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手合わせ シエナ編 


 さて、教えるとはいえ、何をすればいいものか。

 先生役をすることは初めてのプリムティスだ。


 先生という観点で言うならば、今はプリムティスとてヒヨッコなわけで。


「……とりあえず、どこまで出来そうなのか見せてもらおうかしら」


「どこまで? って?」

 首をかしげるシエナに。


「私と1回手合わせしてもらおうかな」


「プ、プリムティス様と!?」


「そ。やっぱり実力主義の冒険者なわけだし、実際に見るのが一番早いわ。……あとアンタも、プリムティス様って言うの辞めてよね」


「じゃあ、プリム……とか?」

「よ、呼び捨てぇ!?」

 秒も置かずに、ふざけんじゃないですよ、とハルハが食って掛かる。

 そんなこと許しませんとばかりに。

 でも。


「私から一本取れたら、考えようかな」


「やります! 武器は?」

 俄然やる気を出すシエナに、プリムティスは木剣を渡そうかと思い予備を手に取って、やはり考え直す。

 剣を使うかどうかもわからないからだ。


「……いつも使ってるのでやって」


「良いの? 真剣しかないよ? プリム様防具だって付けてないのに」

 シエナは、エルフの村で授かった黒曜石の短剣を鞘から抜く。

 黒曜石というのは、石ではあるのだけれども、実質磨かれた刃物よりも鋭い切れ味を誇る。

 掠るだけでもただでは済まない。


「平気よ。そもそも、鉄等級でもないアンタに1本取られたら沽券にかかわるっての」

 

 それもそうか。

 と、シエナは納得し。

 修道院後の空き地の、開けた場所に立つ。


 プリムティスも距離を置いて向かい合う。


「頑張って、プリムさま」

 応援するハルハ。

 次はアンタの番なのにのんきね、とプリムティスは思いつつ。



 革製の防具を中心とした、冒険者然とした小柄なエルフ。

 

 それに対峙するのは。


 赤系のドレスを纏うさらに小柄なドワーフ。

 その左右の手には、木剣を1本づつ握って。



「アンタの相手は、大魔王を倒した金剛石(ダイヤ)等級よ。遠慮はいらないわ。どっからでもかかってきなさい!」


 そんな事を言われれば。

 実感する。

 相手は、手加減をしていい相手ではないという事を。


「……行きます!」

 村が滅んでから10年。

 さらに修練した力を、今ここで試す!


 

 シエナは地を蹴り、後ろへ跳ぶ。

 手には一本の短剣。


 観戦しているハルハは驚く。


「……距離を取った? どうして?」


 接敵してくると踏んでいたプリムティスも少し驚いた様子だ。

 そして……。


 シエナの声が高らかに歌う。

「――水で、生き、火に死する――傾聴せよ、心無き刃――」 

 

「詠唱!?」

 ハルハはさらに驚き。


「……そっか、シエナは詠唱型(スペルキャスター)?……って、あれ?」

 戦士の筈なのに戦い方が魔術師なのに戸惑い。


「そう来たか」

 プリムティスはニヤリとして、そして。

 地を蹴り、前に躍り出る。


 甲冑を着ていない身軽さを活かし

 俊足でシエナの目前に迫る。

 術者に好きにさせるのは愚の骨頂。

 最優先で叩き潰すべき存在だ。


 けど。

 さらにシエナはバックステップ。

 それと共に。


 木属性・汎用術式――

「『木葉の短剣(フォリッジ・ダート)』!!」



「早い!! 全詠唱(フルキャスト)でこの速度!?」

 魔力生成の速さにハルハが驚愕し。


「……一歩足りないか」


 ずざり、と急停止しつつプリムティスは魔術の発射に備える。

 エルフの手に現れた、木葉で作られた針のような短剣が、飛来する筈だと。


 しかし。


 エルフの術は射出されなかった。

 そもそも術式にそんな効果を忍ばせてやしない。


 シエナは、その作り出した短剣を、短く振りかぶり。

 手のスナップで投げつけるのだ。


 それも、正確無比な命中精度で――。


 けれども。

 木の葉の短剣は、1秒前にプリムティスの身体があった場所をすり抜けていった。



 否!


「くっ!?」

 

 ――木片が散る。 


 瞬く間に目前に迫っていた木剣を、シエナが黒曜石の短剣を振り払って、防いだからだ。


「ざ、残像? プリムさまも凄い!」

 ハルハは感心し。


 壊れた右の木剣を投げ捨て、プリムティスは、そのまますかさず拳でシエナの懐に追撃する。

 けれど、シエナもエルフの守人(もりびと)、戦士の家系だ。

 白兵戦闘が出来ないわけもなく。

 短剣の腹を盾に、拳を防御しつつ、バックステップ。


 そのまま――

「火に変じ、(ごん)に付き添う――、解き放て――」


「今度は、後退しながら魔術を……? 見かけによらず器用なんですね、シエナさんは……」

 

 ハルハの驚きはそれだけじゃない。

 プリムティスの木剣を、打ち払い、身を捻って回避行動をとり。

 シエナは魔力を練りながらも辛うじて致命傷となる攻撃は避け続ける。

 それにはプリムティスも感心する。

「魔力を練るだけでも相当な集中力が必要な筈なのに、良くやるわ。そんな芸当は、銅等級にだって難しい……」


 それに、シエナは軽快で身軽だ。

 エルフは元々そういうものだが、特に小柄であるということが影響して、さらに体重は軽く、羽のように舞い踊る。


 でも。

 プリムティスは気づいていた。

 何故、術を主体にしているのかを。


 土属性・攻撃用術式。

岩石弾(グラニット・スラッグ)!!」


 撃ちだされる岩石弾。

 

 けど、プリムティスはその弾丸を容易く回避し。


「『木葉の短剣(フォリッジ・ダート)』!!」


「二連射!?」

 詠唱を省いて、速射された木葉短剣にハルハは驚くがしかし。


 プリムティスはその短剣すら、残る左の木剣で打ち払い。


 咄嗟にガード態勢を取るシエナのその上から、拳を叩きつけて吹き飛ばした。

 軽いエルフの身体が、転がり、濛々と砂煙を巻き上げる。


 一本先取。


 と言ったところだった。

 

 プリムティスは、地面に突き立ち、消えていく魔法の短剣を見ながら言う。

 そこに滲み、籠められていた毒をも看破して。

「――シエナ。アンタは自分の欠点が解ってるのね、だから術で戦おうとしてる。魔法の短剣に籠めた毒もそうね?」


 シエナは起き上がり。


「……わたしは、非力なんでね」


 エルフは他の種族に比べれば、筋力に恵まれない。

 さらに、体重が軽いという事はそれに拍車がかかる。

 

 プリムティスは言う。


「――でもね、アンタは、守る戦いをしたいんじゃなかったわけ?」


 これはプリムティスの勘と記憶だ。

 場末の酒場でのやり取りの中で、そう感じていた。

 そしてそのようなことも言っていた気がしている。

 何かを守れなかった。

 その後悔をシエナは引き摺っている。

 でも、シエナの戦いは違う。

 何かを守るための戦い方ではないのだった。

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