132 魔法が失敗して怪我の治療とその後
石積みの釜から
>>> パパン!! <<<
と、まるで銃撃が有った様恐ろしい音が鳴り響いたの。
幸い、わたしは石積み釜に遮られて何も無かった。
だけどその衝撃は、開口部の正面に座っていた2人にとって、熱く熱しされた石礫が散弾銃の様に降り注いだ。
そんな不安がわたしの心を握りつぶそうとするの。
「リト-! ナーガ!! どしたの? 大丈夫。 ねえ返事してよ。 リト! ナーガ!!」
慌ててしまって、口調を変えるを忘れたまま2人を呼び続けてしまったわ。
だって、銃撃を受けてしまったかの様に仰向けで倒れ込んでしまっていたのだから。
まぁ遠目だけど、ナーガは釜に向かって左だから右側が、反対の位置のリトは左側に裂傷をっているのが分かった。
近づけば、リトの頭部からの出血方が酷いわ!
左目の眉の上辺りから剃り込みの様に切れていたのよ。痛そう~。
「リト! ねぇリト! 大丈夫? 意識はあるの?」
そう確かめながらも、胸に耳を当て、口元には舐めた手の平を添えたの。
手を舐めるなんて汚いと思うかもしれないけど、わたしは必死だったのよ。
何でも良いから、湿った指先で息吹を感じられるのなら。
そんな一縷の願いを祈りに代えて「お願い2人とも助かって」と願ったのだと思うの。
本当はどういう気持ちだったか分からないけど、「救いたい!」この気持ちに嘘は無い。
少しして、リトの右腕が肘を軸に立ち上がって、手の平をぴらぴらを揺らしていたの。
必死に手を握りしめて…
「リットー! 良かった。無事だったのね!」
「ごめ…、無事、違う。全然、駄目。目が回る。力が入らない。起きられない」
「どうなの? 具合が悪いの」
「違…。脳震盪、思う。休めば戻る。で、ナーガは、無事か?」
「え? ナーガの事…は…」
しまったわ。リトが気が付いて、ナーガの事を後回しにしてしまったわ。大失態よね。ごめんなさい。
「急…げ。救急、きゅうめい、だ。状況を、教え…くれ」
「でも。リトの出血が…」
「意識がない方が優先だ。急げ!」
「は、はい!」
前の世界でリトが習った救急救命法を見よう見まねで試そうと思ったけど、心マ(心臓マッサージ)とか、気道確保にマウス・トゥー・マウスの人工呼吸なんて無理よ。
無理なのよ。体格が私の倍近くあるナーガに対しては何の効果も得られない。そんな気がする。
わたしに出来る事なんて少ない。なんでわたしはこんなにも無力なんだろう。肩から力が抜けてしまう。
「ハリアップ!! 急げ。でき、グフ、る、こと、だけて、ゲフゥ、いいから、頼む」
そんな気力が失い駆けた時にリトが精一杯の檄を飛ばしてきたの。
リトの方が出血とか非道い状態じゃ無いの。自分の事を心配しなさいよ。
でも、「ナーガをこんな目に遭わせてしまったのは私の責任だ」なんて思って無理してでも助けたいのだと必死なのでしょう。その気持ちは充分理解したわ。
弱音に取り込まれず、わたしはリトの手足の代わりとなって、リトの力にならなくては駄目だ。
そう決心した。
「脈拍と鼓動、ヨシ。
呼吸、ヨシ。
意識は、うなり声が聞こえるから、失神していない、ヨシ(って良くないけど)。
外傷は、触れた箇所では痛みによる反応無し、ヨシ。
主な外傷は、右目上の火傷か裂傷、それと驚いた勢いで後頭部から倒れ込んだ駄目の脳震盪と判断。
以上。報告終わります」
指指し呼称をして、リトに聞こえる様に声を上げたの。
「良く、やった。えらい、ぞ。クレハ。ナーガの怪我は、右目上の。傷だけなんだな」
「ええ。多分そうみたい」
「コソ練で怪我した時の為に用意のを雑嚢から取り出し応急処置をしてくれ」
「どうするの? わたし、方法なんて分からないわ」
「大丈夫。指示通りにしてくれれば良い」
「うん。わかった…」
先ずは竹の水筒で患部を洗い流して、
ナーガが創った化膿止めの薬を布に染みこませて、傷口にあてた。
その布の上に、クッキーの生地を広げて当てて、包帯…といっても三角巾で落ちない様に縛っただけなんだけど。
「ねぇ、リト。クッキーの生地って意味があるの?」
「怪我をすれば発熱するからな。気休めだけど、無いよりは冷ましてくれると期待してるだけだよ」
「それじゃ、今度はリトの番ね。わたしはどうしたら良い?」
「とりあえず、血を拭ってくれないか」
「うわ~。そうとう出血したわね。貧血、起きてない? 大丈夫?」
「意識があるから、質問は後にしよう。それに、頭の怪我だからな。出血が多いのは仕方ないさ。気にするなよ」
気にするな!
なんて、そんな事言われたら、余計に気にしちゃうじゃ無いの。 もう~。
「あちちっ!」
「あ、しみちゃった?! ごめん。大丈夫?」
「大丈夫。出血のお陰で、それなりに殺菌は流れたんじゃ無いかな。水洗いしたら傷口に小石とか入ってないか…耳かきがあっただろう。それで出来る分を取り出してくれ」
「う、うん。耳かき持ってきたよ。これから傷口開くけど、大丈夫?」
「ふぁいほうぶ(だいじょうぶ)」
袖をしっかり噛んで痛みに備えているのが分かった。
できるだけ、優しくしてあげなくっちゃ。
丁寧に、そう思うと余計に手が震えてきたの。
「ほうひた? くらは。 えんりょ、ひらなひ」
遠慮は不要だって言うけど、私の体が震えて駄目なのよ。痛そうで、苦しめそうで、傷口に増えるのが恐い…。
◆◇◆◇◆◇◆
「大きな弾けた音がしたと思ったら、お嬢ちゃん達、どうしたのよ! 襲われたの? 殴られたの!」
声がする法を向くと、黒いワンピースの女性が走ってきたの。
ワンピース? そうね、ワンピースだけどなんな変ね。
あ、そうだ。
エプロンドレスを掛けてないから、違和感があったんだわ。
非番のメイドさんかしら?
「いったい何があったの? 酷い事をされて様には見えないけど、それにしては怪我とか大丈夫なの? その小さい方の男の子。出血が酷いわよ。指は何本に見える」
非番のメイドさんは、指を振りながら数を質問してきたの。
リトの意識はハッキリしたみたい「1本、3本…。と的確に答えるの」
本当なら、「これだけハッキリ見えれば大丈夫」って言って貰えるのだろうな~。
って安心していた所、非番のメイドさんは、
手を振りながら、指を折り曲げたり、残像を見せたりと、ムキになって数当てゲームみないな事を始めてしまったわ。
リトったら何て答えていたのよ~。
本当は、人が気にする事、勘に障る事でも言ったんでしょう。無意識かも知れないけど、悪い癖よね。早く治して欲しいわよねー。
「やめて~。おねがい。リトを、いじめないで~!」
キョドってる(挙動不審になってる)と思ったけど、何時もの余所行きなお子様言葉が出るって事は、わたしは、そんなに焦ってないみたいね。リトが元気? になったから安心したのかな。
「あのね、きずぐちに、こいしが、はいってないか、あったら、とろうとおもったの」
「そうかい、そうかい。お嬢ちゃんは偉いね。代わりに私がしてあげよう」
そう言うと、制止する間もなく、テキパキと傷口を清潔にしてくれたの。
兵士詰め所でお仕事している位だから、当然の事なのかしら?
「この、傷口の上の団子は何かしら?」
「あの、それはね、リトがきずぐちは、はつねつしてい、いたくなるから、さますために。ってしたけど、わるかったの?」
「いや~、炎症や痛みを抑える為に冷やすのはするけど、普通は濡れた布を当てるんだけど、団子とはね、発想が凄いというか、ビックリしただけだよ」
「それで、この顛末の原因はなにかしら」
「ごめんなさい。あたしがわるいの。わたしが、おせわになってるみんなに、やきたてクッキー、おくりたい。いったから、2人ときょうりょくしてくれて…。みんな、みんな、あたしがわるいんです。ごめんなさい」
言葉だけでは伝えられないと思い、日本の最敬礼のお辞儀もしたの。今のわたしの精一杯の気持ちを告げたの。
「そうかい優しいね、お嬢ちゃん。名前、教えて貰えないかしら」
「あたし、は、クレハ」
「…それで、僕が『兄』のリトといいます」
「あ、リト、もう大丈夫なの」
「立てる様になったけど、肩を借りるよ。重かったらごめんな」
「ううん。だいじょうぶ、だよ~」
「ふふ~ん。リトにクレハちゃんか。孤児院の問題児な2人…と。で、その問題児がココに何しにきたのかしら」
「僕達って問題児なんですか? みんなに迷惑をかけてしまっているんですか?」
「迷惑じゃないわ。逆よ。メイド仲間との噂だけどね、「迷惑を掛けていない事が問題」なのよって話しになった事が有るわね。子供なんだもん。甘えたい事だって沢山有るでしょうに、2人共、あまりそういう仕草しないから不思議というか不気味というか、…あ、後の方は忘れてね。ま、そんな感じね」
「迷惑掛けないのって、甘えないのって、変ですか?」
リトは、多分だけど、今後の身の振り方について考え直しをしようとしてるようね。
「別に変じゃないわ。そうね、アリアと雰囲気が似てる感じかしらね…」
「あのね、おねーさん。アリアって、どんなふうに、みてるの?」
「あら、アリアが気になるの?」
「うん。メイドさん。さっき、アリアとにてる、っていったから」
「あらら…。あのねアリアは、リト位の時からからしっかり働いてたと思うわ? 子供らしく遊んでも良いかもって思った事が有るよね。まぁシスター達と一緒の時が多いから大人びちゃったのかな」
そういえば、生まれ変わりとか、カミングアウトした事、あったような…。
う~ん、ちょっと思い出せそうに無いわ。
「おーい。そこのメイドさん。こっちに来てくれませんか~!」
非番のメイドさんは、通りすがりというか、定期的に街を巡回してるメイドさんを呼んだの。
あのメイドさん。何処かで会った様な気がするけど…何時だったかな?
定期的に街を回っているみたいだから、何度かすれ違ってるだけかも知れないけど、でも気になるわね。
どうしてかしら?
「ねぇねぇ、今は周回中なのかな? この後、余裕はあると助かるけどね?」
「ええ、今は、ただの巡回だけですわ」
「それは良かった。お願いがあるの。先に修道院へ行って………」
後の方は耳の傍で小声だったので聞き取れなかったけど何かしら?
その後、巡回のメイドさんはスカートの裾を摘まんで軽く持ち上げると、疾風の如く駆けていったの。
人って、そんなに早く走れるモノなの? それとも風の精霊の加護なのかしら?
…あ! あのメイドさん。思い出したわ!
わたしとリトがこの国に入った時に、修道院まで案内してくれた人よ。
案内が済んだら、いつの間にか消えてしまったから驚いたのよ!
だから気になってたんだったわ。
リトと一緒に、ずっと不思議に思ってったのよ。
でも納得。
あれほど、速く走れるなら、消えた様に見えても仕方ないわね!
「お~い。メイド。何処に行ってたんだよ。探したぜ」
「おやまぁ、丁度良かったわ。この怪我をした子達を修道院へ送りたいけど、手を貸してくれませんか」
「手伝いか? 諒解。それは構わないけど、仲間に一声掛けてくるから待って居てくれ」
「ええ、承知しましたは。お待ちしております」
「それじゃ、待ってる間に質問よ。魔法を使ったのは分かったわ。それで、師匠は誰なの? 普通、こんな危険な教育はしないはずだけどね」
「…ごめんなさい。僕達に魔法の師匠は、居ません」
「それなら、どうやって覚えたのかしら? 簡単では無いはずよ」
「厨房で、竈に火を入れる時、落とす時の『詠唱』を聞いたので、僕達だけで、創意工夫してみました。…ってやっぱり変ですか?」
非番のメイドは目を大きく開けたので、驚いているのが分かったわ。
「あっきれたー。『詠唱』を真似たからって使える様にはならないわよ。もしかして貴方達…」
「魔法はリ…」
リトが慌ててナーガの口を塞いだの。
「もしかして貴方達…『迷子』でしょ。そうよね、迷子なら納得できるわ」
= 『迷子』=
この国では、異世界転移・転生者の事を『迷子』と呼ぶの。
理由は分からないわ。
それに『迷子』という呼び方があると言う事は、それだけ多くの異世界転移・転生者がこの国に来ているからだろう。
そんな事をリトが気にしていたわね。
実際にありえるのかしら?
いいえ、もしかしたら、欠片程度の経験はしてるかもしれない。
だけど、国のみんなは「当然の事ですね」と当たり前の事過ぎて誰も教えてくれなかったの。
どうしてかしらね。
それはさておき、わたしとリトが『迷子』を呼ばれるのは困るのよ。
だって、牧歌的に平穏に暮らすのが目的なんだもの。
リトの願いは、わたしが平和に暮らせる事を望んだから、
だから、悪魔と契約まで結んだのだから。
その契約により、わたし達はメフィスト設定によって「魔獣に襲われた可哀想な商人の子息子女」。
コレがわたしとリトの立ち位置なのよ。
『迷子』扱いされるのは、リトの願いが無駄になってしまうかも知れないわ。
それだけは避けなくちゃ駄目なのよ。
「あたし、たびの、とゆうで、まじゅうに、おそわれて、みんな…、みんなが…。うわ~ん。おかあさ~ん。おとうさ~ん。どこにいるの~。おにいちゃんのリトといっしょにまってるよ~。はやく、あいたいよ~」
~なんて、言い訳したら、リトに頭を『ぼふっ』って感じに強く叩かれちゃった。大ぶりな嘘泣きはリトにはバレバレだったね。
「『迷子』はナーガです。魔法の力が凄いので、僕達が習っていました」
「師匠、居ないの?」
「はい。ナーガからコツを教わってます」
「へ~、ナーガって凄いのね。流石は『迷子』ね。なんでも出来ちゃうんだね」
非番のメイドが首を傾げて見上げる様に覗き込んだの。
何というか、媚びた感じにも思える仕草は、ちょっとわたしの勘に障るけど、ここは我慢よ。クレハ。自分はやれば出来る子なんだよ。頑張れクレハ。
と、自分自身へ言い聞かせ、気持ちを落ち着かせるの。
リトは、さらっと誤魔化して、ポーカーフェイス。
特技なのか知らないけど、慣れたモノね。見習いたいわ。
しかし、「『迷子』は何でも出来る。」というのは、『神様の祝福』の事を言いたいのかしら?
明確に表現してい様で、実際は「必要な所だけ隠されている」そんな気になってしまうのは何故なのかしら…?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お~い。承諾貰ったぞ~」
一旦、仲間の元へ戻った兵士が軽装で戻ってきたの。
「本当ね。良かったわ。荷馬車にお願いすると、揺れて傷口が開きそうで心配だったのよ」
「それで、どうする?」
「先に、巡回のメイドへ言づてをお願いしたわ。修道院で待っているはずよ。私達は子供達を担いで行きましょう」
「はいはい諒解。俺は誰を運べば良いかい」
「ナーガは、まだ力が這いらない見たいだから、私が抱きかかえましょう。兵士さんはお嬢ちゃんを抱えて、少年はおんぶでお願いね」
「諒解」
「子供達3人とも、折角フードを用意して来たのでしょう。風に当たると怪我に悪いわよ。風よけ代わりに、しっかりと被っていなさいね。それでは、行きますよ」
「諒解、諒解。それじゃしゅっぱーつ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ひえ~!! 速い、速いわよ。いくらわたし達が子供だからって、そんなに急ぐと揺れて大変に……。
あら???
そんなに揺れてないわ?
まるで、高級な自動車か、ファーストクラスの旅客機に乗ってい気分だわ。
魔法を使ったとしても、こんな事有り得るのかしら?
分からないわ?
なんなのよ。この世界、この国の人達って。




