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お手本


「あとで、術式図を……」


「良いわよ。ちゃんとしたやつね。書いてあげる」


「ありがとう」


 お礼を言うシエナ。

 そして、未だ消えない短剣を振り回し、性能でも試そうかといった所。


 マナは、次にハルハを見る。


「次は貴方?」


「は、はい……!」


 緊張した面持ちで、ハルハが前に出る。


 ハルハが得意にしている無属性魔術は、属性相関による有利不利が無く、周囲の環境にさほど左右されない、安定感が強みの系譜だ。

 その分、魔素(マナ)を多く必要とするため少しばかり難易度が高く、時間を必要とするという欠点がある。


 その攻撃用術式は単純で。

 魔力の粒子を固めてぶつけるという物だ。


 ハルハはいつも通り、魔力を練り上げ――。


「『魔弾エナジーボルト』!!」

 

 術式宣言により、魔法陣を展開。

 魔力を陣に流し込み、術式を完成させる。


 どぉん、と空気を震撼させる音響と同時に。

 高密度な魔力弾が、標的とした木の幹を貫通し、粉砕し。

 後方の地面に当たって土煙を巻き上げる。


 そうして、メキメキと、幹を穿たれた樹木が倒壊していった。


 ハルハは、マナをちらりと見る。

 何を言われるのだろうか、と。

 しかし。 


「もう一段上の術式はあるかしら」


「わ、解りました」


 そうリクエストをされるならば。

 ハルハは、範囲用の術式を起動する。


「『魔焔華弾(マジックボム)』!!」


 今度は、拳大の球体が放物線を描いて撃ちだされ。

 ドン、と炸裂音を轟かせ。

 着弾点を中心に、飛び散る無数の魔力粒が周囲を撃ち砕いた。



「なるほどね……」


 腕を組むマナがまた、嘆息する。



「貴方は、魔力生成の出来はまぁまぁね。ただ、丁寧なあまり慎重にすぎる……。――貴方は、一粒一粒の魔力子(マギ)が、如何に魔術の質に直結するのかは解っている。けれども……遅い。さっきのエルフとは真逆ね。貴方の魔力は、『重く遅い』」


 ハルハに言葉は無い。

 『重く遅い』魔力だという事は良く解っている。

 自覚はあるのだ。

 けれど、雑な魔力は作りたくない。

 そのプライドのようなものが、慎重さをより慎重にしていると言える。


 マナは続ける。

「貴方は、若いのかしら? まだ将来があるというなら、この先中級以上の術式を習得する気があるかもしれない。けれども、今のままだと実用的なのは下級難度どまりね。初級難度で5秒、下級難度で12秒……。中級になれば25秒はかかる恐れがある……、そんなモノ実戦で使えるのかしら?」



「く……」


 痛い。

 痛い所を的確に突かれる。


 なんて、鋭くて容赦のない魔法使いなんだ、と。

 ハルハは思う。

 涙が滲みそうになる。


 そして、先ほど見たお手本のような魔術。

 このマナという人物は、一寸の狂いも隙もない魔力を驚異的な速度で作り出していた。

 ――……マナが、もしも同じ術を使えばどうなるのか……。



「――私にも……、私にも、お手本を見せてくれませんか!」


 これは、苛立ちで言ったのではない。

 高見が見たかったのだ。

 目指すべきところ。

 極地の術という物を……!


「良いわよ。ただ、私は詠唱型の術師だから、それでもかまわないかしら?」

「はい、当然です」



 マナが掌を向ける先は、木々が犇めく森の方ではない。

 その真逆。

 山肌が見える方角、その遠方に向けられる。


 そして、始まる詠唱――。

 

「零にして無限たる一握よ――集え、無垢なる凶弾と成りて――」


 その魔力は秒にも満たぬ瞬間に練り上がる――。

 むしろ詠唱の時間分が無用にさえ思うほどの早さ。

 だからこそ……その詠唱は威力の補強に充てられた言霊……。

 

「――『魔弾エナジーボルト』!!」


 放たれた弾丸は、極細の杭のような形状で。

 魔力のエネルギーが飛翔中に霧散しないようにコーティングされた弾頭。


 それが、着弾の手前で分散し、芯なる弾頭が着弾点で炸裂する。


 弾丸としての威力。

 そして、着弾後の小爆発による追加の威力。


 それが秒速1000キロメートルで飛翔し。


 ――樹木一本どころか、はるか遠く山肌の着弾点周囲を根こそぎ砕き伏せる。


 どぉぉん。

 遠い距離から、炸裂音が木霊する。

 

 もはや、初級の術式等というレベルでは無い物だった。

 


「すごい……!」


 予想以上のことに、ハルハは固まった。



「……耐えられる魔物なんているんですか……」



 マナは苦笑する。


「あそこのドワーフがそうだったわ。本気で防御に回られたら、この初級の術式程度では、良くてかすり傷という所でしょうね」



 ハルハはその一言でプリムティスが防御の戦士だという事を思い出す。



 さらに、マナは言う。



「貴方は、魔法陣型なのでしょう? 魔力合成の速度を上げるのは容易ではない事だと思うけれど、陣の記述をもう少し効率化すれば、術式の速度が上がると思うわよ?」

 

 ハルハは、魔導書に書かれた術式図の呪文(コード)のままを使っている。

 それを、アレンジして使ったことは一度しか無い。


 そう、それは、シエナを叩き起こすのに使っている術式だけだ。

 でも――裏を返せば、やれば可能だという事なのだ。

 アレは、術式の範囲指定の記述をいじって狭めた。

 ならば、陣が魔力を満たすまでの時間も、弄ることが出来るのかもしれない。


「そうか……」


 的確なアドバイスだ。


「ありがとうございます、マナさま」


 そして、ハルハが尊敬する人物が一人、追加されたのだった。

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