迎撃態勢
それから歩き続け。
ペースを上げた分、9日目にたどり着くことが出来た。
村は、一見長閑な田舎で。
奥には一棟、大きな風車が見える。
そんな依頼を出した村は、林業の盛んな村なようで。
村の入り口の大きな広場には、伐採した丸太が幾つも置かれている。
そして広場にある小屋は、どうやら作業場所、あるいは事務所になっているようだ。
シエナ達は、その小屋でまず話を聞くことにする。
「すいませ~ん。グラン=ロザリアの冒険者ですけど……!」
シエナが小屋の扉を開け、声をかけると。
「おぉ? 冒険者だっで……?」
訛った返事と共に。
小屋の奥から出てきたのは、やや小太りな背の低い人物だった。
ホーバーオールのような作業着を身に着け。
耳が少し尖っている。
その村人は、シエナ達を値踏みするように順番に見て。
そして、一緒に居るプリムティスを見るなり。
ガバッ、と顔色を変え。
「こ、こりは! プリムディズ様!」
凄い勢いでペタリと地面に膝をつき、平伏したように頭を垂れた。
シエナ達が唖然と驚く中。
「辞めて。――困るのよね、そういう態度は」
プリムティスは、それに対し心底迷惑そうな顔をする。
村人は、立ち上がり。
「失礼じますた。……まさがご本人が来られると思っでなかったもんで」
小屋の中には、プリムティスと思われる木像がご神体のように置かれていて。
お供え物のようなものまで置かれている始末だった。
「……まったく、なんだと思ってんのよ」
その村人は、ドワーフ種族の男性だった。
口ひげを生やす姿は、昔ながらのドヴェルヴと呼ばれていた時代の姿にも見える。
ドワーフの男は言う。
「何と言われようど、ワジにとっで、プリムディズ様さ、女神様みてぇなもんだで。あなだ様には感謝しでもしぎれまぜん。――我々ドワーフが、胸ぇ張っで太陽の元さ、居れるのは、プリブディズ様のお陰なんでずがら……」
プリムティスは溜息を吐く。
大げさすぎる、と。
もう出て行きたくなる所だったが。
今は、冒険者のヒヨッコ達の前だからそれは耐えた。
「勘違いしないで。私はただの冒険者で、この子達の付き添いよ」
「勇者様が、つぎぞいですか?」
「ええ。ちょっと、冒険者のヒヨッコ達でも育ててみようかと思ってね」
「おぉ、それは良いお考えですだ」
そして、シエナを促す。
「……シエナ。私の事は気にしないで、依頼の話があるでしょ」
シエナは、ハイ、と返事をして。
「依頼の話ですが――」
「ああ、それなら、村の中のダルトンってやつに聞くと良え。ワジは、タダのこの作業小屋の管理人だでな」
◇◇◇◇◇◇◇◇
そうして、丸太置き場からさらに奥の本当の村へ赴く。
その途中、出会う村人達は皆、確かに疲れた顔をしていた。
ランターナが鼻をスンスンとひくつかせ。
「……少し、匂いますね。――魔物の匂いか、ゴブリンの匂いか……。まだ新しい……」
「ランタナ、解るの?」
シエナの問いに、ハルハが答える。
「獣人種は、五感が優れているらしいですから……」
「なるほどね。……新しい、という事は昨日の夜にも、襲われたのかな?」
「どうでしょうか」
そんなシエナとランターナが話していると。
荒らされた畑を修繕している村人に呼び止められる。
「アンタら、ダルトンが呼んだ冒険者か?」
「ええ」
「助かる。ダルトンはこの先の丘の一軒家だ。今旦那は疲労で倒れているが、話くらいは聞けるはずだ」
そうして、案内された家を訪ね。
ダルトンという男性の家で話を聞く。
ベッドで寝ていたダルトンから聞いた話を要約すると――。
◎夜間に良く田畑の作物が盗まれる。
◎家に押し入り、女子供をさらおうとする。
◎自警団はもとより住民は皆、まともに寝ることも出来ず、疲労がたまっている。
◎風車の近くの空き家を冒険者の宿として使って構わない。
そんな話を聞き、ダルトンの家から出ると。
辺りはもう薄暗くなっていた。
もうすぐ日時は夕刻になる。
今からゴブリンの住処を探しに行くと日は暮れるだろう。
「どうする?」
ダルトンの家の前で、冒険者たちは相談し。
プリムティスは、家の壁にもたれ掛かって、見守る構えだ。
「……今から、倒しに行く?」
シエナのその言葉に、ハルハが言う。
「今から行けば、絶対に夜になるでしょ。相手はたぶん夜目が効きますよ? それに、その間に村が襲われたらどうするんです」
「一人、村の護衛に残るとかですか?」
ランターナの提案に。
腕を組んで見守っているプリムティスが口を挟む。
「それは辞めたほうがいいわね。冒険者は、極力分断されるのは避けるべきよ。それに、相手が本当にゴブリンかどうか、解らないでしょ? 数だって、まだ分かっていないんじゃないの?」
その言葉に、シエナ達は黙った。
確かに、依頼書にはゴブリンとあるし、村人も、ダルトンもゴブリンだと言っていた。
けど、皆が思い込んでいるという事もあるだろう。
出会ってみれば、別の魔物だという可能性も無くはない。
それに、何匹で村にやって来るか、敵の拠点に何匹潜んでいるかも分からないのだ。
一人で相手をしようというのは、驕りでしかない事だった。
皆が悩み。
また少し日が傾いたころ。
魔法使い姿の少女が切り出す。
「こういうのはどうです。――まず、この村で休息を取りつつ、ゴブリンの夜襲に全員で備える。そして、襲撃を退けた後、その形跡を辿って拠点の位置を暴く……」
それはハルハの提案だった。
シエナもランターナも、理に適っていると頷き納得する。
「なら、私が、夜の見張りをします。私は、獣人の中でも、夜目が効く方ですので。あと、ベンヌも夜目は効きますし、空から警戒して貰えば、見逃すことは無いはずです」
ランターナの言葉に、シエナが答える。
「解った。順番に、見張り番をしよう。ランタナは真夜中の担当だね」
そうして話はまとまり。
とりあえず、風車そばの空き家で備える手はずとなるのだった。




