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試験開始 2日目ーA



「すいません……」


 エルテルッテはしょげていた。

 ほぼ準備せずに参加したらしく。


 野営用のテントも無いという。

 なので、シエナの一人用を交代で使うことになった。


 でもシエナは思う。

 プリムティスに前もっていろいろと教えてもらわなかったら。

 きっとシエナもエルテルッテと同じ状況だったかもしれないから。

 

 シエナは微笑で答える。

「大丈夫だよ。どうせ、夜は交代で夜番することにしたんだし」

「ありがとうございます……」

 


 その日の夕刻。

 エルテルッテは、野営場所近くの河で、大量の魚を獲ってきた。

 長い木の枝に、それが何匹も並べて串刺されている。

 全部で10匹ほどだろうか、地面に置かれたそれらは、一匹一匹は小振りだけれど、まだ息があり新鮮だ。


「どうしたのこれ?」

 シエナが尋ねると、おずおずと答える。


「テ、テントのお礼です。食料くらいは、調達します」

「そっか。じゃあ、これで貸し借りはチャラだね」



 というわけで。

 今、野営地には、黙々と香ばしい煙と香りが立ち込めていた。


 エルテルッテは、水汲みと、獣が寄ってこないよう周囲の警戒を担当し。

 シエナは、内臓を取った魚を、木の棒に刺し、熾した火で焼いている所だった。

 獲れたばかりの魚の皮と肉がパチパチと焼け、匂いが漂っている。

 それと同時に、シエナが採取しておいたキノコなどを一緒に焼く。


 シエナは、エルフの村に居た時。

 村の民が疎開したりで数を減らし、家事番の家系が皆居なくなってから。

 ずっと、家事をしてきた。


 だから、川魚の焼き加減には自信がある。


 火が通り切るまであと少しか。

 そんな頃合いに、エルテルッテが皮袋二つに水をパンパンに詰めて戻ってきた。 


 そうして、焚火の炎に焼かれている魚を覗き見て。

 わぁ、と感嘆の声を漏らす。

 その物欲しそうな表情を見て。

 

「あと少しだよ、もう座ってたら?」


 シエナは、自分が椅子代わりに座る倒木、その隣の席に、エルテルッテを誘う。

 ハルバードを立て掛けてから。

 そこに両足を斜めにそろえて座るエルテルッテの所作はとても少女らしい。



 ――赤く染まりゆく空に、魚と山菜を焼く煙が昇って消えていく。

 もうすぐ日が暮れる。

 そんな頃合いに、燻る炎の輝きを眺めながら。

 シエナが、おもむろに口をひらく。


「そういえば……」


「はい?」

「焼いてよかったのかな。内臓も取っちゃったけど。そもそも魚だけど……?」


「はい……?」


 シエナの質問の意図を測りかねて、エルテルッテは首をかしげる。

「エルテは魚人族(マーマン)なんでしょ。いつも生でそのままなのかなって……。そもそも共食いとか……?」


 それに。

 エルテルッテはくすくすと声をあげて笑う。


「何言ってるんですか。海の生き物は、魚を食べて生きているんですよ? それに、私たちだって、調理くらいしますよ。勿論、生でも頂きますけどね。――そもそも、最初から食べようと思って魚獲ってきたんです」


「それもそうか。じゃあ、気にしなくても良さそうだね」


 そろそろ良い頃合いだろう、と。

 シエナは、コンパクトな調理具の納まった小さなカバンから、小さい筒を取り出し。

 そこから、焼けた魚に塩を振りかける。

 そして。

 

「はい、ちょうど良いくらいだよ」 

 エルテルッテに手渡した。


「ありがとうございます」


 それを口を開くと見える小さな二本の八重歯で。

 一口齧ったエルテルッテは言う。


「美味しい……。塩味が薄めで」


 うすい?

 湯気のあがる焼き立てに食いついたシエナは、不思議がる。

 結構かけたんだけどな、と。

 エルフの村に伝わっている話では、海というのは塩辛いらしい。

 だから、海の魚は、最初から塩味が付いているのかもしれないな、とシエナは考える。

 

 まぁ、それよりも。

「……キミたちって、脚は魚じゃないんだね」


 それに、エルテルッテは「いいえ」と答える。

「――本来は、シエナちゃんの想像通りですよ? 今は、陸上で過ごすのにふさわしい形に変化させているんです」

「魔術?」

「いえ、これはどちらかと言えば秘術……こちらでいう天恵に近いものです。私の祖先から受け継いだ仙術の一つですね」

「じゃあ、変化できるのはエルテだけなんだ?」

 エルテルッテは首を振る。

「というよりは、仙術を習得しているモノの特権のようなものです」


 なるほど。

 エルテルッテは術で人間の脚に変化させているんだ。

 だから脚運びが、少し心もとないんだと、シエナは考える。

 脚を使った反射速度のような部分は、どうしてもエルフや人間族(ヒュム)に劣るのかもしれない。


 そんなエルテルッテは、ただの優れたプロポーションの少女、あるいは端整な顔立ちのメリハリのある女性、といった様相だ。

 一見ではどこにも、魚人族(マーマン)と思える部分は無い。

 しかし、よくよく見ればエルテルッテは皮膚の一部に少し鱗状のものが見える部分がある。耳の形も人間族(ヒュム)とは少し違っている。

 

 エルテルッテは、じっと見てしまっていたシエナの視線を気にしたのか。

 ふとももの鱗状の部分を手で隠す。


「……す、すこし術の効果が薄まっているかもしれません。あとでかけ直さないと……」


「ごめん」


 そうして、シエナは少し冷めてしまった焼き魚に、再び食いつくのだった。 

 

 

 ⌛⌛⌛⌛⌛⌛⌛⌛

 


 翌日――。


 

「――蒼仙(メルク)流槍派(りゅうそうは)参式(さんしき)――、『渦潮(うずしお)』!!」


 

 旋回する身体ごと、大きく薙ぎ払われる、2メートルを超える矛槍。

 そこに――。


 戦気(オーラ)

 水の神気

 水の魔力


 一つ一つの技術はまだ拙い。

 けれども、その全てを混合し業物のハルバードに伝う奔流は、見習いの冒険者とは思えぬほどの破壊力を有し。

 水流の軌跡を纏う槍の一閃が、一撃で獣の群れを両断し尽くした。

 上下に分断された6匹分の肉片が、散らばり、ボタボタと零れ落ちる。


 その凄まじい威力に、シエナは呆れるばかりで。


「――……私の出る幕は無しだね」


 そして、エルテルッテは後方で見ていただけのシエナを振り返る。

「……この動物、食べれますか、シエナちゃん?」


「うん、そうだね……、今日の昼餉は、焼肉かな?」

 


 そんな感じで、シエナ達はあと二日を乗り切ろうとしていた。

 

 

  ――そして、同じころ。


 全身革鎧のドワーフは、草むらで眠りこけていた。



 

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