事業
――本題に入る。
それは、国王ライオネルからの通達であり。
土地の利用許可。
冒険者の育成に当たり、ギルドの承諾の元ある程度自由にできる権限。
教育機関を小規模であるが試験的に運用する旨。
それらは、許可が決定している。
あとは、冒険者育成に注力するために、国家からの招集には基本的に応じられないという話だ。
それについての条件が。
ある程度目途が立ったら、城の兵士たちにも稽古を付けに来てくれという。
それは、兵士の訓練にもなる上、士気も高まるだろうという狙いがあるに違いなかった。
「まぁ、それくらいだったら良いけど」
馬車の中。
イビツな形の饅頭を食べながら。
椅子の上に脚を組んで座るドワーフは、渋々顔だ。
「でも、金等級で対応できない時はお願いしますよ?」
ドワーフは急に真剣な面持ちになり
「あるとしたら……アディオールの大創世結晶に何かがあった時よ。――今は問題ないわけ?」
「ええ。アレに何かあれば、国家どころか大陸の存続に関わりますからね。各国の軍部と協力して、厳重に警備させています」
「そう。……兵士の適正調査もぬかりないんでしょ?」
「当然! 内部の者が手を出すなんてことになったら、我が国の信用に傷がつきますよ」
じゃあいいわ。
と、プリムティスは納得し。
「では、決まりですね。こちらにサインと押印を」
姫はちゃっかり、契約書を作って持ってきていた。
プリムティスは、朱肉と親指で押印し、渡された羽ペンでサインまでしたのだった。
ちなみに、リンスレット以外の全員は、馬車を汚さないように靴を脱いでから乗車している。
けど、訓練をしていたシエナとハルハは、馬車に汚れが映らないか気が気ではなかった。
そして、込み入った話の中。
食べる以外に無いシエナとハルハは、形はともかく味は美味しい、と饅頭の事を想っていた。
リンスレットは、馬車の窓越しに修道院跡の空き地を見る。
「にしても、こう殺風景なままでは、問題ですね」
「ええ。だから、一応街の職人ギルドなんかに相談はしているんだけどね」
「何の相談です?」
「必要備品を作って欲しい、とか、あとは建材の調達とかかな。インフラも現代の上下水道とかに立て直してほしいしさ。そもそも、もう少しまともな建物がないと様にならないし、考え始めるときりがないくらい欲しいものがあるのよね」
「リストはあるんですか?」
「一応、作って欲しい備品リストと、建物の見取り図作成依頼を職人ギルドには渡してあるけど……?」
ふうん、とリンスレットは考え込む。
そして、また顔を上げて。
「資金は問題ありませんか?」
「お金? それなら、今までの依頼で貯めた分や、アンタのお父様に頂いた魔王討伐の報奨金がたんまり残ってるわよ」
「なるほど……」
リンスレットはまた考え込む。
冒険者というのは、今でこそ国家とやや切り離されているが、元々勇士選出機関だった頃は、国営事業だった。
冒険者ギルドとなった今も、国の財源を利用している部分も多い。
なにせ、魔王が居ようが居まいが、魔物や強い獣は蔓延っている。
国の兵士は、国家を守るために組織されているが。
各所の問題や、街道の安全確保、危険地帯で活動を余儀なくされる場合の護衛など。
魔物の出現が想定される区域では、やはり魔物討伐を専門とする戦力が必要だ。
残酷な考え方では。
厄介ごとを冒険者に任せておけば、国は国有の兵力を削られることなく温存しておける。
そういう意味でも、手足となって働いてくれる機関として、国は冒険者に利用価値を感じているのだ。
――それを勇者が育てるというならば、信用の面でも事業の有効性としても、高い。
そう考えるリンスレットは、とある決断を下す。
「解りました。すばらしい事業だと思います、プリムちゃん。応援しますね!」
「事業なんておおげさな」
謙遜するドワーフを尻目に。
リンスレットは、この事業を『王国の姫』の管轄として、バックアップしようと考えるのだった。
――一言で言うならば、スポンサーである。
今のところ、当のプリムティスには内緒にするのだけれども。




