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ゲスト





 

 掘っ立て小屋だけが立つ、修道院の跡地。

 そんなただっぴろい殺風景な場所に。

 騎竜(うま)のかぎづめの音が轟き。


 豪奢な白地竜(はくば)の馬車が到着する。

 装飾華美な煌びやかな車に、四頭立て。


 当然座り込んで話をしていたシエナとハルハは。

 何事かと、目を丸くし。


 プリムティスは、少し辟易する。


 御者台から降りた男は、燕尾服のようなものを身に着け。

 馬車の扉を開けると、執事のように、うやうやしく手を取り。

 礼で、貴賓の降車を出迎える。

 

 降り立ったのは、外出用の、それでも多分にオメカシのされたドレスと装飾品に包まれた、金髪の姫君で。

 頭には、これ見よがしに、ティアラが載せられている。


 面識など無くても。

 纏う雰囲気だけで、ただ者ではないと一目で解る。

 むろん、冒険者のような雑な雰囲気ではない。

 いわゆる、統治者としてのオーラのようなものを感じるのだ。


 シエナとハルハは、立ち上がり、思わず『気を付け』の姿勢になってしまう。


 プリムティスは、そのまま胡坐に頬杖で、そのお方を出迎えた。


 薄桃色の豪華なドレスに見劣りしない美しさと所作で、歩み寄る姫君は。

 まっさきに、太々しい態度のプリムティスを目にとめた。

 

 その表情は、凛として。


「探しましたよ、勇者様。――お家にいらっしゃるかと思いましたのに」


 土地の使用承諾書は、当然国の役所に提出されている。

 一国の主に近しい存在が、その情報を得るのは容易かっただろう。

 そしてシエナが居候しているプリムティスの家は、割と細い路地を含む地味な立地だ。


 そんなところを、四頭立ての真っ白な馬車が往来したかと思うと。


 プリムティスは溜息が出る。


「良くここが解ったわね――リンスレット。あと、勇者様って呼ぶのは辞めてって言ってたでしょうに」


 そう。

 プリムティスはこのまだ10代の姫君の身分も、その素性も、良く知っていた。

 その上で呼び捨てにし、ただの民草がやれば、最悪不敬罪で投獄されかねない態度だ。


 対するリンスレットは、表情を崩し、上品に微笑む。

「では、改めまして、ごきげんよう、プリムちゃん。おひさしぶり!」


  地面に座る低身長なドワーフに合わせ、しゃがみ込もうとするのを、ドワーフは手で制す。

 そのまま座られたら、スカートの裾が地面に着く。

 汚して帰られては事だ。

 

 プリムティスは、立ち上がりつつ。

「ええ。確か、前に古戦場跡に沸いたデュラハン・ロードの件で呼ばれた時以来ね」 


 デュラハンは、ゾンビやスケルトンの馬に乗った首無しのアンデッド騎士。

 デュラハンロードはその上位種で、戦車(チャリオット)と魔法の弩、高度な魔術を行使する強敵だ。

 基本的には、銀等級クラスの冒険者パーティーで苦戦するかどうかといった所だが。

 プリムティスが招集された時には、古戦場の怨念達と融合し、さらに厄介な状態に変貌を遂げた変異種になっていた。

 それは数年前の事。丁度魔王討伐で凱旋し、一息ついた頃合いだったので、面倒に思ったことをプリムティスはよく覚えている。

 そしてその時はまだ、リンスレットはプリムティスと同じくらいの身長の少女だった。


 今は見下ろされている。

「――あの時は助かったと、父上も言ってましたわ」


「ええ、まあ。それは別に良いんだけどね」


 そうしたふたりの会話を、茫然と見ているシエナとハルハ。

 おいそれと割って入れない雰囲気にタジタジながらも。

 

 プリムさまの事を、プリムちゃんって呼んだぞこいつ!!

 と、ハルハは姫君を睨み付けていた。


 その二人に、リンスレットの視線が向き。

 両者は、びくり、と背筋を正す。


「この方たちは? もしかして、お弟子さん?」


「そんなところ。シエナとハルハよ」

 ふたりが軽く一礼する。 


 そしてリンスレットの一言で、プリムティスは理解した。

 なるほど、国王あてに送った書簡の件でここに来たのだなと。

 きっと王は忙しいから来れず、姫が代理なのだ、と。


 だからプリムティスは言う。

「……もしかして、例の件で何か取引でもしようってわけ?」   


「さすが、プリムちゃん、話が早い! ――ところで、どこかでお話しできる場所はあるかしら?」


 リンスレットがキョロキョロするが。


「見ての通りよ。今は未だ、チンケな小屋があるだけ。一応、街の各所に営業に行って、もう少しましな物を建てたいとは、思っているけどね」


「そうですか。では……とりあえず馬車ですね。――お二人もどうぞ。お土産のお饅頭もありますよ?」


 お饅頭?

 と聞いて、プリムティスは胡乱な表情になる。


「なにそれ……、まさかワイロの類じゃないでしょうね」


「失礼な! ちゃんと美味しいお饅頭です。見た目はオカシイですけど」


 そのお饅頭は、国王ライオネルの顔を象ったモノで。

 おいそれとかじっていいものかどうか、多分に迷う代物なのだった。

 あと、あんまり上手く作れていないので、なお不細工なのだった。


 プリムティス、シエナ、ハルハの3人は。

 御者から包まれたまんじゅうを一つづつ受け取り。

 豪華な馬車の中へ招待されるのだった。


「今度城下で販売する予定だそうです、その試供品です」

 

 ――包みを開けたそんなそれぞれの第一声は。


「なにこれ、カニ?」

「クモ?」

「サソリ?」


 だった。

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