問題児
現在は、既に正午を過ぎた時間帯だ。
冒険者ギルドに残っている依頼は殆ど無く、一番冒険者の割合が高い鉄等級の依頼となると、1つも残っていない。
しかし、冒険者になりたてのシエナとハルハは、1階で依頼書の張られた掲示板を、興味津々に見つめている。
そんな二人を視界に納めながら。
プリムティスは、ギルド内の併設の酒場で、ギルド長の話を聞く。
「本当に、酒はいらないのかね?」
「ええ、今日は大丈夫よ」
やけに、酒や食べ物を進めてくるギルド長を制し。
プリムティスは本題を要求する。
「で、その問題児って?」
「うむ、それがだな……」
立っていたギルド長は、椅子に座り直し。
改めて話し出す。
「――件の冒険者というのが、獣人種の女の子でな、Fランクの弓使いなんだがね」
「ということは、鉄等級か……」
Fランクと言えば、シエナとハルハより1ランク上だ。
しかし次の等級である銅等級はDからなので、等級はシエナ達と変わらない。
プリムティスは注文しておいた珈琲を受け取りつつ。
「……どう問題児なわけ?」
「弓が下手だ」
「はぁ?」
かぶっている兜を少しずらし。
飲もうと傾けたカップの手が、思わず止まる。
そしてギルド長の渋い顔が、なおさら渋い表情になっているのを、視線で見る。
プリムティスはふざけて居るのかと思った。
たった今、ギルド長は言ったはずだ――。
「だって、今、弓使いだって……」
「ああ。その通りだ。しっかりFランクの資格証も持っている」
「じゃあなんでよ?」
「……精密な射撃が苦手なんだ」
プリムティスは混乱する。
それでどうして試験を突破したのか、と。
筆記はともかく、的に当てられないんじゃ合格なんて無理だ。
サバイバル試験も、一度合格したランクなら免除されるが。
それでも1度は受からなければならない。
弓使いが射撃が下手で、どう突破したのか。
「でも、依頼1回くらい受けたことあんでしょ? どうしてたの?」
「……殴っていたらしい」
「はぁ?」
「殴っていたらしいんだ」
「良いわよ、2回も言わなくて。なぐるって……、後衛でしょうが」
「それが、前衛に混じって殴っていたそうだ」
「ランクの実技試験は? さすがに殴ったら失格よね?」
「問い合わせたところ、特殊な矢を使っていたそうだが……?」
「なにそれ」
プリムティスは胡乱な表情だ。
「さぁ、そこまではな。しかし、それで的には当てたのだろう」
「魔物にもそうしなさいよ?」
「何かできない理由でもあるのかもな……?」
はぁ。
とため息を吐き。
少し冷めた珈琲を飲み。
「――確かに問題だわ」
「まだあるんだ……」
プリムティスの顔が引きつる。
まだ、って、問題が? これ以上!?
ギルド長を、無言で見たプリムティスの顔がそう言っていたのだろう。
「そうだ。そうなのだよ。アルフヴェイン殿」
しみじみ頷かれる。
そしてなぜか、ギルド長が勝手に頼んでくれたパフェにケーキにプリンに、珈琲のお代わりに、果実酒まで。
それらがテーブルに並べられるのを見つつ。
甘味は少しで良いタイプのプリムティスは、その大量の甘ったるい香りと、追加の問題児情報に、少し辟易しつつ。
プリムティスは投げやりに問う。
「いいわ、話して」
ギルド長は咳払いし。
「その冒険者は……人間がな……」
「ああ……」
皆まで言わなくとも。
それは、プリムティスは察することが出来た。
獣人と言えば、ガルディオン西部大陸や、イーズフェル東部大陸で、召使いや低賃金の労働者、あるいは奴隷のような扱いを受けていた過去がある。
魔王軍の討伐に先んじて犠牲にされた経緯から、今では待遇改善が進んでいるそうだが。
それでもまだ、その時の遺恨は根強く。
人間を良く思っていない獣人は多い。
ただ、嫌いにもいろいろある。
攻撃的だったり、寄り付かなかったり、いう事を聞かなかったり。
千差万別の嫌い方があろう。
プリムティスは聞く。
「……どういう……」
嫌い方なの? その言葉に、かぶってくるギルド長の言葉。
「好きなんだ」
は?
好き??
「え?」
「好きなんだ」
「二回も言わなくていいわ、鬱陶しい。なんで? 獣人でしょ?」
「まあ、厳密に言うと、若い女の子が大好きだそうでな」
「は、はぁ……?」
もはやまともに訊くべきか迷いつつ。
気もそぞろでプリムティスは答える。
「まぁ、そういうわけで、そっちで引き取ってくれ」
すげぇ笑顔でギルド長は迫る。
プリムティスは察した。
あ、これ……厄介払いに使われてる……って。
そして分かった。
なぜギルド長がこんなに甘い料理を頼んだのか。
「わたしは覚えているぞ、アルフヴェイン殿。問題児を御所望だと、この前言ってたよなぁ? ほれ、ご注文の問題児だ。ありがたく受け取ってくれないかね?」
「っく!」
しかし、要求したのは事実だ。
塾を始めたいから、紹介してほしいと、確かに言った。
しょうがない。
とプリムティスは項垂れつつ。
「とりあえず、会わせてもらえるかしら?」
後日、会うことになったのだった。




