ロイヤルアサシン
翌日。
自宅で寝ていたプリムティスは、シエナに叩き起こされた。
何事だと、寝ぐせに、寝間着のまま出ていくと。
「ごきげんよう、プリムちゃん。――寝起き可愛い」
と、リビングで出迎えたのは、豪華なお出かけ用ドレス姿のリンスレットだった。
プリムティスは思わず。
「げっ!?」
と失礼な驚き方をしてしまう。
相手は一国の王女であるのに。
リンスレットは、うふふ、と上品に笑い。
「その失礼な物言いは、眼福だったので、聞かなかったことに致しますね」
さらに、お父様に自慢しよう、と小声で言っている。
寝間着姿がそんなに珍しいのか、と。
「なんなのよ、もう!」
ガシガシ、と頭を掻き。
リビングの椅子にどかりと座るプリムティス。
そして、戦々恐々で、香茶を準備しテーブルに置くシエナ。
「……ど、どうぞ」
ロイヤルな方に、到底見合わないセール品のお茶だけど、今はそれしか無くて。
緊張でドキドキのシエナ。
その視線は、リビングから見える廊下の先。
家具に身を隠し、三角巾、エプロン、ハタキ姿のまま様子を見ているハルハを睨む。
自分だけ安全圏に居るなんて、ズルイ、と。
「ありがとう、シエナちゃん、……で合っていますよね?」
「え、ええ。サヨウです……」
シエナに微笑みかけ、礼を言っているリンスレットに。
プリムティスは、ムスッと言う。
「何の用なわけ……?」
リンスレットは、座る様子も、香茶に手を付ける様子もなく。
「今日完成すると伺ったので、視察です」
「かんせい?」
一瞬プリムティスは考えるが。すぐに思い当たる。
修道院跡の事に違いない。
「ああ、そういえばアンタ……。勝手に建てたわね?」
建物は工事の間、ずっと布に覆われていたため中がどうなっているか不明だ。
しかし、その大きさは元の修道院くらいあった。
まるで学校のような大きさだ。
塾から初めて、こっそりこじんまりした処から試しにやってみようと思っていただけのプリムティスは、不満だった。
リンスレットは、悪びれもせずに。
「ええ。でも、ちゃんとプリムちゃんの設計の通りですよ?」
「何が、設計の通りなんだか。寸法も書いてあったでしょうに」
プリムティスが職人ギルドに渡した塾の建物の見取り図。
そこに記載した寸法よりも立ても、横も、高さも、目算で5倍は大きいモノなのだ。
設計通りとは片腹痛い。あと頭も痛いプリムティスだ。
「その通りの筈です。ただ、他の区画や建物を増設してあるだけです。生徒用の宿舎に、執務室、倉庫に、食堂、台所、宿直室、礼拝堂、厠、用途の決まっていない部屋が6つ――……。ほら、何もおかしくないですよ?」
プリムティスは疲れたように溜息を吐く。
「バカ言わないでよ」
増設し過ぎ。
もとい、もうプリムティスの描いていた座学用の建物がまるでおまけだ。
まぁ、もう建ってしまったならしょうがない。
プリムティスは珈琲派だが、今朝はリンスレットに合わせ。
淹れられた香茶を飲む。
「それで、私の家まで来たという事は、私も付き添うという事ね?」
「ええ。せっかくのお披露目です。それに、主賓はプリムちゃん……そして生徒の皆さんですから」
ね?
というリンスレットの視線は、シエナに。
そして、頭隠して尻隠さずでバレバレのハルハに向けられる。
プリムティスは観念した。
でもその前に。
「――朝食は?」
それはプリムティスがリンスレットに言った言葉で。
シエナはとたんに青ざめる。
まさか、一緒に食べる気ですかと。
たのむからNOと言ってくれ。
とシエナはどきまぎだが。
リンスレットは、両の掌をパチンと合わせ。
良いのですか!?
すごく上機嫌に返事をする。
シエナの胃がキリキリと痛み出した。
ちなみに、キッチンでは煮込んでいる途中のスープと、市場で買ったパン、チーズ、バターが用意され、後は目玉焼きを焼くだけの状態だ。
しかし、完全に庶民の料理であり、シエナがこの街に来て学んだばかりのシティでアーバンで、モダンな料理だ。まだ自信はない。
「……じゃあ座んなさいなリンスレット。……シエナ、お願い」
プリムティスの最後の審判が下され。
シエナは、
「わがりまじだ」
と死にそうに返事をした。
そうして結局。
プリムティス、リンスレット、シエナ、ハルハ、そして横付けされた馬車で待機していた御者の5人分の料理が準備された。
普通、御者は王女と食卓を共にするなんて言う地獄みたいな扱いは受けない。
なのに、今回は特例で、5人で卓を囲むことになった。
シエナは、雑な料理ともてなしで申し訳ないという地獄を。
御者は、遥か上の身分の者達と食事をするという生きた心地のしない地獄を。
互いに共有することになった。
ハルハは、元々が育ちのいいお嬢様であるため。
一番いつも通りだった。
ただ、余計な事を言わず、黙々と食事をとるだけで。
パンをかじるプリムティスは。
ナイフとフォークが一組しか無い事に困惑しているリンスレットに言う。
「……食事が終わったら、着替えるわ」
「あ、あの不格好な革鎧はダメですよプリムちゃん。ちゃんとオメカシしてくださいね。馬車で送りますから」
「はいはい」
そうして、スプーンですくったスープを飲むリンスレットが。
「美味しいですね、これ」
そう言った事で、シエナの心は少しだけ救われたのだった。
やがて、食事を終えた皆は、馬車で修道院跡に向かった。
完成した建物を見るために――。




