オードブル
――といっても。
暗がりの中、明かりに照らし出される矮小な魔物の群れは、ハルハの心をざわつかせる。
嫌悪と不気味を内包する声、姿、気配。
それにハルハは、固唾をのむ。
こちらに走ってくる。
それらに、先制の魔術を叩き込めたなら重畳であったが。
実戦であるという実感。
死が押し寄せてくる錯覚。
ハルハの心はそれらに少し飲まれかけた。
まだ15歳の少女である、ということもある。
敵の群れは迫り。
敵の術師は魔力を生成し始める。
そんなタイミングで。
シエナは、ハルハに魔術を撃ってもらいたかったが。
動かないハルハを横目で気にし。
ランターナはそれを察するかのように、前に出る。
腰の鞄から取り出した仕掛けのある鏃を二種類、2本のエルフの矢の先端にセットし。
番え、構え――。
「ベンヌ!」
合図に呼応して、白鷹の火の魔術で着火される鏃。
本来は、パーティで戦っている最中に、こんなものをぶっ放せば、メンバーも大怪我になるだろう。
だから普段は使わない。特に、洞窟内では。
でも、状況が違うなら別だ。
「『可燃性剤・爆裂・射撃』!!」
ランターナは、番えた仕掛け矢2本を。
一応、後方で術を放とうとしているヤツを狙って放つ。
その矢は。
一本は、極微量の火薬と可燃性のジェルを詰め込んだ鏃。
もう一本は、時間差で起爆後に爆発する鏃。
それぞれ、導火線に着火され、火花を散らしながら突き進む。
けど。
やはり。
その二本は、ランターナの狙った場所にはいかなかった。
そもそも短弓の射程を超える場所を狙っているのだから当然だ。
だが――。
バンッ。
と敵陣中空で弾けた一本目の鏃から、可燃性の物質が、飛散する。
それを始めてみるシエナは、驚き。
きゃ、と短い悲鳴を上げる。
そして。
その直後。
着弾した二本目の矢が、どん、と閃光と共に爆発を巻き起こした。
間近に居たゴブリン数体が、巻き込まれて爆散し。
爆風が吹き荒れ。
飛び散る灼熱と炎と砂利が、ゴブリン達を吹き飛ばし、負傷させる。
それだけではない。
飛散し、地面に落ちていた可燃性の薬剤に、その火は着火し。
焼夷弾となって炎上し始める。
激震。
爆音。
眩い光。
焼け焦げる匂いと煙……。
その状況に。
ハルハは我に返った。
暗い洞窟を照らし出す、あちこちで燃え上がる炎。
それを視界に納めた時。
ようやくハルハは魔術を準備し始める。
「――ご、ごめんなさい!」
そして素直に謝罪する。
燃える炎に。
シエナも少し、嫌なことを思い出しつつ。
「……大丈夫、まだ私たちは死んじゃいない!」
そしてエルフは駆ける。
生き残っているゴブリンを、左右に手にする【木葉短剣】で、倒すために。
一仕事終えたランターナも言う。
「……この群れは、まだ序の口だと思います。大型の魔物もどこかに居る筈ですから……。ハルハさんの出番は、そこからですよ」
そうして、ランターナもシエナに続いて前に出る。
その強靭な脚で、ゴブリンどもを蹴り転がすために。
やがて。
シエナの短剣で斬り裂かれ。
ランターナの蹴りで昏倒し。
前衛たちの後方から。
放たれたハルハの範囲魔術が、残りを吹き飛ばし。
沢山いた魔物の群れは、皆、死に絶えた。
はぁ。
とハルハは胸をなでおろす。
「さすが、先輩だね。あんな矢を見たのは初めてだよ」
「……こう見えて手先は器用なんです。……それにしてもこのショートボウ、とても使いやすいです!」
「それはよかったよ」
そんなひと時の、シエナとランターナのやり取り。
その後方で。
プリムティスはその全てを緊張感をもって見守っていた。
その声が小さくつぶやく。
「――よくやったわ。――でも……」
ピクリと動くランターナの狐耳。
プリムティスの暗視が凝視する方角。
振り向いた獣人の暗視、そして嗅覚と聴覚が、語る。
再び身構えるランターナが叫ぶ。
「本命が……きます! けど……」
最奥から這い出てきたのは――。
「アレは……!」
その予想外の怪物に、シエナは固まり。
まだ見えないハルハは、狼狽し。
後ろでプリムティスは呟く。
「――……巨大蜈蚣……!」
そう。
ゴブリンたちは、ハルハの明かりに釣られて出て来たんじゃない。
こいつに追い立てられて出て来たのだ――。
それは、体長数メートルにおよぶ、巨大なムカデ型の魔物だった。




