131 みんなへのお礼の為に行動しよう
「焼きたてを贈りたい!」
今までお世話になっているお礼をしたいの。
それでね、お菓子なら喜んでくれるかなって思ったのよ。
そうしたらリトが「焼きたて! これだけは譲れない!」って言い出したのよ。
ナーガはね「共同釜の『お手伝い』の時に焼けば良いのに」と提案してくれたんだよ。
だけどリトが『お手伝い』の終わりに時間を貰って焼いた『ビスケット』か『クッキーもどき』…
いいえ、ここは言葉宜しく『クッキー』と呼びましょう。
リトが問題にしているのは、後でも言うけど、難しいのは材料や道具があるけども、一番の問題は、みんな上得意の『お手伝い』先のクッキーを食べ慣れているって事なのよね。
あの高級菓子に対抗するには…
わたし達の『お小遣い』では挽きの荒い小麦粉しか手が届かないし、『つなぎ』はミルクを使いたいけど、お値段がね~…。
それに、甘みの蜂蜜も買えない。
卵を使うのも考えたけど、修道院の食べ物を勝手に使うのは気が引けるし、なにより「ゆで卵のトラウマ」があるから、判断に苦しむわね。
そこで、リトが「焼きたてが一番美味しい!」って言い出したって訳なのよ。
ナーガに納得して貰う為に、物は試しと、水練りでクッキー焼いてみたの。共同釜の『お手伝い』が終わった時にだけどね。
そして、焼いて直ぐと、院に帰ってから冷めたのを食べ比べをしたのよ。
当然、焼きたての方が『美味しい』と納得してくれてたの。
そこで、リトがどうやって『焼きたてのクッキー』を『サプライズ』で贈るのかを考えているのよ。
焼く道具をどうした良いのかしら?
提案しておいてなんだけど、思ったよりも大変みたい。
そうそう、リトってね「『サプライズ』って連呼するのは感心しないな」なんて言うのよ~。
「同じ『贈る』のでも驚きがあった方が印象深いじゃないの」
…って伝えたんだけどね~。
それなのに「『サプライズ』は悪い意味でも『不意打ち、驚かす』時にも使う言葉」だって言うのよ。このウンチク馬鹿!
日本…わたしとリトが暮らした前の世界の日本では、喜ばす為の計画が『サプライズ』であって、悪戯や悪気があるのは『ドッキリ』だよって、わたしは分別してるんだから、良いのよ。
リトのつまらないウンチクは放置するとして。
兎にも角にもクッキーを焼く竈が重要よね。
厨房の竈を使ったら『サプライズ』にならないからね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それで、竈以外で火を使うなら魔法しかない!!
…って事で、週休2日じゃないけど、『休みの日』に魔法をコソ練する空き地で、竈の代わりになる魔法を試してみるの。
もう春になったとは言っても、冷える日は何度か訪れてたの。
今日もとっても冷え込んだわ。だから、即席で縫い付けたフードを被りながら空き地に来たのよね。
== 検討その1 石積みの釜 ==
先ずは、石を積み上げて『かまくら』みたいな竈を組み立ててみたの。
その中で、ナーガが火の魔法を加減して薪枝の代わりに火を炊いてみたわ。
ナーガは練習の甲斐があって、火加減はお手物。リトの要望通りに火力の調整は出来ているんだけど、繰り返す毎にリトの表情が険しいというか、難しくなっていたの。
「駄目だよ。これじゃ駄目なんだ。どうしたら良いんだよ…」
「ねぇ、リト。だいじょうぶ? むりは、しないでね。あたしもいっしょに、かんがえるから」
「そうだよ。クレハの言う通り、俺達もいっしょに考えるから、抱え込むなよ。
だけど、何が問題なんだ? リトの言う通り、火を『輪っか』にしたり、『球体』にしたり、火力も形に合わせて調整したんだ。どうして駄目なのさ」
一番頑張ってるのはナーガだよ。魔法チートだからね、多分無尽蔵とは思うけど、魔力をずっと放出しているんだもの。
頑張っているのに、何度も駄目だって言われたら、あまり良い気持ちはしないよね。
ねぇリト。理由をはっきり伝えないと、ナーガがかわいそだよ。
寄りかかる振りをして小声で話しかけたの。
「そ、そうだよな…。
ご、ごめんなさい。ナーガの魔法は凄いよ。僕の言う通りの事ができるんだもん。だから、間違っているのは僕の方だよ。ごめんなさい」
そんな言葉を聞き終わる前に、ナーガはうつむくリトの肩を叩いたの。
「だから、抱え込むなって。直ぐ自分で考え込むのは悪い癖だと思うんだ。ほら、え~と、3本…なんだったかな…、とにかく、3本あれば良い考えが思いつくって」
『三本の矢』と『3人よれば文殊の知恵』が混ざってるわ。
何時ものリトなら、直ぐにツッコミを入れるか、講釈を垂れ流すのに、今は黙りなんて、そうとう困っているのね。
「そうだよ、リト。はなしてみてよ。3人でかんがえよう」
「そ、そうだよな。ありがとう。ナーガにクレハ」
ナーガへ丁寧に説明したのを簡単にすると、
今の方法だと、石積みの隙間から熱気が逃げてしまって、クッキーは中まで焼けないし、中まで焼くと表面が焦げてしまう。
オーブンの様に温度を一定にしたいけど、石の隙間が問題。
石を熱して遠赤外線? を期待したいけど、釜より大きな炎が必要になるので、ナーガの負担は大きいし、何より類焼して大火事になる危険がある。
こんな感じで良いのかな?
物語の様に、火の魔法でサクッと焼き肉を調理するなんていうのは、実際には色々と無理がある。って訳なのね。
それとも、この世界では。なのかしら?
ご都合な物語は当てにしないで、目の前の問題に取り組まなくちゃならないけど、今は手詰まりなのね。
確かに、わたしも良案は思いつかないわね。
「力になる」
なんて、自信ありげに言ったけど、結局はわたしは無力なのかな…。
「なんだ。それなら、火が逃げない様に留められれば良いんだよな。どういう魔法にしたら良いんだ? 試してみるから教えてよ」
「……。そ、そうだよ。熱を留めれば良いんだよ。何で気が付かなかったんだろう。凄いよナーガ」
ナーガの何気ない答えに、リトは驚いた様に目をまん丸に開いていたの。
たしかにちょっと考えれば当然な答え。
ただ、わたしも思いつかなかったから、リトと同じく驚いちゃったけどね。
『3人寄れば…』とは、よく言ったモノだね。
== 検討その2 炎の釜を創ろう ==
「だけどさ。思いつきで言ったけど、どうしたら良いんだろうな。俺の『火を球体にする』魔法でも駄目だったんだろ」
「駄目じゃないよ。それで良いんだよ。『火を空洞がある球体』にする魔法では、火が強すぎたんだよ。何で気が付かなかったんだろう。『熱気を留める』方法じゃなきゃ駄目だったんだ!」
「『熱気を留める』? 何が違うのさ?」
「共同釜では、薪を燃やす所とパンを焼く所って、レンガで別れてたよね。パンを焼く所は熱が逃げない様に円くなってたの、覚えてる?」
「もちろん覚えてるさ。冬の『お手伝い』でとっても温かくて順番が来るのを愉しみにしてたんだから」
「そうだよ。その焼く所を風の魔法で創るんだよ」
「え? リトって、風の魔法使えたの? どうして教えてくれなかったんだよ!」
「ごめん。教えなかったのは悪かったと思うけど、風の魔法は危険なんだよ。僕がもう少し覚えてから教えようと思ってたんだ」
「危険って、どんだけ危険なんだよ。それで、リトはいつ風の魔法を教わったんだよ。ずるい、ずるい、ず~る~い~」
あらまぁ。雰囲気が良かったから、静観してたのに、リトって時々勘に障る言い方するよね。悪気は無いし無意識なんだろうけどね。
間が悪い運命なのかしらね~。
ちょっと、助け船、になったら良いな~。
「あのね。あたしね、かぞくといっしょのとき、みんなが、たきびをするのに、風の魔法で、木のえだをきっているの、みたよ。風の魔法って、すごく、きれるんだよ」
「…そ、そうだよ。風の魔法は使い方でナイフの代わりになるんだよ。見えないナイフって恐いよね…」
「そっか。見えないナイフか。たしかに見えないとうっかり怪我をするもんな。リトは何でも知っているんだな」
「あ、うん。家族とみんなと、商人として旅をしていたから、色々と教わっただけだよ」
分かってくれて良かったわ。
その素直さはナーガの大きな力だよ。きっと。
その内、知識もわたし達を超えちゃうんじゃんないかしらね。
だって『お兄ちゃん』なんだもん。
「それで、何時覚えたのさ?」
「あ…」
「「あ」じゃなくて、何時覚えたのさ」
「竈の火を落とす時、消す時に風の魔法を使っていたから、こっそり『詠唱』を聞いてたから」
「そっか。それで盗み聞きした『詠唱』を、火の魔法と同じく、自分で出来る様に工夫したのか」
「そうだよ」
リトの変な揶揄の影響なのかしら? 「盗み聞き」なんて、ナーガ、ちょと失礼じゃなの?
でも、サラリと受け流すリトは、自覚があったりするのかな? 話しを早く次へ進ませたいって気持ちが分かるわ。
「例えばさ、例えばどんな魔法が使えるんだい」
「そうだね。こういうのはどうだろう」
「風の精霊よ、指先に合わせて、クルクル回れ」
リトが指先を2・3回クルクルっと回しながら唱えると、ナーガの髪がクルクルっとたなびいたの。
「おおー! すげー! なんだよ。こんなに、ちゃんと風の魔法が使えるんじゃないか。すごいな! なぁ、『お礼の贈り物』が終わったら、風の魔法教えてくれよ。約束だぞ!」
「…うん。そうだね。『お礼の贈り物』が終わったら、『火を消す魔法』から教えようか」
「約束だからな!」
「うん。約束するよ」
あらら。ナーガの好奇心に、リトが押されている感じじゃない。
迫力負けしてるわよ。しっかりしなさいよ、リトったら。
でも、まぁ火の魔法を使うんだから、『火を消す魔法』は早く覚えた方が良いわね。
私も協力しなくっちゃ。
ちなみに、リトが言う『火を消す魔法』なんだけど、『空気を留める魔法』って言っていたわね。
たしか「熱対流するのを留めて、空気を二酸化炭素で満たせば、火は消える」だったかな。
酸素が無くなれば燃えないから、『窒息消化方法』だって、ドヤ顔で講釈してたわね。
原理なんて考えなくても、「こうすれば、こうなる」で良いんじゃないの?
…って言ってみたら、「原理が分かれば活用範囲が広がるだろ」って言ってたわ。屁理屈なんだから、リトは~。
◆◇◆◇
「それじゃ、ナーガはこの即席の石積み釜の中で、こんな感じに火を並べて欲しいんだ」
そう言いながら、リトは地面に、そうねぇ~、ガスコンロの弱火みたいな絵を描いたの。
ナーガは、そのイメージを理解できたのか、直ぐに「分かって!」って答えてくれたの。
リトはホッとしたのかな? 「よかったよ。オール電化かIHクッキングヒーターの生活をしていなくて」なんて、こそっと口にしたのよね。
ウンチク馬鹿、絶好調だわ…。
「これで良いのかい」
「どれどれ? うん。大丈夫だよ」
ナーガの魔法を、リトが覘きこんで確認しているんだけど、狭い竈の入り口の前に2人が並んで壁になっているから、わたじは全然見えないのよ。
も~「邪魔よ邪魔」って言いたいけど、魔法を工夫しているのは2人なんだよね。
なんかつまんないけど、邪魔をしない様に少し離れて眺めましょうか。
「ナーガはそのまま、魔法を続けっていてね。それじゃ、これからは僕の番だよ」
ナーガは興味な瞳で、リトがどんな魔法を使うのか見つめていたの。
よそ見をしても、しっかり魔法を維持できるなんて器用だね。沢山練習したんだもん。凄いよ。
「見つめられるとちょっと恥ずかしいなぁ。失敗したらごめんね」
「大丈夫だよ。その時は練習すればいいじゃないか。俺みたいに」
「うん。ありがとう。それじゃいくよ。
「風の精霊よ、留まり回れ、クルクルと舞え」
リトは手を開いて「の」の字を描きながら唱えたの。
きっと、石積み釜の中で火が円を描いて舞う様に、空気の流れを操作してるのね。
「そろそろかな。ナーガは一旦魔法を解いてくれるかな」
「分かったけど、この後どうするのさ」
「僕も魔法を解くから、そしたら石積みに手を近づけてみてよ。あ、駄目だよ、触れちゃ駄目だからね」
リトが魔法を解くと、陽炎っていうのかな?
湯気みたいな空気が舞い上がった風にみえたわ。
なんとなく、かな? 温かい風が吹いた気がしたの。
「うわ~。温かい、というか、結構熱くなってる。あんな小さな火の魔法なのに、凄く熱が溜まるんだ。凄いや」
ナーガが驚いているから、どれどれって感じに近づいてみたの。
「ほんとだ~。あったか~い」
火の魔法だけでは感じなかった、共同釜の様な熱気を感じたの。
何時ものリトなら「コレが体を中から暖める遠赤外線っていう効果だ」なんて言いそうだったけど、じゃなくって、言いたそうね。うずうずしてるわ。
だけど、この世界では「赤外線」なんて言葉は無いみたいだから我慢してるね。
わたし以外にはウンチクを言わない様に我慢してるのか。えらいえらい。
「うん。思いつきの練習だったけど、成功して良かったよ。それに、思ったより疲れないや。もっと魔力を込めても大丈夫みたいだね」
「なぁリト。これって『空気を留める魔法』なんじゃなかったか。 どうして俺の火の魔法は消えなかったんだろうな」
「そうだね。不思議だね。僕は『魔法熱力学の法則』って呼んでるんだ」
「熱? 法則? なにそれ?」
「あ、いや、何でも無いよ。不思議だよね」
ナーガは鋭い所を突いてきたわね。
この後、好奇心で質問攻めになったらどうするの?
…って心配したけど「熱力学」とか難しい言葉を使うから、首を傾げちゃったわ。
きっと、難しい言葉は聞きたく無いって、無意識の考えちゃったのかもね。
確かに、暖かい空気を留めていたのは間違いないわ。
でも、魔法の火は消えなかったの。
以前にリトが「実験だ~」とか、はしゃぎながら水の中で火の魔法を使ったら灯ったのよね。
原理はわからないけど、本当に不思議な光景だったの。
リトは驚く程に瞳が凄く輝いていたよね。
まぁ、わたしもワクワクしてたから、人の事は言えないわ。
「それじゃ、今度は火力を上げて、再挑戦しようか」
「おう。やってみよう」
やっぱり2人共『男の子』なんだね。
山野を道具にして遊ぶ様な姿を眺めながら、ちょっと羨ましいかも。って思っちゃった。
◆◇◆◇◆
チリチリ……
え? 何かしら。
フライパンを熱している様な音が聞こえてきたの。
…って、なに調子に乗ってるのよ! 2人共!
そう思った瞬間、
>> パン!! <<
って、何かが爆ぜたの!
木の実が埋まっていたの?
それとも、石が高熱で割れたの?!
音と同時に、とてつもない悪寒がしたの。
恐る恐る、2人の方を向くと…
……2人共頭から血を流して倒れ込んでしまっていたの!
「リト-! ナーガ!! どしたの? 大丈夫。 ねえ返事してよ。 リト! ナーガ!!」
驚いてしまって、口調を変えるを忘れたまま2人を呼び続けてしまったわ。
お願い、目を覚まして。
~ お願いだから… ~




