絶体絶命①
依然として。
縦横無尽に動き回るオオムカデ。
それは、地面だけでなく、壁も、天井をも這いずり回る。
そして天井に回られると、冒険者には手も足も出せなくなる。
高めの天井ゆえ、ランターナの矢は当たる見込みがなく、爆風矢では天井が崩落するだろう。
けれどそのたびに。
雷の魔法を纏うベンヌが吶喊することで、その巨体を叩き落とす。
それでさすがに学習した巨大蜈蚣は、天井へはいかなくなってきた。
けれども。
まだ、魔物は無傷のままだ。
なんとかハルハの魔弾を当てねばならない。
それなのに。
ハルハは手こずっていた。
魔法陣型は、魔力を陣に籠めた後は全てオートメーションだ。
陣は、施された記述通り機能して指定された術式を放つ。
だから、魔法陣の構築さえしっかり出来ていれば、常に同じクオリティの魔術が行使される。
けど。
それは逆を言えば、融通が利きづらいという事。
魔弾の発射タイミングを、コンマ秒で合わせるのは至難の業だ。
以前は全てで5秒かかっていたが。
ハルハは現在、マナの指導のもと、陣の改築を行って、魔力の準備に1.7秒。
陣が満ちるまでに、1.8秒、で合計で3.5秒を要する。
そして今、この、陣が満ちるまでの1.8秒が、タイミングの合致を阻んでいた。
「くっ!」
また外れた魔弾が、洞窟の壁に命中して、穴をあけ、がらがらと瓦礫を降り注がせる。
――あんまり何度も失敗すると、洞窟が崩落する可能性だって出てきているし。
ハルハの魔気だって無限にあるわけでは無いのだ。
焦るハルハは歯がみする。
シエナは、再び全詠唱で作り出した木葉の双剣を手に、回避に専念しているし。
ランターナも、蹴りで肉薄し、至近距離から矢を放ち応戦している。
しかしやはり、巨大蜈蚣の動きを止めるには至っていない。
なんとか動きを止めたい。
それは今、三人が共通して思っていることで。
そんなか、振り回される巨体を。
ランターナは強靭な脚力で飛び退いて躱し。
シエナも回避行動をとる。
――が、尾の先端についている棘が、その身体を掠め。
血潮が散る――。
「うぐっ!?」
それは、オオムカデの毒針で。
怯んだシエナのその隙に、巨大蜈蚣がエルフの矮躯に巻き付いて締め上げる。
「がっ、か、ハッ!?」
シエナの手から、短剣二本が零れ落ち。
「シエナさん!?」
「シエナさん!!」
叫ぶ二人の声。
そして、ギリギリ、と嫌な音を立て始めるシエナの身体。
確かに、今、巨大蜈蚣の動きは止まっている。
けど。
撃てるはずがない。
シエナも巻き込んでしまう。
そんなハルハと。
カバンから、鋭い棘のような形状の鏃を装着したランターナ。
「――シエナさんを放して!!」
【貫徹矢射撃】
近距離で、放たれたその矢が、巨大蜈蚣の装甲の隙間から、その身体を貫き、突き刺さる――。
一か八か、ランターナは装甲の隙間を狙ったのだ
それは、近距離かつ相手が止まっているからこそできた、ランターナの狙い撃ちだった。
蟲に叫び声は無い。
けれど、深く突き刺さった針のような鏃に、のたうち回るムカデは、シエナの身体を放り投げた。
だが。
どさり、と落ちるシエナに動く気配はない。
この状況で、動けるのがランターナとハルハだけになったら詰みだ。
それを思うランターナは、後方のプリムティスに視線をやる。
さすがに、助力してくれても良いのではないか、と。
けど――。
ランターナは固まった。
今、プリムティスは背を向け。
ゴブリンの大軍と、大型の何かと対峙していたからだ……。
それは、別の通路から挟撃してきたゴブリンの本隊だったのだ。




