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手合わせ ハルハ編





「……そうか」

 プリムティスの言葉に、今まで何か突っかかっていたものがほどけるような感覚がシエナにあった。

 戦士として前に立って戦う。

 シエナは非力で小柄だという理由で、そういった戦士として真っ当な部分から逃げの選択をしていたのかもしれない、と。


 あと、それとは別に、シエナは驚いたことがある。


「それにしても、プリムは速すぎるよ、ドワーフなのに」

 エルフは俊敏で軽快。

 ドワーフは愚鈍で頑強。


 普通はそういうイメージであり、種族的な特徴もその通りだ。

 なのに、プリムティスは残像を残すほどに早かった。


 ドワーフが愚鈍だという事実。

 それはプリムティスも同感だ。

「そうね。本来のドワーフは鈍足で避けるのは苦手――そのイメージは本当よ。現に私が居たパーティの中じゃ、私は速さでいうなら下から数えたほうが早いくらいだったわ。――たぶん、神官のジジィと一緒くらいかもね」


 でも、とプリムティスは続けて言う。


「ただ、少なくとも鉄等級にも満たないアンタたちにとっては、そんな私でも『速く見える』ってだけなのよ。ま、いつもの甲冑よりも、今は身軽ってのもあるけどね」


 早い話、レベルが違うだけなのだ。

 


「さて、次はアンタね、ハルハ。実力を見せてもらうわ」


 そうして、シエナは引っ込み。


「私、後衛なんですけど……」


 渋々前に出るハルハは、シエナとすれ違いざまに小声で。

 超早口で、「今、しれっとプリムさまの事呼び捨てにしたの絶対許しませんからね」

 と言い捨てて、配置についた。

 シエナは、なんだあいつ、という目でハルハを見送った。



「な、何をしたらいいでしょうか……?」


 魔術にはプリムティスは疎いのだけれど。


「……とりあえず撃ってみてくれる?」


「解りました」


 ハルハはシエナと違って魔法陣型だ。

 だから工程が少し違う。

  魔気(オド)魔素(マナ)現象核(オリジン)もしくは、魔気(オド)魔素(マナ)魔素(マナ)という三つの要素を合成する『魔力合成』は同じだが、魔力を作った後が異なるのだ。


魔弾(エナジーボルト)!!」


 ――術式宣言で、対応する魔法陣を起動し。

 後は、魔力を陣が適切に配置し、記述された指示に従って効力を再現し実行する。

 いわば、

 詠唱型はマニュアル操作。

 魔法陣型はセミオート操作。


 必ずいつでも同じ効果を発揮する魔法陣型は、信頼性が高い。

 その代わり――。


 魔力を練る時間。

 術式宣言から魔術が起動完了するまでの時間。


 ハルハの魔弾(エナジーボルト)は、その両方で合計約5秒を要する。

 その5秒は、変えることができない不自由さでもあるのだ。 


 そして、全ての魔法威力は魔力の密度に比例する……。

 つまり魔力合成の精度だ。 


 魔力合成はの三種の要素をバランスよく合わせなければならない。

 イメージは、正三角形。

 このバランスが悪いと、積み上げにくいことは理解できるだろう。

 バランスよく、細かい正三角形の方が積み上げる密度も高くなる。

 バランスが悪い三角形を積み上げると、隙間が生じるため、それが魔法の強度に影響するし、バランスをとることに気を取られると、今度は積み上げる速度が遅くなる。


 

 ハルハの生成速度は確かに早くない。

 けど。


 シエナは驚いていた。

 10代にしか見えない少女の魔法技術に――。

「あの子……魔力合成が、正確で緻密だ……。魔力の密度が、全然違う……!」


 

 魔法陣に、魔力が満ちる――。


 ズドン。

 と強烈な轟音が響き渡り。

 超凝縮された魔力が弾丸となって標的――プリムティスに放たれた。



 プリムティスは防御型の戦士だ。

 けれど、どちらかと言えば魔法耐性を重視している。

 装飾品の効果、甲冑の性能、そもそもの鍛え上げた精神力による魔法抵抗力。

 そして、様々な強化。


 だが、今は甲冑も装飾品も無い。

 あるのは、生身ひとつだ。


 無論回避を選ぶことも出来た。

 しかし、後衛の盾となるべき前衛に、その考えは許されない。


「――練気・十式・剛毅果断(ごうきかだん)!!」


 プリムティスは、気を練り、自身の精神強度を超強化する。

 もともと、錬気技術は、自分の身体能力の強化に主眼を置いた技能体系だ。

 その金等級ランクの技術ならば、自身の魔法に対する抵抗力を上昇させることも可能だ。



 命中し、炸裂する砲弾級の魔弾。

 土や土砂が舞い、小さくえぐれた地面。


 その真ん中で、防御体勢のプリムティスは、その威力を耐え忍びきった。



 それにハルハは唖然とした。

 茫然自失とでも言おうか。

 

 一瞬ハルハの思考は真っ白に染め上がった。


 伝説級の戦士のタフネスへの敬服。

 自信のあった魔術を受けて無傷で凌がれてしまったショック。 

 両方がない交ぜになった感情が渦巻いた。


 あらゆる意味で、信じられなかった。


 だが、粉塵の晴れる中、プリムティスは言う。


「――……驚いたわ。……思わず、練気を使っちゃったじゃない」


 それは逆に言えば。

 魔法耐性を重視してきた英雄といえども、無防備で受ければ、ただでは済まないと判断した。


 そういう意味でもあったのだ。



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