洞窟探検
既に真っ暗な空洞を、ハルハの持つ明かりが照らし。
五感に優れるランターナが前を歩き。
殿をシエナが担当する。
やがて。
洞窟の進路が折れる区域で。
ランターナが立ち止まる。
「――居ます。2匹……。寝てます」
シエナが壁に隠れ、先を見ると、見張りらしき矮躯が寝こけていた。
ハルハも覗こうとするのを。
ランターナが、通せんぼする感じで制止する。
結果的に、抱きとめる感じになってしまい。
仄かな香水の香りに、ランターナが恍惚としそうになっていると。
ハルハが当然のように訝しむ。
「なんです……?」
それの理由をプリティスが補足する。
「――アンタが松明持ってるからでしょ。それ以上壁際に出ると、明かりで居場所がバレかねないわよ。――そうよね、ランターナ?」
ハッ、とランターナが我に返り。
「そ、そうです!」
「そ、そっか……」
それでハルハは納得し。
ランターナの『気づき』をプリムティスは、内心、賞賛する。
「そろそろ離れてください」
などと、ランターナに進言するハルハ達のやり取りの中。
見張りをどうするのか。
プリムティスは三人の様子を見る。
すると。
「行ってくるよ……」
いつのまにか、拾った石を手にしたシエナが、見張りの所へ向かう。
何をする気なのだろうか。
ランターナとプリムティスが見守る中。
シエナは元々はランターナの物だった矢筒から矢を一本取り出し。
その鏃に――。
「――……『毒付与』」
血液毒・神経毒・実質毒・腐食毒。
四種の毒を籠めると。
石を口に突っ込んで声を上げられなくしたうえで。
矢の先端で、寝ているゴブリンの喉元を突き刺した。
それを、もう1匹分繰り返す。
その結果。
毒に耐性が無いゴブリンは、神経毒の時点で呼吸困難などに陥る上、細胞の損壊、血液異常、内蔵汚染などの複合効果で、静かに死んでいった。
暗殺者のようなスマートなやり口に皆は驚くが。
シエナは淡々と、皆に、来ても良いと合図を送る。
「――奥に、他の気配はなさそうだよ……」
そうして、見張りの居た区域を抜け。
また暫くくねくねと蛇行する内部を進んだ先で。
皆は少し開けた空間にやってくる。
さらに奥に続く通路と、真横に繋がる通路の交差する地点。
地面は岩場から、やや湿った荒い砂のような環境に移り変わり。
あちらこちらに、小さな骨や死体の一部が散らばっている。
そこで。
ランターナは急にしゃがみ込み、ハルハはきょろきょろと周囲に目を向ける。
「……二人ともどうかした?」
しゃがんでいるランターナが言う。
「シエナさん……ここはおそらく、十数匹単位……もしくはそれ以上のゴブリンが居ると思います。――あと……別の大型の人型も……」
地面には、それらを示す足跡が刻まれていた。
さらに、ランターナの優れた嗅覚も、その信憑性を物語っている。
「戦闘準備していこう」
ハルハも言う。
「それと、たぶん、魔法使いが居ます。気を付けて」
ハルハは、僅かに空気に滲む魔力の残滓のようなものを感じ取っていた。
その様子を見つつ。
プリムティスは何も言わない。
ただ三人から遠く後方で、静かに、背中に背負っている大盾と戦槌を手に取った。
普段は甲冑の下に着こんでいる、丈夫な布で作られた赤系のドレスのみの姿で。
さらに。
ランターナのフサフサの狐耳と、シエナの長耳が音を察知する。
それは、足音や、何かが触れ合うような音であり。
近づいてきている。
「――奥からきます」
ランターナが、シエナにもらった短弓を手に取り。
肩に乗っていたベンヌが舞い上がる。
ゴブリンに気づかれたらしい。
当然だろう。
真っ暗な中に、松明の明かりがあるのだ。
幾ら気を付けても、その目立ちようだけは、今のシエナ達にはどうにもできない。
「……ハルハ、後ろへ」
シエナが、全詠唱で木葉短剣を作り出し。
ハルハは松明をワンド代わりに構える。
そんなハルハは、内心戦々恐々としていた。
――以前、暗がりの中で挟撃された記憶が蘇る。
神官こそいないが。
戦士、弓使い、ハルハ……。
そのパーティ構成は似ているのだ。
ただ、一つ違う事があるとするならば。
――今回は、索敵能力に長けた『仲間』が居る、ということだ。
きっとあの時とは違う。
きっと、上手くできる。
ハルハは、不安な胸中を、言い聞かせる。
深呼吸して。
意識を集中させ。
「……かかってきなさい!」
そう、自身の弱虫をねじ伏せるように、奮起するのだった。




