況で。 


 呼吸を乱しながらも。

 ランターナは、身軽さと脚力を活かして逃げ回っていた。

 

 ガサガサと、不快な音が迫る中。

 突き当りの壁を蹴って、ムーンサルトで、長大な体躯を飛び越える。

 

 そして。

 空中で。

 真下に、いるはずのそいつに、弓を向ける。

 番えるのは、所持している最後の仕掛け矢。


貫徹矢(ボドキンアロー)


 しかし。

 居ない……?


 真下にその巨体は無かった。


 その瞬間。


「――ぐあっ!?」


 唐突に、ランターナの身体が衝撃と共に吹き飛ばされる。

 真横の壁から、伸ばされた巨大蜈蚣ジャイアント・センチピードの胴体にはたかれたのだ。


 仕掛け矢が手を離れ。

 宙を舞うランターナ。


 そこに、飛んでくるベンヌが、鋭く大きなカギ爪でその身体を掴み。

 空中を運ばれる形になる。

 

 けど、その間。

 天井に張り付いたオオムカデが、落下と共にボディプレスを仕掛けてくる。


「上です、ベンヌ!」


 ランターナは叫ぶが。

 落ちてくるのは長大で巨大な図体だ。

 今のベンヌは、重量物(ランターナ)を抱えたまま、機敏に飛行することは不可能だった。 


 そこに。

 

 矢が飛来する。

 それは。

 巨大蜈蚣ジャイアント・センチピードの腹部に、次々と突き刺さり。

 

 次の瞬間。 


 地面に落下した衝撃で。

 ドォォン、と重量のあるものが落下する音を響かせ。

 空洞内の中央に、濛々と砂煙を舞い上がらせる。 

 

 シエナの治療から、駆け付けたハルハが叫ぶ。 


「ランターナさん!?」


 しかし、その立ち込める粉塵の中。


 さらに、ハルハの後方から叫び声が言う。


「――火を。――放って!」


 それはシエナの声で。


 ヨロヨロでボロボロの状態で。

 長弓を握り、矢を番えたまま。

 上空を見上げるエルフの目が、その存在をしっかりと補足していて。


 粉塵の中。

 空中に浮かんだままのシルエット。

 それは、なんとか巻き添えを回避したランターナ。

 ――と、その身体を掴んで浮かせているベンヌだった。


 シエナはその姿が健在なのを見て、叫んだのだ。


 けど。

 それに反応できるものはそのタイミング存在しなかった。

 何故なら。

 

 今ベンヌは、飛ぶことに精いっぱいで。

 ランターナは、爆裂矢の仕掛けを使い果たしていて。

 

 そしてこの場に火の現象核(オリジン)はまだ生まれていないから。 

 ハルハも火の魔術は行使できない。


 

 

 粉塵が晴れてくる中。

 のたうちまわる巨大蜈蚣ジャイアント・センチピードの腹部には、矢が数本刺さったまま。


 さらに、幾本かの矢が放たれ。

 正確な精度で、外骨格の薄い部分を狙って突き刺さっていく。


 そこにさらに、シエナが放ったのは、拾った【貫徹矢(ボドキンアロー)】で。

 それが深々と装甲の隙間に突き刺さる。


 さらに蠢く、巨体。


「そうだ、ある……」


 ハルハは思いだす。

 今自分が杖代わりに手にしている松明。

 これは『火』だ。


 けど。それを投げ込んだら、明かりを失ってしまう。


 否。


 まだある……。


 ハルハは、自分の鞄から半自動着火具(ライター)を取り出した。

 カチリと、レバーを押すと、火が点る。


 これでいいのなら。


 ハルハは、走り。

 近づき。


 そのおぞましい身体に向けて、半自動着火具(ライター)を放り投げた。

 どすり、音が鳴って。

 それが、ムカデの身体に命中する。


 その次の瞬間。


 刺さった矢にふんだんに塗られている着火剤にそれは引火した。


 何本も刺さった矢。

 最後の貫通矢。


 その薬剤は全てに塗られていて。

 それは、ランターナが放った仕掛け矢の残骸だった。

 火に触れないまま、地面に残っていたものだ。


 その炎は、瞬く間に、広がり。

 巨大蜈蚣ジャイアント・センチピードの内部に食い込んでいる鏃をも発火させ。

 内部から焼き尽くしていく。


 火だるまになっていく巨体は、みるみると焦げた匂いを発し。

 煌々と空洞内を照らし出す。


 うごめき、あばれ、苦しみ、走り回る巨大蜈蚣ジャイアント・センチピード

 しかし、それは最初に比べればずいぶんと鈍く。

  

「零にして無限たる一握よ――集え、無垢なる凶弾と成りて――」


 ハルハは、見様見真似の詠唱で、術式を行使する。

 詠唱型ならば、発射のタイミングは、名称宣言のタイミングだ。

 

 だから、良く狙って――。 

  

「――『魔弾エナジーボルト』!!」


 

 放たれた魔力の弾丸が、その体躯を粉砕し、砕け散らすのだった。

 

 

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