試験開始 2日目ーB
ハルハはまだひとりだった。
それゆえ。
テントは上手く建てられずに、ぐしゃぐしゃで。
結局見つけた洞穴で夜風をしのぎ。
魔術で起こした火で焼いているのは。
仕留めて粉々になった肉と、採集した山菜たち。
一度、洞穴の中で火を起こして煙だらけになってしまったため。
今回は穴の外で行っているのだけども。
「ハァ、最悪」
ハルハは溜息を吐く。
煙で臭くなってしまった魔術服も。
泥で汚れた魔術帽子も。
火加減を間違えて燃え移って焦げてしまっているクシャクシャのテントも。
なんとかなってはいるけれども、上手くいってるわけじゃないという状態ばかり。
そして。
棒キレに刺して焼いていた肉を、手に取った瞬間。
バサバサッ
突然飛んできた猛禽類にさらわれた。
ハルハは、肉を失い。
勢い余って散らかされた結果、まだ半生だった肉や山菜も吹き散らされて地面にベチャリと転がされてしまった。
「うっ!」
悲しみと苛立ちが、ハルハにこみあげる。
怒りが、じわじわと浸透していき。
「もー! なんでよ! なんなのよー!!」
だんだん、とハルハは地団太を踏む。
けれど。
これは全部冒険者の苦労。
きっとその片鱗で序の口に違いない。
ハルハは、思い直す。
「いいもん、まだ木の実が残ってるし」
肉と山菜はだめになったけど。
果物や木の実は未だ無事だ。
とりあえずそれで凌ごう。
そう思いつつも。
ハルハのお腹はきゅるきゅると空腹を訴えるのだった。
その夜。
洞窟の中で寝転がっているハルハは――。
全く寝る事が出来ないでいた。
暗闇。
蟲の声。
鳥の声。
洞窟の奥から何かが這い出てくるのではないかという畏怖。
寒さ。
地面のデコボコの感触。
孤独。
魔素と現象核が大気をさ迷う感覚。
そして、小妖魔の洞窟で乱暴をされかけた時のフラッシュバック。
真横で、女性神官が遊ばれていた時の恐怖と無力感。
あらゆるものが、齢15歳の少女の五感を刺激してくる。
寝れるはずが無かった。
ここには、プリムティスという安心を与えてくれる存在は無い。
無論、マナも、シエナも……。
そして思い出す。
場所は違うけれど、シエナもこの山岳地帯で試験を受けているはずだ。
「――今頃何してるんだろう」
ハルハは、とあるエルフの事を考えながら、ひたすらに無事に夜が明けるのを待った。
⌛⌛⌛⌛⌛⌛⌛⌛
翌朝。
ハルハは、洞窟を離れ。
もう一度川沿いを歩いていた。
急な勾配を上り。
下手くそなロープ捌きで、なんとか崖を登攀し。
寝不足と疲労を感じながら。
見つけた河川をひたすらにたどって歩いた。
テントもボロボロで。
洞窟も安心できない。
だから、歩き続けていた。
そうして、そろそろ限界かもと思った時。
河原で話声を耳にする。
それは、革装備を身に着けた金髪で小柄なエルフ――。
ハルハにとっては見知った声であり、見知った姿。
「シエ……」
思わず駆け寄ろうとしてしまった瞬間。
その隣に。
青い切り揃えられた髪と、ミニ丈の民族風な衣装を身に着けた女性が居て。
ふたりは楽しそうに話をしているようだった。
「……だ、だれ……?」
だから、走り寄ることは叶わず。
樹木の陰から様子を見つめる事しかできなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
溜息。
「まったく、見ちゃいられないわね」
そんな独白と共に、ハルハの様子が見れる位置を保持しながら。
森の中へ、漆黒の魔女姿が舞い降りる。
魔女には今、気配や物音を消す魔術がかかっている。
だから気づかなかった。
「いたぁ!?」
魔女は、真下の不審者に気が付かず。
不審者は、真上から舞い降りる気配に気づかなかった。
「あら、ごめんなさい」
踏みつけにされた、全身革鎧のちびっ子が抗議の視線を魔女に向ける。
そして――。
「あっ!? アンタ……!」
「ああ、なんだ、貴方だったの……小童」
そう。
魔女はマナで、不審者はプリムティスだった。
「なにやってんのよ、こんなところで! ここ部外者立ち入り禁止よ」
「それは、貴方もでしょう。――その格好、まるで不審者のようだわ」
「うるさいなぁ! 私は仮にもこの国の英雄なんだから、なんとでもなるわよ。でもアンタはヤバイわよ? 大魔王様?」
「ふん。良いわよ。――ほんとうは大魔王は倒されていないって、私が証明してあげましょうか?」
バチバチ。
火花散る二人の視線と言葉。
そして最終日が開始される。




