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木属性


 這いずり回る長い身体。

 全身をくまなく覆う外骨格は。

 まだあちこちでくすぶる残り火の輝きを反射し。

 

 ガサガサと騒がしいその不気味な音と共に。


 ようやく、ハルハの目がその存在を捉える。


「ひぃ!?」


 蟲は苦手なハルハに。

 このおぞましさは、生理的な嫌悪感を最大限刺激する。


 思わず、後退るハルハ。

 そして、変わって前にでるシエナ。

 

「……倒すよ!」


 双剣を構えるシエナの言葉と勢いに。


 ハルハは、松明を掲げ。


「はい!」

 ランターナは、短弓を構え。


 ベンヌはランターナに、

火属性概念憑依(パワーオブファイア)

土属性概念憑依(タフオブソイル)

水属性概念憑依(センスオブウォーター)

雷属性概念憑依ナーヴァスオブサンダー


 以上の強化術式4種を施す。



 ――長大な体躯で、床を這い、壁を這い。

 

 獲物を品定めするかのように。

 ゆっくりとした速度で動くソレが酷く不気味で。

 

 神妙な面持ちで身構える三人は、飛び掛かってくる瞬間を覚悟する。


 そしてついに。

 壁から離れ。

 飢えた巨大蜈蚣ジャイアント・センチピードが襲い掛かかった。

 

 それまでとは打って変わった強襲は、あまりに早く。 


 巨体ではあるが。

 一本一本が木の枝のような、無数の節足で這う速さは。

 シエナの想像以上で。

 

 とびかかり、食らいつこうとする牙を躱すのはギリギリのタイミング。


 そこに、カウンター気味に、シエナは右の短剣で斬りつける。

 けど。


 がきん、と分厚い装甲に無慈悲に弾かれた。

 内部の肉に刺さらないならば、毒だって機能しない。


「こいつ、速いし、硬い……ッ」


 明らかに、ゴブリンとは一線を画するスタンドアローン。

 さらに、いつぞやのサラマンダーとも違う魔物だ。

 冷や汗を垂らしながら、シエナは振り回される長大な巨体を躱す。


 そこに。

 飛来する、エルフの矢。

 外しようもない近中距離からの射撃。

 しかし、やはりそれも装甲に弾かれる。

 ザクリと、明後日の地面に突き立った矢を見つつ。


「……あたしの精度では、装甲の隙間を狙うのは難しいですよ」

 

 泣き言をいうランターナ。

 では、ハルハは、と言うと。


「く……狙いが定まらない……!」


 前衛の隙間を狙うが、暴れまわるオオムカデを捉えきれず。 

 

 ズドン、と放たれた魔弾は、地面を抉り、土砂を巻き上げる。

 

 シエナはギリギリで避け続け。

 合間に短剣を突き立てるが、やはり通らない。

 装甲の隙間も、シエナの筋力では一瞬で刺しきるのは難しい状況だ。


 なんとか毒さえ通せれば――。

 シエナはその事ばかりを考える。

 その焦りが、回避行動への集中を分断する。


 気づけば迫る巨体。


「『墓標石板(グレイヴスレート)』!!」


 咄嗟に、土属性魔術の防壁を作り出すが――。


「がっ!?」

 

 砕け散る術式の瓦礫と共に。

 

 シエナが攻撃をまともに受け、吹き飛ばされ。

 握っていた短剣が手から離れて砂地に転がった。


 さらに、岩壁に身体を打ち付けそうになるのを。

 割って入った白い鳥(ベンヌ)がクッションになって、シエナとベンヌはもろともに地面に転がされる。

 

 倒れたままのそこに、這い寄るおぞましさに――。


「シエナさん!」


 ハルハが咄嗟に、【魔衝弾(マギア・インパクト)】でその巨体を吹き飛ばした。

 そして、痛みに耐え、立ち上がろうとしているシエナに叫ぶ。


「――シエナさん、あれは昆虫種で、魔物です。――たぶん、『木属性』を帯びてる。――シエナさんの短剣は、木属性だから……!」


 それは、ハルハが実家の魔法図書館で読んで得ていた知識であり。


 それで、ランターナもシエナも理解する。

 魔術で作った毒も、短剣も『木属性』を帯びている。

 同じ属性同士は、互いに干渉しあう。

 故に、まったく効かないという事は無いが。

 効果が薄くなるのだ。


 加えて、『土属性』は『木属性』に一方的に撃ち負ける法則だ。

 つまり、シエナの習得している術式の殆どが不利だという事になる。


「なるほどね、どっちみち無理か……」


 シエナは起き上がり。

 ベンヌはシエナのケツの下から這い出てくる。


「助かったよ、鳥」


 

 そしてシエナは思う。

 やはり、決め手はハルハの魔術だ。

 それを当てるしかない。

 

 態勢を立て直し、壁を這いずる姿は。

 まだ一度もダメージを受けていない巨大蜈蚣ジャイアント・センチピード


 今。

 第二ラウンドが開始される。


 そのタイミングで。



 ずっと後方で見ているプリムティスの五感に、不穏な新たな気配が混じり始めていた。



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