ランターナ
ある日。
プリムティスは、浅い森を真っ直ぐに伸びる長い石段を上り、上り切った先の、平らな広場を抜け、まるで城壁のような建物の前にやってきた。
プリムティスは、全身革鎧のブカブカの兜を取り。
まるめて突っ込んでいた桃色の髪を振りほどきながら。
そして、その門の上方にある矢倉の見張りに、自らの等級証を見せ、合図を送る。
この場所は、アーチャーギルドと呼ばれ、街から離れた場所に位置している。
場所的にはどちらかと言えば、ファルラントの王城の建つ丘に近く。
街よりも遥か高台にある。
なぜこんな場所までプリムティスが来たのか。
それは勿論、ギルド長から紹介された問題児と、そこで会う約束をしたからだ。
暫く待っていると、
ギギギギギギ、と、機械が駆動する音がして、太く頑丈なゲートが上げられ、プリムティスを出迎える。
なぜこんなにも厳重なのか。
その理由は。
このアーチャーギルドが。
国の兵士の弓、矢の補完、メンテナンス、受注、販売を請け負っており、弓の試射も兼ねた弓術の稽古も可能な場所だからだ。
ついでに、弓士資格試験と資格証の発行も行っているというわけで、国家的にも未だに重要拠点の一つであるため、強固な構えを取っている。
カツリ、カツリ。
と、超厚底強化革靴で足を踏み入れ、建物の中に入れば。
内部もやはり堅牢に設計された石作りで、冷たく薄暗い空気が、規則正しく壁に設けられた永久魔灯に仄かに照らされている。
その奥に見えるカウンター。
プリムティスは、その受付要員に話しかける。
「……ランターナ・マグノリアって娘来てる?」
すると、そのタイミングで別のギルド員の女性が、やってきた。
「プリムティス様ですね。冒険者ギルドから話は伺っております。――こちらへ」
プリムティスは、案内に従ってついていく。
通されたのは、真ん中に大きなテーブルのある、やや武骨ではあるが整えられた一室だった。
およそ、作戦会議等に使えそうな場所で、壁には弓が幾つもかけられ、剣や槍なども置かれている。
そうして、ギルド員がそこに併設された控室のような部屋、――その閉まっている扉越しに声をかけた。
「ランターナ・マグノリア、プリムティス様がお見えです」
――と。
しかし、なかなか出てこない。
どうしたのか、とプリムティスがギルド員の女性の顔色を窺っていると。
ゆっくりと扉が開き、そろっとその姿が現れた。
内股で、うつむき、手をもじもじしている。
その少女は、聞いていた通り、獣人の少女だった。
大きな尖がった耳に、外ハネのクセっ毛なハニーゴールドの髪と同色の太いフサフサの尻尾。
見た感じでは、狐種の獣人に思われる。
そこに、軽装の革鎧を身に着け、長弓と矢筒を背負い、腰にはカバンを提げ。
――頭に真っ白な猛禽類を乗せていた。
プリムティスはその猛禽類の眼光を凝視する。
「……こいつ」
その呟きは、その鳥に対して。
――この猛禽類は唯の鳥ではない。
一見は、ただの猛禽類だ。
けれど、恐らく違う。
ほんの少し。
……その奥に隠された禍々しさのようなものを、プリムティスは感じ取っていた。
真っ白な色味とは真逆の、黒さを。
それが、何かは解らない。
ただ、神官としての直感と、賢者技能による見識がそう思わせていた。
まぁ、しかし少女の方は、ちゃんとアーチャーな見た目だし、見た感じまだ問題児には思えないけれど。
プリムティスは1歩歩み寄る。
「――プリムティス・アルフヴェインよ。ギルドから聞いていると思うけど、アンタを育てるよう言われてね?」
それに、ランターナは少しビクリとして、後退るような素振りで。
「あ、お……、よ、はい。――ヨロシク、オネガイしま、す」
「え、ええ」
プリムティスは戸惑う。
これほど、引っ込み思案で人見知りな予想はしていなかったからだ。
女の子が好きだって聞いているし、アーチャーなのにぶん殴ると聞いていた。
だが、少女はとても華奢だ。殴るとはとても――。
いや、足腰に目を向ければそうでもない。
腰回り……いわゆるヒップは大きく、太腿も太く、脚はしっかりしている。
――殴る、というのは、なにも拳を使うわけでは無いのかも。
そう思いつつ。
少女に尋ねる。
「頭のそれは?」
「こ、この子は、あ、あたしの、オトモダチ、『ベンヌ』です」
友達、か。
では今はランターナの言葉を信じよう。
プリムティスはそう思いつつ。
「ねえ、ここは弓の訓練所もあるわよね?」
そばで見守っているギルド員の女性に話しかけると、
「はい。当ギルドの資格証をお持ちでしたら、誰でも利用できます」
「私も見学できるかしら?」
「勿論です。そもそも、プリムティス様は国家所属の英雄でございますので、その制約は最初から適用外です」
ならば問題はあるまい。
プリムティスは、まだうつむき加減で1回も目を合わせてくれない少女に言う。
「一回見せてくれないかしら、アンタの弓の腕前……?」
「え……? あ、は、はい……!」
――そんな少女は、引っ込み思案なのでは無かった。
確かに、人見知りな所はあったが。
(アッハァァーーーァ!! 伝説の勇者様が、こ、こんなちっちゃくて可愛い女の子だったなんて……! 存在も、見た目も、何もかもが、眩しすぎてとても直視できないぃぃぃ! ……しかもそれがヲレの先生なんて……感無量で死ぬゥッ)
と思っているだけだった。




