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とある王城で


 王国ファルラントは、大陸のほぼ中央部に位置し。

 豊富な水源と、農作物に適した平野、それを囲む山岳地帯で構成された豊かな国だ。

 

 故に、自然と魔王軍の討伐作戦の際には、重要拠点として名を馳せ。

 そして、当時多くの勇士――いわゆる猛者を輩出した勇士選出機関を有していた。

 勇士選出機関は、魔物討伐を専門とする戦士を招集、選別、斡旋する国家機関で、これが現在各国に配置されている、冒険者ギルドの前進である。


 時に、金等級以上の勇士は、国家から特別な任務を付与される精鋭であり、10年前に結成された魔王討伐パーティは、この各国の勇士機関から1名づつが選ばれ、配属されたのだ。



 そして、王国ファルラントから選ばれた勇士は、当時多くの魔物討伐で実績を上げ続けていた、金等級のドワーフ戦士――プリムティス・アルフヴェインだった。


 当然、その名は今も王国で語り継がれている。


 そんな王国中央部の高地にたたずむ白磁の王城に、一通の許可願いが届けられた。


 それは、国王あての書簡で。

 

 紐を解き、執務室でそれを見た国王ライオネル・ミュンデス・ゼウレン・ファルラントは、立派に蓄えた白髭を弄びながら、感心の声をあげる。

「……さすがは、我が国の誇る至宝よ。……駆け出し冒険者の育成機関の立ち上げ、とはな……。にしても、都の一部の土地使用許可とな……」

 あとは、冒険者をギルドの許可の元、ある程度自由にできる権限をくれという話だった。

 

 それと、この本当の本題は、冒険者育成に注力するために、今後はおいそれと国家の要請で仕事を請け負うのは無理です、という意味に他ならなかった。


 ヒゲをさすりさすりしながら、ライオネルは思案する。

 土地の使用も、冒険者育成という話も。

 快諾すべきところだ。が、国家からの出動要請に応じられないというのは、少し痛い、と考える。


 しかし、この心意気と、特に若い女性冒険者達が早々に命を散らすという現状の問題解決に合致する計画は申し分ない。

 

「ふむ――そうさな。……ひとつ条件を与えたいところか」


 ……例えば、師としても熟達した暁には、たまに王城の兵士の鍛錬にも来てもらえない物かと。

 ついでに、有事の際には、なぁなぁで戦場に引っ張り出せれば良いだろう、と。


 あと。


「……であれば、条件の交渉のためにも、一度見聞に出るべきに違いない」


 交渉という名目で、久しぶりにプリムティスにお忍びで会いに行くか。

 この前、河で釣りをしたときに大物を釣った話をしたいし、今度城下で売り出す名産品のライオネル饅頭のことについても意見を聞きたいしな。

 と、ライオネルは思案する。



 王は、執務机のベルをカランカランと鳴らす。

 すると、即座にお付きの者が姿を見せ。


「王よ、いかがしましたかな」

 

「ああ、早急に馬車の用意をしてくれ。プリム殿がお呼びなのでな」 


「勇者様が? 解りました、直ちに!」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 馬車を用意する。

 というのは意外と目立つ。

 なにせ、王城の高所から、馬車の出立出口に騎竜(うま)と、お忍び用(――にしては豪奢すぎる)馬車が準備されるのが見えるのだから。


「――四頭立て……? お父様がどこかに出かけるのかしら」


 しかし、王には仕事が多くあるはずだ。

 なのに、こんな時間、こんなタイミングに急に馬車を用意するなんて、きっと何かあるに違いない。


 自室の窓からそれを眺めていた王女リンスレット・ロザリーナ・ゼウレン・ファルラントは、長いスカートをたくし上げ、はしたなくも軽快に走り出した。王の執務室に向かって。

 それを、見とがめたメイド、メイド長の面々が、追いかける。

「王女様、どこへいかれるのです?」

「お待ちください!」

「……まぁ、スカートをたくし上げになるなんて! お待ちさない!」


 ばたばたばたばた。


 王城内にあり得ない騒音、もとい走音が響き。

 兵士たちも、何事だとざわめきはじめ。


 執務室に来る頃には、けっこうな大所帯になっていた。


 それには、机の前で待っていた王も驚く。


「なにごとだ、リンスレット」

 こんな走り方で駆け付けるとは、とお目付け役のメイド長を睨む国王と。

 どちらかの意味で首が飛ぶんじゃないかとヒヤヒヤのメイド長は、精神的にも、猛ダッシュの息切れ的にも青ざめていた。


 王女は、姿勢と仕草を整いなおし。

 いつものおしとやかさに戻ると。


「出かけるのですか、お父様?」

 

 そう問われて、ライオネルは急に明後日を見て。


「あ、ああ。急に大事な用事が出来てな……」


「公務よりもですか?」


「ああ……」

 まぁ、公務と言えば公務のようなものだしな、うん。

 と考えるライオネルだが。


「――陛下、およそご用意は出来ましたが。時に、馬車には勇者様も御同乗される予定ですか?」


 そんな質問を担当のお付きの者が訊くので、全部バレた。


「お父様!?」

 王女は、ずい、っとライオネルに詰め寄り。

 目ざとく、机に広げられっぱなしの書簡に目を止める。


「……これは、プリム様の……!」


 むすっとした視線が、王に向けられる。

 そして、王女についてきていた兵士たちは、なんだ、ただの親子喧嘩か、めんどくさ、というかんじでつぎつぎに本来の持ち場に戻っていく。

 メイドも、メイド長を残して、巻き添えにならないようにこそこそと帰っていく。


 王女リンスレットは、王に進言する。

「お父様? わざわざ王が、合いに行く必要はありません、ここはわたくしが、代役を務めてまいります」


「え゛っ!?」


 王は、失望と残念の混じる声で冷や汗を垂らす。


「し、しかしだな、これはなかなかに重要な……」


 ふん、とリンスレットは鼻息荒く。

「なぁにが、重要ですか。ただプリムちゃんに会いに行きたいだけでしょ! 知ってるんですよ、何体も自室に小さなオブジェをオーダーメイドで作らせているのを!」


「……いいではないか。息の詰まる公務には、ああいう息抜きや癒しが無いとだな……」


「はいはい。何でも良いですから。一国の王が軽々しく出ていかれては困ります」

 それはもっともな話だが。


「しかし、お前だって、会いに行きたいだけなんだろう?」


「ええ。あんなにちっちゃくて可愛くて頼りになるドワーフは、他に居りませんからね。それに、今の時代、お父様みたいなおじさま(・・・・)が、小さな女の子に声をかけるのは、世間体に良くありませんので。王族のイメージダウンになられてはいけませんから」


 ああいえばこう言われる。

 それに、仕事が山積みなのは確かなので。


「仕方がない。またこちらにも顔を出すように言っておいてくれ。あと、書簡の承諾条件についても、説明するので間違いが無いようにな」


 そういって、ライオネルは書簡をリンスレットに手渡し、外出許可証を発行するのだった。


  

 部屋を出た後。


「やったぁ!」

 と王女は万歳で歓喜した。

 グラン=ロザリアにお忍びで出かけることができる上に、プリムティスに会えるなんて最高だわ、と。





  


 

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