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ドワーフの勇者


 夜。

 細い三日月が照らす中。


 ランターナは、風車の屋根に座って、警戒していた。

 疲弊してはいるが、自警団の村民も、村の所々に立って番をしているし。

 ベンヌは空から哨戒を行っている。


 そして……。

 プリムティスは、風車小屋の窓辺で様子を見ていた。


 

 ――夜風に揺れるおっきな三角耳と、フサフサの尻尾。

 それらと同色の金色の髪。

 獣人種族であるランターナは五感に優れている。

 暗がりで光る瞳は暗闇に強く。

 遠く森林地帯までを見通し。

 耳は、物音をつぶさに聞き分ける。 

 


 その耳が、ピクリと動き。

 誰かが上ってくる気配を捉えたと思えば。


 屋根越しに足のつま先が見え。

 くるりと身体を回転させて、ドワーフが軽快に屋根へ上がってきた。


「プリムさん?」

 

 すたり、と舞い降りたドワーフは、村の様子を見下ろしつつ。


「今のところは、まだ平和そうね」


「――そう、ですね」

 少し緊張した面持ちになり。

 ランターナは膝を抱える仕草になる。

 その上で、空を旋回している鳥に目を向け。


「……たぶん、見つけるとしたら、わたしより、ベンヌが先だと思います、けど……」


「なるほど?」

 プリムティスも、つられて空を見る。

 その視線は、鳥の形をした何かを捉え、胡乱な表情になる。

 

 その後の静寂。 

 蟲の声。

 


 もしかして何か話をした方が良いのではないかと。

 ランターナが、恐る恐る声を出す。


「あ、あの……」



「なに?」


「えっと……あの、……あのドワーフの人、プリムさんに、とても感謝していました、ね」


 それは、材木置き場の管理場に居た村人の事だった。

 木像まで作り、奉るくらいには神格化された様子だった。

 それが、ランターナには気にかかったのだ。


 やっぱり、凄い人なんだ、と実感する程に。

 だから、そんな御方がすぐ横に居ることが、ランターナには信じられない。


 でも、プリムティスは、その話題は好きでは無かった。

 ぶっきら棒に答える。

「何が言いたいわけ?」


 ランターナはその口調に慌てて。

 別の切り口は無いかと探す。

「あ、え、えっと……。――プリムさんは、どうして、冒険者に、なろうと、思ったん、です?」


 すると、プリムティスは何かを思い出すように瞳を閉じる。

 遠い、何十年も前の、心意気を掘り起こすように。


 そして、尋ねる。


「――アンタのドワーフのイメージって、何?」

 

「え? ドワーフ……と言えば、小さくて、身体が強くて、反射神経はそんなに良くない……」


 それに、ふと、プリムティスは笑みを浮かべる。


「でしょうね。……あとは、根が暗いとか、明るい場所には出てこない、とかね」


 そういえば、材木置き場のドワーフはプリムティスのお陰で日のあたる場所に出られるようになったと言っていた。

 それまでは、あまり出ていけなかったのだろうか。


 プリムティスは言う。


「そもそも、ドワーフってのは人族達から見下されてたのよ。なにせ背が小さいじゃない? 鈍いし、トロい。――そりゃ、虐めるにはちょうどいいわよ」


 だから今も、ドワーフはエルフよりも見かけない。

 人族の街に混じり始めたのは極最近であり、大半は今もどこかでひっそりと暮らしているだろう。


 つまり。


「見返すために……です、か?」


「そんなところね。……とにかく、一番になってやるって思ったのよ。何でも良かったんだけど、ちょうど国が魔物専門の退治屋を募集しててさ。それでね」  


 けど、ドワーフの勇者は言いなおす。


「いえ。違うわね……見返すためって言うのは少し違う。――証明するためよ」


「証明?」


「そう。私が、最強の冒険者に成れば、他のドワーフ達も卑屈にならずに済む。ドワーフ種族だって、世界に名を馳せる英雄になれる、ドワーフだってやれるんだって信じられるし、胸を張れる。――そうなれるんじゃないかって。……ドワーフを舐めるなってとこをさ。証明したかったのよ、若い時の私は……」



 ランターナは、少しだけ共感することが出来た。

 何故なら、獣人族も魔王軍との戦い以前は、ドワーフと同じように虐げられてきたからだ。

 それに、ランターナも、有名になって実績を積めば、舐められなくなる。

 立場が良くなる。

 そう願って冒険者になった。

 プリムティスと、始まりは似ている。


 けど。

 決定的に違うのは……。


 目の前の人物はそれを成し遂げたという事だ。

 実際に、ドワーフに感謝されるほどに――。


 言うのは簡単。思うのも簡単。

 しかし本当に成すのは、茨の道どころの話ではない筈だ。


 尊敬、崇拝、羨望。

 ランターナが抱く感情がそのうちのどれだか。

 自身でも分析できない。


 ただ。


「……すごい」


 出せる言葉はそんな陳腐な一言でしかなかった。

 それが今は、冒険者の先生をしている。


 ランターナは立ち上がる。


「わたしも、証明、したい」


 ベンヌが、翼を左右に振りながら空から降りてくる。

 

「ランターナ……」


「解っています……プリムさん、ベンヌもそう言ってます」


 敵襲だ。

 匂いと目視。

 そして、ベンヌの合図が物語っている。


 ゴブリンの集団が、村に押し寄せている。


「ベンヌ、二人を起こしてきて! 村の北側から敵襲!」


 ランターナが屋根から軽快に飛び降り。

 ベンヌが、借家の中で寝ているシエナとハルハをその嘴と翼でお越しに向かう。


 


 そうして、プリムティスは。


「ええ、獣人だってやれるってとこ、見せてもらうわ」


 ――風車の屋根の上から、その様子を見守ることにするのだった。 

 村に響き渡る、警鐘の最中に。

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