絶対絶命②
今、プリムティスにこれ以上は頼ることはできない。
そう悟ったランターナは。
「シエナさん、ごめん……!」
倒れて動けなくなった、身軽なエルフを、蹴り上げて移動させる。
そうしないと、暴れるムカデの巻き添えになりそうだから。
そして。
ベルトから引きはがした小さなカバンを空中に投げる。
「ベンヌ、解毒剤と回復薬を!」
白い鳥が、空中でその鞄を拾ったのを確認しつつ。
ランターナは、体勢を整えた巨大蜈蚣に向かっていく。
「ハルハさん、シエナさんの手当てを頼みます!」
その獣人族の機転と行動力に。
半ば放心気味だったハルハは気を取り直す。
「――解りました」
そうして、ハルハは、シエナの元へ走る。
◇◇◇◇◇◇◇◇
一方。
その後方では――。
プリムティスの小さな体に。
シャーマンの魔術が、矢が、飛び掛かる群れが襲い掛かる。
「うっとうしい!」
それらを、大盾で防ぐと同時に殴打で昏倒させ。
ふりはらう戦槌で、数匹を吹き飛ばし、砕き伏せる。
「今、私の弟子が頑張ってんのよ……邪魔、しないでよね」
甲冑など無くても。
身体強度と精神強度だけで、ゴブリン程度の魔術も矢も殴打も効きはしない。
ゴブリンの群れが、プリムティスの脅威になることはあり得ない。
しかし――問題はそっちではない。
佇む通常よりずいぶん大きなゴブリン種。
拾ったか盗んだか。
ボロイ甲冑を纏い、手に大剣を握る……。
それは一見、【上位種小妖魔】と呼ぶものだが。
プリムティスは妖魔語で叫ぶ。
「……どこで拾ったのよ、それ……!」
返答はない。
プリムティスの視線は【上位種小妖魔】が手にしている1メートル半ほどの大剣に向けられている。
真っ黒で禍々しい気配を纏うその剣は、魔剣や妖刀なる代物であり。
賢者としてのプリムティスの目が、その正体を見極める。
「――……すでに、手遅れってわけね」
その大剣は、言葉こそないものの、確かな意志を持ち。
振るうたびに【上位種小妖魔】の意志を乗っ取っていく呪詛が籠められている。
そして、その大剣の柄と、宿主の手はもう既に癒着したようにくっついており。
大剣からのびる根っこのようなものが、腕に絡みついている状態だ。
【呪詛祓い】の天恵は既に施したが、魔剣から垂れ流され続ける呪詛で、すぐにまた呪われた状態になってしまうので、効果が無いのと同義だった。
つまり。
「とりあえず、宿主を殺るしかないわね」
布陣しているゴブリンを自ら蹴散らすようにして、飛び掛かってくる【上位種小妖魔】の大剣を、プリムティスは盾で受け止め――。
戦槌を振るうが。
バキリベキリと、音が鳴って。
プリムティスの予想をはるかに上回る膂力で振るわれた大剣に戦槌を弾かれる。
「っち!」
ぐぎぎぎ、と苦悶を浮かべる【上位種小妖魔】が。
口から泡を、目から涙を溢れさせる。
宿主の身体の事など無関係に、無理やり動かされている【上位種小妖魔】の肉体は、すこしづつ壊れていく。
その代わり。
限界以上に発揮されるパワーもスピードも、もはやゴブリンのレベルではない。
プリムティスは、戦槌に、神力と戦気を宿しながら――。
「……面倒な事だわ。……皆には悪いけど、こっちはあと少しかかりそうね」
そして。
振り返る横目で。
後方を視界に納める。
そこには、今にも瓦解しそうな状態のパーティが居て。
一人は倒れ。
一人は治療に走り。
一人は、巨大なムカデを抑え込もうとしている。
まったく、私も未熟ね。
とプリムティスは思う。
フロアに別の通路があったことは知っていたが、あまり口出しするのも良くないと思っていたし。そもそもどこから探索しようが冒険者の自由だ。だから好きにさせたのだが。しかし結果的に、挟撃されてしまった。
しかも、予想よりはるかに強敵である魔物二匹。
こういう状況を生まないようにするために、先生をしているのに。
なんてことだと、思いつつ。
それでも、運命を受け入れるしかない。
冒険者とは、時にこういう試練を味わうことがあるものだ。
プリムティスも、このような死地を幾度も味わってきている。
でも、その全ての状況をねじ伏せて、今ここに居るのだ。
だから、打開できないなんてことは、決して無い。
プリムティスは、弟子たちを信じ。
頑張れと、思いながら。
再び、正面を向く。
「――立ちなさい、シエナ。アンタが本当に何かを守る戦士を目指すなら……!」
そんな呟きと共に。




