学び舎②
リンスレットが事前に言っていた通り。
内部は、
幾つもの教室と準備室、食堂、厨房、魔術を使った氷室、宿直室、執務室、そして用途の定まっていない幾つかの部屋――と、一つの組織として必要な区画が軒並み網羅されていた。
しかし、執務室に案内され、あちこちを見ている途中。
プリムティスは、壁に隠されたスイッチを目ざとく見つけてしまう。
何だろうか、と、一応罠などが無い事を確かめて、押した時だ。
ゴゴゴ、と音を立てて書棚がスライドし。
別室への入り口が姿を見せる。
「あ……」
リンスレットが声を上げる間もなく、入り口から内部を見たプリムティスは。
立ち尽くした。
「――なによこれ」
執務室の隣には。
可愛い天蓋付きの寝台を含む、桜色テイストな部屋が設えてあった。
しかも、他の部屋は未だ基本的なテーブルや椅子などしか置かれていない、未完成なままであるのに対し、その部屋だけは、完全に完成されていた。
まだ奥に扉が見えることから、厠や風呂などの水回りも完備されていそうであり。
調度品、絵画、絨毯、冷暖房、のなにもかも。
統一されたカラーは、白と桜色の甘みのあるインテリアだ。
建物全体が醸し出すシックで落ち着いた色彩と雰囲気のなか。
その部屋だけが異質だった。
恥ずかしそうにリンスレットは言う。
「……わたくしの、部屋……」
なんでやねんと。
プリムティスは振り返る。
「なんでよ。アンタの部屋ここに作る意味無いでしょうに?」
しかし、リンスレットは姿勢を正して真顔で言う。
「いえ。この事業は既に、ファルラント国、王女管轄の国家指定事業ですから、監督役として、度々こちらに参ります」
ニコリ、と笑顔を向けるリンスレットに。
プリムティスは頭を抱えそうになりつつ。
そっとピンク色の扉を閉めた。
見なかったことにしよう、聞かなかったことにしよう。
リンスレットの後ろで、国家事業だと聞いて目を丸くしているシエナとハルハ。
その横をすり抜け、さっさと次に行こうとしたところ。
プリムティスは再び振り返る。
いや。
「待って、度々?」
「ええ」
その度にあの豪勢な目立つ馬車で乗り付けるというのか。
プリムティスの心配をよそに。
「――心配には及びません。ちゃんと護衛も付きますし、一度の滞在で一週間くらいは留まるつもりです」
――どうして人生は、こう、思っても見ない方向にどんどんと転がっていってしまうのだろうか。
小さな塾の筈だったのに。
そして、主となる建物の他に。
敷地内には、生徒用の宿舎、礼拝堂があり。
練習用の武具を納める保管庫を抜け、屋内訓練場を抜け。
さらに屋根付きの廊下から、そのまま出ていけるただっぴろい広場に出る。
屋外訓練場だ。
壁も強固で高くされており。
剣の稽古にも、弓の稽古にも、魔術の稽古にだって使えるだろう。
その最奥には、ポツンと倉庫が立っている。
中には、プリムティスが掘っ立て小屋に入れていた物達が入れられていた。
「まったく、案内だけでこんなに時間がかかるとはね」
その小屋で、案内は全てだった。
「どうでしたか、プリムちゃん?」
「どう、と言われてもね……」
いろいろ、圧倒され過ぎて良いとも悪いともいえやしない。
まぁでも。
「――これでやっと、明日から訓練が出来そうなのは確かだけど……」
プリムティスは。
新築の建物を見上げて、思う。
やらなければならないことは、沢山ある。
シエナにもっと剣術を教えて。
マナにはハルハやシエナに魔術を教えてもらい。
問題の弓使いもどうにかしないといけないだろう。
そして。
鉄等級の依頼も少しづつ受けてもらい、実績を積み、銅等級を目指してもらう。
難しい場面の突破の手段。
生き残るための考え方。
まだまだ教えたいことが沢山ある。
ひとりひとり、見ていきたいのだ。
こんなに大きな建物で、多くの生徒を抱えるのは想定していない。
できるのだろうか。
王女に期待されているような事が……。
「――とりあえず、あのヒヨッコたちをどうにしかしたい。――この建物を活かせるようになるのはまだ先になると思うけど、良いかしら、それで?」
その言葉に。
王女は、快く頷いた。
「ええ勿論。――他に必要なバックアップがあれば教えてください」
まぁしょうがない。建ってしまったのだから。
あとは、手探りでもなんとかするしかない。
「やるだけやってみるわ」
プリムティスに言えるのはそれだけだ。




