試験開始 1日目ーA
試験の日がやってきた。
山を下りたシエナとハルハは、街に戻り。
シエナは戦士ギルドに。
マナは魔術師ギルドに。
それぞれの場所に向かっていった。
戦士の心得や、覚悟を試す筆記試験。
試験官と、軽く手合わせをする実技試験。
シエナはどれも、そつなくこなし切った。
勿論、戦士の試験だから。
魔術の使用は即失格になる。
だから渡された木剣で、シエナは試験官からちゃんと一本取った。
――一度も被弾することなく。
◇◇◇◇◇◇◇◇
魔法使いの心得や、知識を試す筆記試験。
固定ターゲットに対し、何かしらの術式を行使する実技試験。
ハルハは全てにおいて優秀だった。
特に、ターゲットを消し飛ばす程の高密度魔力で練られた【魔弾】を、3.75秒で放ったこと。
さらには人間で15歳だという事が何よりも驚かれた。
そうして、最終試験。
サバイバル実地試験が開始される。
会場は、街の東側に位置する、山岳地帯の一角だ。
ここで、三日間生き延びるのが目標である。
魔物は、管理側で排除が行われているが。
猛獣や大蛇等の現生成物はそのままだ。
担当の試験官が、集まった冒険者の卵たちに、そんな説明を告げ。
「始め!」
開始の宣言が成された。
そして、試験官は言わなかったけれど。
他の受験者と協力することは、ルール違反ではない。
さっそくグループになる者。
単独で行動を始める者。
カバンやリュックを背負った若者たちが、山へと入っていく。
無論、会場には、シエナもいて、ハルハも居る。
ただ、二人は距離が離れていた。
何故なら、試験の日と試験の場所は同じでも、ギルド毎に集合場所が違うからだ。
エルフ族であるシエナは早速、食料になる山菜や、薬草を採りながら拠点に出来る場所を探し始める。
そして気づく。
周囲の地形が、断崖で囲われていることに。
「――……あえて崖が多い場所に送られたかな?」
シエナは、プリムティスに教わった通り。
フックをつけたロープを振り回し、百発百中の投擲精度で、崖の出っ張りにそいつを引っかける。
ぎゅ、っとロープを引っ張って、強度を確認し。
あっというまに登攀環境を作り上げた。
そのそばで。
よじ登ろうとしている受験者に出くわす。
――切り揃えられた真っ青な髪に、民族風の衣を着て。
背負っている青い属性結晶の嵌ったハルバードは、業物だと一目で解る先進的なデザイン。
けど。
全く登れそうな気配が無い。
何度も挑戦し、ずるずる、と落ちていく。
仕舞いには転がって、背負っていたハルバードが抜けてカラカラと転がってくる。
見かねたシエナは、その2メートルはあるかという、長物を拾い上げ声をかける。
「ねえ、キミ。ロープは?」
「はい?」
顔を上げたのは、女性だった。
涙目だった。
そんな青い髪の女性は、エルフの顔を見つめ。
シエナは、女性の状態を観察する。
その女性は、シエナやハルハよりも長身そうな細身の体躯で。
メリハリのあるボディラインは、大人の女性を感じさせる。
涙目で膝立ちになる女性に、ハルバードを返しつつ。
シエナは再度問いかける。
「無いの? ロープ。ああやって上るんだよ」
シエナは、自分の仕掛けたロープを示す。
「ロープ持ってないです」
「登攀の練習したこと無いの?」
「……はい」
「手伝うよ。私のロープ使って、下から支えるから先に……」
そうして、少しだけシエナがレクチャーした後。
その娘は、先行して登り始める。
滑っても、真下に居るシエナの顔に、娘のおっきめのお尻が乗っかるので落ちる心配は無い上、下から支える事が出来るので、確実に登っていける。
娘は、腕力はあるらしく。
代わりに、足の運びが拙い様子だと、シエナは気づいた。
――この気づきは、プリムティスが『良く見ろ』といつも言っていた事を気にしてきた成果だった。
あと。
断崖を上り切り。
息を切らす女性の前で。
「そっちの方が動きやすいのか……?」
腰部アーマーの下。
スカート状の部分をピラリとして、自分のを見るシエナ。
それを見て、女性は察する。
まぁ、お尻が顔に乗るという事は、深いスリットの入ったミニ丈から、際どい布面積の薄桃色が見えるのは必然というか、押し付けられていたわけなので。
仕方が無かったのだけども。
女性がいまさら股の間を押えても無意味だし。
エルフは、何一つ気にしてはいなかったのだが。
そして、遅れて女性は言う。
「ありがと……」
「うん」
シエナはロープを回収しつつ返事をする。
「とりあえず、どこか拠点に出来そうなところを探すけど……来る?」
女性はやや逡巡して。
「……行きます」
と答えた。
「じゃあ、よろしく。私は、エルフの戦士、シエナだよ」
「――エルテルッテ。エルテルッテ・シドン・カルシドネ……魚人族の仙術士官です」
「エル……ル、カ……えっ? ――エルテでいい?」
「はい」
「……え? マーマンって言った、今?」
「はい……」
そうして、シエナは共を一人得て、サバイバルに挑むのだった。
その様子を。
木の葉のついた枝を二本掲げ。
隠密行動中ですよとアピールをしながら。
草葉の陰から、全身革装備の不審者が覗き見ていた。
「シエナは、コミュ強ね。ちゃんと教えたことも様になってるし、気にすることも無かったかしら――」




