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新しい生徒


 『瞑想』


 それは、魔法の習得において、最も基礎的なトレーニング法である。 


 なぜなら。 

 

 魔法とは霊的な物。

 魔素(マナ)も、現象核(オリジン)も、魔気(オド)も。

 すべて実態も無ければ、科学的でも、物理的でもない。

 

 魂、精神、霊体。

 それらに類する、目に見えぬ物質であり。

 されど、有ると断言できる物質でもある。


 魔術、そして天恵を扱うには、まず、それらを感じる感覚を養わねばならない。

 五感と呼ばれる感覚。

 六感と呼ばれる直感。


 さらに、目覚めさせ、磨き上げるべきは。

 七感と呼ばれる霊覚。

  

 だから、心を研ぎ澄ます。

 雑念を捨て。

 世界に肉体を溶かし。

 森羅万象の騒めきに、魂の耳を傾ける。


 

 目には見えないけれど。

 有るのだと、信じる。

 その信念が、精神の先端であり。

 その先端でもって、自己に秘めたる心の強さ――魔気(オド)を感じ。

 魔素(マナ)現象核(オリジン)を感じ取る。



 この感覚を得ることが。

 魔法使いへの第一歩。

 神官への第一歩。 


 最重要かつ、一番基礎的な鍛錬となる。


 これは、毎朝のトレーニングメニューであり。


 目を閉じているシエナに声が掛けられる。

 

「――シエナ、乱れているわよ。貴方の精神の落ち着きの無さが、大気を伝って魔素(マナ)を遠ざけてしまっている。一度深呼吸をして、もう一度心を研ぎ澄まして」


「はい」


 それは、監督役のマナの指摘だ。

 

「……貴方には前に言ったはずよ。魔素(マナ)現象核(オリジン)は、誘引するもの。魔力の質を高めたいのなら、静かに待つことを覚えなさい。それらに好かれる魔術師になるのよ」


「はい」


 再び精神を集中させるシエナ。

 野外の訓練所に静寂が訪れる。 


 そして、指摘を受けたシエナに対して、暗に優越感を感じてしまったハルハを、マナは見逃さなかった。

「ハルハ。貴方はシエナの事を気にし過ぎね。少し乱れたわ。正して」


「……うっ」

 それに、恥ずかしいやら、自尊心に刺さるわで。

 ハルハは再び心を研ぎ澄ますのに、少しの時間を要することになった。



「で、貴方はなぜ参加しているのかしら」


「え?」


 そして、実はプリムティスも『瞑想』に参加していた。

「だって、天恵も魔気(オド)は関係あるし、神官だって瞑想トレーニングはするじゃない?」


「はぁ」

 何故か気が抜けてしまったマナは。

 いつもよりも少し早めに、トレーニングの指導を切り上げた。



「もういいわ。――プリムの基礎鍛錬が終わったら、そのあとは術式図と、魔術文字(ルーン)についての座学よ。それじゃ……」


 

 マナが立ち去って行こうとする。

 そんな折。



「あ、あの……」


 それと鉢合わせるかのように。

 皆の所に、おっきな三角の獣耳少女が、尋ねて来た。

 



 瞑想のため、胡坐で座っていたプリムティスが立ち上がる。


「来たわね」



「え? 新入生……的な感じですか?」


 ハルハの疑問の通り。


 プリムティスは、シエナたちにまだ言っていなかった。

 単純に前もって言っておくのを忘れていたからだ。


「……ああ。ごめん。忘れてたわ。……今日からひとり増えます」


 それに、「貴方ね……」

 とマナは呆れ顔だ。


「仕事の段取りってもんがあるでしょう? 二人分しか用意してないわよ?」

 

 後ろでプリムティスに小言を言い始めるマナを尻目に。


 前のめりで、ガシっと新入生たる少女の手を取るのは、小柄なエルフだ。

「名前は? 私はシエナだよ? キミは、獣人(ライカン)種族かな? 金狐人(ウェアフォックス)みたいだけど?」


 おっきい耳、可愛いね。その鳥は? お土産?

  


 とかなんとか続く言葉の機銃掃射に、獣人の少女は顔を真っ赤にして慌てて。

 肩に止まっていた白い鷹が、バサバサとシエナを威嚇する。

 

 当の本人は。

「あ、いえ、その……シエナさん……? 名前、は、ラ、ランターナ、です。――はい……」

 とシドロモドロながら、名を名乗り。

(ひ、ひぃ……! いきなり、手を握るなんて、ヲレの心臓(ハート)を爆破させて殺すつもりですかっ! あと顔近っ、しかもエルフ、かわ、小柄なの刺さるッ)


 そして。


「あなたはもう、またそうやって人を困らせるんですから! いい加減、学習して!」

 ハルハが、シエナの手を引き、体重をめいいっぱいかけてずるずると引きはがす。


(嗚呼。黒い魔女っ子の、お姉さんムーブ。力足りてないとこも、良きぃ!) 



「というわけで」

 とプリムティスが仕切り直し。


「――今日から、アンタ達と、一緒に頑張る、ランターナ・マグノリアよ。一応、Fランクの弓使い(アーチャー)だから――後衛? で良いのよね?」


 ランターナは、その言葉尻に問われ。


「……で、ですかね?」


 と、おっきな耳を傾け、首をかしげる。



 さらにプリムティスは告げる。

「じゃ、これから身体の基礎トレーニングに移るから、アンタもいらっしゃい」


「はい……!」

 

 それに、ランターナは快諾するのだった。 


 

 


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