急がばなんとか
まだグラン=ロザリアに滞在中のリンスレットの護衛をマナに託し。
シエナ、ハルハ、ランターナの三人。
加えて、甲冑の下に着る用のドレスに盾と槌だけを持参したプリムティスは、中央大陸の西岸地区に出発した。
徒歩で片道10日はかかる距離は、街道を繋ぐ乗合馬車や、レンタルの馬車。
もしくは、騎竜を人数分借りる等して往来する事も可能だ。
が。
今回はプリムティスの意向で徒歩で行くという。
それに難色を示したのはハルハだった。
「どうして徒歩なんですかぁ?」
不満たらたらで、口をとがらせるハルハに、プリムティスは言う。
「アンタ、一番安い乗合馬車の代金で、幾らかかるか知ってるわけ?」
それに、ハルハは目を泳がせる。
お嬢様育ちの引きこもり魔法使いがそんなのを知っているわけなかった。
そして、森から出たばかりで、徒歩を苦とも思わないエルフも同じだ。
だからランターナが代わりに答える。
エルフと人間とドワーフの女子に囲まれてご満悦中の歓喜をひた隠すポーカーフェイスで。
「例えばですが。一番質素な馬車で、10日間ですと片道で銀貨1枚から2枚。3人分で計算しますと、合計で銀貨3枚から5枚くらいと思われます」
平均では銀貨4.5枚。これは片道なので、往復だと9枚になる。
もしも、冒険者なので街道で賊に出くわした時に護衛も引き受ける。
などと交渉した場合、もう少し安くなるかもしれないが。
問題はそうではない。
「ランターナの言う通りよ」
そう賛同しつつ。
プリムティスは付け加える。
「――で、良く考えなさい、ハルハ? アンタ達が受けた依頼は、銀貨15枚よ。一見多く見えるかもしれないけど、3人で割ったら5枚になるわ。洞窟なら松明も油も消耗するでしょうし、食事だって要る。傷薬や、精神回復薬だって使うかもしれない。そこに馬車なんて使ったら……分かるわよね?」
冒険者は商売なのだ。
物見遊山のために旅をするのとは違う。
ましてやまだ鉄等級の冒険者ならば、なおさら報酬は高くない。
そもそもゴブリン退治で銀貨15枚はかなり高い方でもあるのだから。
高額な移動手段を軽々しく使うわけにはいかないのだった。
けれど、シエナも少し口を挟む。
「でも、10日も経ってしまって、依頼主は大丈夫かな?」
それに対し。
「……たぶん10日くらいは耐えられるわ。今向かっている村は、林業が中心の村で、男も女も屈強な者が多いし、自警団もある。依頼書には『このままでは仕事に支障が出る』って書いてあるしね」
何故、支障が出ることが、大丈夫な理由なのか?
ランターナは、おっきな三角耳を傾け、首をかしげるけれども。
ハルハは言う。
「……仕事に支障が出る程度なら、それほど切迫はしていないという判断ですか?」
街道をすれ違う通行人の目から逃れるため。
シエナ達の背中に隠れつつ、プリムティスは言う。
「そういうこと。村人がさらわれたとも、食われたとも書いていない。恐らくまだ死人が出るほどではないし、仕事をほっぽり出せば、まだ頑張る余力があるのよ」
それは、仮にも賢者の資格を持つプリムティスの知識と経験則のようなモノだった。
「なるほど。――さすがプリムさんです」
(その小さくて可愛らしい見た目からは想像を絶する御慧眼です)
とランターナは感心する。
そしてプリムティスは付け加える。
「――急ぎで来てほしいんなら、馬車分の金額を上乗せするべきだし、銅等級に依頼を出せば良いしね」
「そうか……」
けど、シエナは少し気がかりなままな様子だった。
出来うることなら、最速で助力に駆け付けたい。
なのに、悠長で徒歩で向かっているという状況がもどかしく。
そして、シエナの守人としての矜持にひっかかるからだ。
「別に急いだってかまわないわよ? 歩く速さをあげるくらいのことは出来るし、道中の宿場街でやっぱり馬車を借りたって良い。でもそれは、シエナ一人で決めて良い事でも無いでしょ?」
それに、シエナは悔しそうに言う。
「いや……ダメだね。どちらにせよ、今、10日分も馬車を借りるだけのお金が無いんだ」
それは、シエナだけではない。
ハルハもランターナも。
片道銀貨4.5枚なんて出す余裕はないのだ。
「そう。じゃあ、歩くしかないわね。なるべく早く」
「うん」
シエナは頷いた。
そして歩くペースを上げる。
ランターナはそれに軽くついていき。ベンヌは空を飛び。
ハルハは、文句を言いつつも従う。
その様子を見つつ、ドワーフは達観したように呟くのだ。
「……急く気持ちはわかるわよ。でも……焦った時にこそ、慎重に行かないとね……。死ぬのよ、駆け出しは、特にね」
それに。
プリムティスには、馬車代を貸すという選択肢だってあった。
けどそれはしない。
シエナ達がそう言ったなら、やぶさかでは無かったけれど。
今後依頼を受ければ、こんな状況は茶飯事だ。
いちいち、気にしていては、お金も気持ちも持たなくなる。
それにあくまで、プリムティスは『おまけ』に徹するつもりなのだから。




