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試験開始 1日目ーB


 

  

 魔術師ギルドの試験は、皆ハルハより年上ばかりだ。

 勿論、種族によって見た目は若いという者も居るだろう。

 けど、人間族(ヒュム)でいうならば、もう中年なのではないか。

 そんな者もちらほら混じっている。


 25歳くらいで魔術を行使できるのであれば、特に優秀。

 それが、世間一般の認識だ。


 だから、サバイバル実地試験の集合場所で、ハルハは浮いていた。

 誰も一緒にやろうとする者はいない。


 ――魔術師ギルドにあてがわれたのは、山岳地帯の中でも森が深い一帯だった。

 

 その暗がりに、受験者たちが散っていく。


 しかしハルハは森の奥へは行かず、とりあえず水場――つまり河を探して歩いていた。

 この長期で滞在する時には、河や水場の場所が大事だと、プリムティスは言っていた。

 

 その大切さは、山暮らしで痛いほど身に染みている。

 

 

「……晴れ、ですね、ぇ……」


 見上げれば快晴の空。

 雨は当てにできないだろう。


 あと、森を避けた理由はもう一つある。

 見えない、という事は、死に直結するからだ。

 ハルハは一度、真っ暗闇で強襲を受けた。


 あの時の恐怖は、まだ拭えていない。

 

 また、木々や茂みで、射線が通りづらいというのも、イニチアシブが生命線の術師には不利な地形だ。

 だから、暗く、見通しの悪い森を避けた。

  

 きっと、森林地帯の近くが試験の開始場所に選ばれているのは、そういう困難を想定しているからに違いない。



 いつもの黒い魔術帽子に、黒いローブ姿。


 そんなハルハは今、森と草地の境界線を歩んでいる。

 シエナに教わった食べられる草や、キノコを探りながら――。


 すると。


 突然、ローブ姿の受験者の幾人かが森から跳び出してきた。

 なにやら騒がしく。

 森に向けて、距離を置きながら攻撃用魔術を放っている。 


 何事だろうか、とハルハが様子を見ていると。

 さらに森から、大型の四足獣が跳び出て来て、受験者の一人に襲い掛かるのが見えた。

 そこに、他の者達が火や水や風の魔術を浴びせて応戦している。


 けど、獣の毛皮が厚いのか。

 それとも、術者の魔術が弱いのか。


 まったく効いている素振りは無い。


 

「――死ぬんじゃ……?」  

 

 試験と言えども、野獣や狂暴な虫なんかは出ると説明がされていた筈。

 そして、その状況を打開できないのなら、失格だという事だろう。


 ――別に、助ける義理は無いだろうけれど。

 ハルハは、少し迷ったが。


 意を決してその方へ走り出した。

 いつかプリムティスが言っていた通り。

 ハルハは、『魔術にだけは(・・・)、自信がある』。



 草地から石を一つ拾い上げ。

 そして。


 組み伏せられている女性の受験者。

 その上に覆いかぶさっている肉食獣。


 もう目と鼻の先のその状況。

 そこに向かって、そいつをめいいっぱい投げつけた。



 コツン、と弱弱しい感触が、その毛皮に伝って。

 飛び退いた獣が、ハルハを睨みつける。


 身体の向きが、ハルハに向けられ。

 四肢を折り曲げ、今にも飛び掛かろうかという態勢を取る。


 その最中。

 突然の乱入者に、周囲に居た受験者達は驚き。

 けれども、そのうちの一人が、襲われていた女性を引きずって避難させた。

 

 これで、術に巻き込む憂いは無い、と――。

 ハルハは魔力を練り上げる。

 

 そして――。


「『魔衝弾(マギア・インパクト)』」


 1秒で完了する魔術。

 それが飛び掛かる獣に命中し、その体躯を吹き飛ばす。


 それと同時に。

「『魔弾(エナジーボルト)』」


 ハルハはすぐさま追撃の魔術を準備し。

 吹き飛んで地面に転がった獣に向けて、撃ち放つ。


 高密度の魔力の弾丸。

 それは瞬く間に到達し。 

 

 どん、と空気を震わせる轟音と、着弾の衝撃波が吹き荒れ。

 その威力に、飛び散る肉片、骨片、臓物、血潮。


 魔弾の直撃を受けた獣は、一瞬にして粉々になり、散り散りになった。


 

 見ていた受験者達は、呆気にとられ。

 

 10秒ほどのラグを経て。


「すごい」

「良かった」

「助かったわ」

「え、子供?」

「こ、粉々になったよ……?」

「な、なんつー威力だ……」

「ヒ、ヒュム……なのか……?」


 口々にそんな言葉が発せられる。



 ――そんな賞賛や、興味の視線を浴びたくなくて。

 帽子を深くかぶり直し。

 ハルハは踵を返してその場を立ち去った。


 


 それを、遥か高台から、視力強化の術式を施して見つめる姿がある。

「……ハルハ……だったかしら。あの娘は、魔術以外は少し心配ね……」

 それは昔、人々から大魔王と呼ばれた存在だった。

 


 



 

 

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