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本当の術式


「来てくれたのね、ありがとう、マナ」


「――別に。貴方に誘われたからでも、お菓子に釣られたからでもないわ。……たまには外の様子を見ておく必要があると思っただけよ。ここに来たのはそのついでね」


 野営場所のテント。

 その外に、座って。

 プリムティスとマナは話をしていた。


 その様子を、テントの中からシエナとハルハが覗き見ている。

 という状態だ。 


 プリムティスは、熱いホットティーを用意して、主賓をもてなしつつ。

 切り株の上に布を敷いた簡易テーブルに、カップを置き。

 視線を巡らせる。

 マナと一緒に良く居る白いちびっ娘が見当たらない、と。


「あの娘は一緒じゃないのね」


「ええ、ミラなら店番に置いてきたわ」


「来たがったでしょうに」

 白いちびっ娘が、ヤダ、行きたい、とゴネル様子が目に浮かぶ。

 それをマナは何とかなだめて出てきたに違いない。

 

「まぁね。――だから後で、あのお菓子を買える場所を紹介してちょうだい」


「ああ……」

 お菓子を買ってくる、という約束で出て行ったのか、と予想する。

 しかし。


 プリムティスは目を泳がせる。

 だって、『ライオネル饅頭(アレ)』はたぶんまだ非売品だ。

 入手できるだろうか……?

 一応、わざわざ来てくれた魔法講師のために、頑張ってみようとは思うけれども。


 用意された香茶のカップを手に取りつつ、マナが問う。

「で、わたしは何をすれば良いのかしら?」


「言ったでしょ。魔法の先生よ」


 マナが香茶を一口含み。

 小声で、苦っ、と顔をしかめつつ。 

「先生? ……貴方が? 魔法を……?」

 

「違う。さっき見たでしょ、二人」


「河で水浴びをしてた子供と、何だか怒っていたエルフ族の子供の事?」


 こ、こども!?

 テントで盗み聞きしている二人は、聞き捨てならん、とマナを睨み。


「私は、魔術の事は良く解らないからね。上手く教えてあげられないし」


「ふうん。――その二人は、現状でどれほどの実力なのかしら?」


 プリムティスは苦笑し――。


「実際に見たら?」

 ――顎で、テントの方を指し示す。

 

 マナが、テントの入り口の隙間から覗く瞳に視線を投げる。

 びくり、とガタつくテントの内。


 そうして。

 察したシエナとハルハが、外に出てくる。


 マナは言う。

「まぁ、折角こんなところまで来たわけだし、少しだけ見ても良いけれどね」


 シエナの目配せに、プリムティスは頷く。

 魔法禁止を、今だけ解除する。

 魔法を使って良い、と。 


 シエナが前に出る。

「わかった。じゃあ、私から」

 



 念のため、 

 マナ、シエナ、ハルハが、野営のテントから少しだけ離れた場所に出る。

 それを、テントの近くに残ったプリムティスが遠目に見学するという形だ。


 

 シエナは 精神を集中させる。


 精神エネルギーである『魔気(オド)

 大気に満ちる元素――『魔素(マナ)

 万物万象に宿る『現象核(オリジン)


 それらを結合し、魔力を生成し、積み重ねる。

 シエナの掌の中に、作り出される木属性の魔力――。


 シエナの声が高らかに歌う。 


「――水で、生き、火に死する――傾聴せよ、心無き刃――」 

 

 木属性・汎用術式――

「『木葉の短剣(フォリッジ・ダート)』!!」


 硬く鋭いナイフのような木葉。

 それをシエナは、ぶん投げる。


 標的とした木の幹に向かって。


 真っ直ぐに突き刺さり、僅かな毒が滲み込む。 

  


 それをみたマナは溜息混じりにいう。


「……無理やりね、貴方。魔素(マナ)現象核(オリジン)を誘引するのではなく、強引にくっつけに行っているでしょう? だから、魔力として完成するのも早い。――けれどもその代わりに、要素のバランスが悪くなってしまって密度が見合わない。一言で言うのなら、貴方の魔力は『早くて薄い』。……あまり効率のいい魔力の作り方とは言えないわ」


 シエナは、言葉も出ず。

 無言でマナを振り返る。

 その言葉に、固まってしまった。

 シエナ自身すら気づいていない悪癖。

 それを、一度見ただけで看破し、的確に指摘するなんて。


 無論、驚いたのはシエナだけじゃない。

 どれだけ見えているんだこの人は、とハルハも驚愕だ。


 マナはさらに続ける。


「――あと、その魔術は元々別物だったでしょう? ……それはなにを見て学んだのかしら?」


 

「これ、だけど」


 シエナが、腰の鞄から、古びた本を取り出す。

 それは、あちこちボロボロで染みだらけの古い魔導書だった。


 マナはそれを手にし。


「『マナの書』……。やっぱりね。どこかで見た術式だと思ったわ。ただ……いろいろな所が足りていないのは、読めない部分を貴方が自分で埋めたからね?」


 マナは、ページをめくり、古代精霊文字で『木葉の短剣』という意味のタイトルの書かれた場所をひらく。そこには、掠れた術式図が掲載されていた。

 そのページを、シエナも横から眺める。

 ハルハもこっそり見る。 


「うん、一番簡単そうな術式だったからね。でも、解読するだけで大変で……」


 マナは魔導書を閉じる。

 そして、シエナに返し――。


「この魔術式は本来は、作り出した木葉を手軽な武器や道具として利用できることを目的にしている」

 

 マナが、シエナの立っていた場所に入れ替わる形で佇む。



「見せてあげるわ。この魔術の、本当の姿を――――!」


 ざわめいていた風が止む。

 まるで、森が傾聴を始めるかのように。

  

 周囲の空気が、マナの魔術を、待ちわびる。



 そしてマナは、紡ぐ。

 朗々と――。


(みず)に芽吹き、瓊葩綉葉(けいはしゅうよう)()に燃ゆる――、走れ、凶刃成る言の葉よ――」



 まるで、凝縮された結晶のように。

 一瞬にして隙間なく積み上がる木属性魔力。

 

 それを、重厚謹厳な言霊で成形させる―― 


 

 木属性・初級難度・汎用術式――

「――『木葉短剣(リーヴスエッジ)』!!」



 マナの手に、葉脈が意匠とさえ感じられるほどの、刃渡り50センチ程度の短剣が出現する。

 まるで金属に変質したのかと思うほどの大きな木の葉は、頑強で鋭い。


 それを、くるりと手の中で反転させ。


「はい」


 と、柄の部分をシエナに差し出した。



「え?」

 

 思わず受け取ったシエナは、驚く。

 いや、すでに段違いの魔術精度に驚きの最中なのだが、そのさらに上だ。 

 作られた剣としての質が凄まじいのだ。業物の領域と言おうか。


 しかも……。


「消えない……?」


「おそらく、30分程度は、そのまま維持できると思うわよ」


「さ、さん……!?」


 シエナの術式は、手から離れると僅かな時間で消えてなくなってしまう。

 なのに30分というのは次元が違い過ぎる。



「……これが本当の……」


 そう、これが本当の『木葉の短剣(フォリッジ・ダート)

 ――改め、『木葉短剣(リーヴスエッジ)』。



 シエナの独学で補完されていた不完全な術式が。



 今完成したのだ。



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