機は熟したか。
「『墓標石板』!!」
迫る青い不定形の群れを、せり上がる幅2メートル程の石板が進路を阻み、せき止める。
そうして、その隙に。
「水に芽吹き、瓊葩綉葉、火に燃ゆる――、走れ、凶刃成る言の葉よ――」
木属性・初級難度・汎用術式――
「――『木葉短剣』!!」
手にした木の葉の短剣。
その刀身に、『風の魔力』を纏わせて。
それで、石板を飛び越えようとしてくるスライムを斬りつけて追い返す。
斬撃が命中したと同時に、風の刃が追撃し飛び散る強酸を吹き返し。
短剣が酸でボロボロになろうとも。
どうせ幾らでも作り出せる魔法の剣だ。
惜しくもなんともない。
そして。
「おまたせしました、シエナさん!」
その後方から。
およそ18秒で準備を終えた、無属性中級難度攻撃用術式――。
【魔陣嵐】が吹き荒れる。
群れの中央を起点に発するそれは、風の嵐とは異なる振る舞いで。
まるで渦潮か旋盤のように、荒れ狂う魔力粒が、魔物の全身を転削し。
ズタズタになった肉片が朽ち果ててゆく。
生き残った1匹に、投擲されたナマクラと化した【木葉短剣】が突き刺さり。
「終わりだね」
魔物の群れは、なんの苦も無く殲滅される。
それを見ていたプリムティスは。
「アンタ達、そろそろ山暮らしも慣れたでしょ?」
シエナとハルハにそう言い出した。
「エルフだし。最初からなんてことないけどね?」
当然のように答える耳長族と。
「私、もう帰りたいです」
辟易したような人間族の少女。
二人が難なく不定形の群れを殲滅したのを見て。
もう十二分に試験は受かるだろうとプリムティスは考えた。
だから。
「二人とも、良い頃合いだと思うから、Gランクの戦士と魔術師の資格試験手続きをしてくるわ」
「え!?」
ふたりの嬉しそうな声が被る。
シエナは挑戦できることに。
ハルハは山から下りれるんじゃないかという期待に。
目を輝かせる二人に、プリムティスは言う。
「シエナの新しい装備と、ハルハの石鹸と香水もついでに買ってくるわね」
シエナは、酸などを浴びたせいで装備の痛みが酷く。
ハルハは、髪の状態や体臭を毎日気にしている。
そして、資格手続きをするという事は、魔術師ギルドと戦士ギルドに行くという事であり、街に行くという事。
だからついでにプリムティスは買い出しも行くつもりなのだ。
ハルハは、項垂れながら、要望を口にする。
「それでしたら、香水の銘柄はシャルレーヌでお願いします。あと、そのし、した……」
「ええ分かったわ、ハルハ」
下着ね、了解。
そしてハルハは悟ってしまった。
つまりまだ山に居ないとダメなんだ、と。
大きなため息を吐き。
シエナは、
「……武器は不要だよ、プリム」
「了解」
ふたりの要望を聞き、プリムティスは下山の準備をしに野営地に引き返す。
今しれっとプリムさまのことを呼び捨てにしましたね!
そんなケンカ腰で。
魔物から魔核等の収穫物を収集し始めるシエナとハルハから、ドワーフの姿が離れたのを見計らい。
遠くから様子を見ていたマナが、プリムティスに話しかける。
「――で、私はどうすればいいのかしら? もう帰っていい?」
ダーメ。
とプリムティスはマナを引き止め。
「せっかくだから、一緒に街に行く? アンタ、人の街には殆ど行ったことないんじゃないの?」
「バカ言わないで。貴方を探すときに方々歩き回ったわ」
「――……」
それにプリムティスは意外そうな顔をする。
そして、ああなんだ、ついでに来ただけだ、と言っていたけど。
ちゃんと苦労してきてくれてたんだ。
――と、それでプリムティスは初めて気づいた。
「じゃあ、なおさらね。そんなんじゃ、きっとなにも見れてないでしょ。アンタが攻め立ててた人たちが、ちゃんと生きてるってところ……」
「何を言っているのだか」
失笑気味のマナに、プリムティスは、ボリボリと頭を掻き。
「だから……ちょっとデートに付き合いなさいって言ってんのよ、大魔王様?」
「ふん、いきなり何を言うのかと思えば……、気味が悪いわよ、ドワーフの勇者? それに、私はただの世界樹の精霊で、ただの魔法使い……。大魔王なんて呼んでいたのは、私の部下達と、人間達だけよ」
「あっそ。で、行くの? 行かないの?」
「――途中まで、『記憶の扉』で送るわ」
「助かる」
そうして、厚底ブーツとぶかぶかの兜、そして全身を革鎧に着替えたプリムティスを見て。
「な、に、そ、れ、……!」
笑いをこらえるマナに、プリムティスは機嫌を損ねたのだった。




