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学び舎①


 

  

 到着すると、かけられていた幕や、足場はもう無く。

 完全に完成した建造物が建っていた。


 

 敷地を囲う壁。

 そこに備えられた、ハイセンスなデザインの鉄門扉。   

 門扉の隙間、壁の切れ目からは既にその有名なデザイナーにでも頼んだのかと思わしき、庭園と、大仰な建物が垣間見える。 


 そんな景観を、馬車の窓越しに眺め。

 息をのむシエナとハルハ。

 そして少しして、馬車が門前に着くと。


「はい、プリムちゃん、開けて来て」

 

 対岸の席に座る小柄な少女。

 ――桃色の髪を結び、ドレスに可愛い靴を履いた、余所行き姿なドワーフの手に、王女からカギが渡される。

 鉄の門扉を開くためのカギだ。 


「……まったく、仰々しいわね」


 文句を言いながら、プリムティスは馬車を降り、門を開けに行く。

 カギが開けられ。

 プリムティスが押す事によって、黒い、屋敷の門のようなソレがレールを滑り。

 開門される。

 

 門の傍には、警備用と思わしき無人の建物が備えられ。

 そうして、馬車が門をくぐれば。

 

 短い庭園が作られていて。

 並木、石畳、その両サイドを彩る花畑、噴水。

 その色彩が姿を現す。

 

 その奥には、王族の屋敷か、大聖堂か、華美な砦か。

 そんな建造物が聳えていた。


「……これのどこが塾なんだか」

 馬車に飛び乗って戻ってきたプリムティスはさっそく悪態をつく。


 


 屋根付きのエントランス。

 そこに横付けされた馬車から、面々が降車する。



「こ、ここで訓練をするんですか……?」

 ハルハは、レリーフさえも刻まれたその建物を見上げつつ。

 シエナは、

「……さすが人間族(ヒュム)の建物だ」

 感心しつつも、周囲を見渡し。

「……けど、この庭で戦闘訓練する気?」

 まさか、花畑や美しく整備された石畳の上で殴り合うのだろうか、と。

 シエナは戦闘訓練など行える空間が見当たらないのを気にした。

 


「大丈夫です、野外訓練はこの建物の裏で行えます。一つづつ案内しますね」

 それに、王女様が率先して引率する素振りだ。

 普通に考えてあり得ないことだが。

 

 しかし、先に玄関の門に手をかけたのはリンスレットだった。

 万が一罠でも仕掛けられていたらどうするんだと、プリムティスは思うが。


 けれど。


「あれ?」

 と、マスターキーを手にする、リンスレットは声をあげる。

 かぎを開ける前から、扉は開いている。


「どうしたの?」

 プリムティスが気にかける。

 そして。


 賊か!?

 と、考えたプリムティスがリンスレットを押しのける形で、咄嗟に扉をあけ放ち。

 跳び入った広いフロア。

 前転を交えながら、最大限の警戒心と格闘態勢で躍り出る。

  

 けど。


「あら、いらっしゃい?」


「あ、ぷりむー!」


 フロア入ってすぐの壁を切り取ったようなカウンターには、既に先客が座っていた。

 おそらくそこは、受付か、あるいは売店を想定した設計の場所だろう。


 覚えのある声に、気合を入れて吶喊したプリムティスは脱力する。

 

 先客は二人だった。

 一人は、変わったデザインの魔術帽子、ケープとフード付きの外套、フリル満載のミニ丈のドレス。


 もう一人は、真っ白な髪と服装の、女児。


「マナ……!?」

 それにミラだ。

 その二人は、カウンターから奥の部屋に、何やら物を並べているような様子だった。


 プリムティスの後から、リンスレット、シエナ、ハルハが入ってくる。


「あら? この方々は?」

「……私の知り合いよ」


 プリムティスは、この二人を合わせたくはなかった。

 片や、一国の存亡を担う王族。

 片や、一時は世界を脅かした大魔王。


 一度ボロを出せば、水と油になりかねない立場の二人だ。


「――頼むからややこしくしないでよ」


 そんなプリムティスの独白は、さて。

 ふたりに届いているのかどうか。 



 とりあえず、プリムティスはマナに詰め寄る。

 そして小声で攻める。

「なんで居るのよ?」


「心外だわ。――魔法の先生をしろって言ったのは貴方じゃない」

「いや、そういう事じゃなくてね」

 一度、プリムティスは気を取り直し。

 言いなおす。


「……カギ、かかってたでしょうが」


「開けたわ」


 開けたわ、じゃないのよ。

 何しれっと言ってんのよ。

 プリムティスは呆れる。

 そこに、あけすけに言うのだ、マナは。

「あんな魔術的なセキュリティの無い扉くらい、最下級の『開錠の術式(アンロック)』で、十分だったわよ? ――もう少し、用心したほうが良いんじゃないかしら?」


 なんだか腹立つな。


 とプリムティスは思いつつ。

 そこは我慢して。

 耳打ちするかのように。

「ミラも連れてきたわけ?」


「ええ。私が調達したお菓子じゃ、お気に召さないようでね。貴方があのお菓子はもう無いというから……」

 ライオネル饅頭は非売品だし、王女か国王に依頼しないと調達不可な代物だ。

 だから、街のおすすめの店を紹介しておいたのだが。

 それでもダメだったか。


 そんなタイミングで。


「まな、まな!!」


 奥で、森の魔道具店から持って来た荷物や薬品を整理していたミラが走ってくる。

 カウンターで話をしている二人の所に。

 その手には、見慣れた歪な饅頭が握られていた。


「あった、あった、まな! すこーぴおん! 奥にいっぱいあるー」

 


 まさかの、ライオネル饅頭!?

 そう思うプリムティスに。

 後ろから、リスンレットの声がかかる。


「――それは、もともとここで販売するつもりで運ばせたものよ」


「城下じゃないの?」

 聞いた話では、城下で販売すると言っていたが?


「馬車で試食してもらったでしょう? その時の感想を伝えたら、お父様がショックを受けてしまって」

 

 何か言ったかしら。

 とプリムティスは少し冷や汗をかき。

 耳を欹てているシエナとハルハは、ドキッっとする。 

 

 リンスレットは言う。

「――カニやクモやサソリにしか見えないみたいですね。って言ったら、どうやらあのデザインはお父様の直筆の絵を元にしてたみたいで。……だから暫くはデザイン面の修正をかける事になったのだけれど、もう作ってしまった分が沢山在庫になってしまったのよ」

  

 

 まさか。

 あの暴言がダイレクトに進言されるとは思っていなかった。

 プリムティスはともかく。

 シエナとハルハは、気が気ではなくなった。


「って、いや、ちょっと待ってよ。生徒2人しかいないのよ? 誰が買うのよ」


「さぁ?」 

 リンスレットは笑顔だ。


 さぁ、って……。

「どれだけ残ってるのか知らないけどさ……」

「船舶積荷用の木箱で、10箱くらいです」

 めちゃくちゃあんじゃないのよ!

 とプリムティスは突っ込む気にもなれない中。

 リンスレットは言う。

「一応、宮廷神官に『腐敗防止(プリザーヴェイション)』は掛けさせてあるので……、半年くらいは持つと思いますけど?」


 バカ言わないでよ。

 船舶用の木箱って、業務用のクレーンで船舶に載せるくらい大きいやつでしょ。

 これだから、王族のスケール感は……。

 とプリムティスは疲れた顔だ。


「ひとついくらなの?」

 そこにマナが口を挟む。


「10個で、銅貨2枚の予定です」

 つまり、鋼貨(こうか)200枚(1個=20枚)だ。

 

 リンスレットから値段を聞いて。

 マナは言う。


「全部買い取っていいかしら?」

「えっ?」

 その場の全員が驚きに口をそろえ、唖然とする。

 それは。

 シエナとハルハは、あのへんな饅頭を?

 リンスレットとプリムティスは、船舶用木箱10箱全部!?

 ミラは、やったぁ!

 というそれぞれの意味でだ。


 そして、マナは無造作に金貨を取り出す。

 じゃらりと。


「100枚で足りるかしら? 大金貨もあるわよ?」

 金貨100枚は、鋼貨(こうか)に直すと100万枚。

 大金貨に至っては、1枚で1000万枚になる。

 もはや、商業取引のレベルだ。


 しかし、様々な経費。

 例えば、『腐敗防止(プリザーヴェイション)』の施術費用、運搬費、木箱代、製造コスト。

 それらを差し引いても、金貨100枚は多すぎる。


「多く見積もっても、金貨30枚あれば十分ですよ。良いのですか?」

「ええ」


 そうして、饅頭の件は一段落し。


 プリムティスは、学校案内に戻るのだった。

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