106 出張の『お手伝い』9(帰路にて)
中休み後にブリーイッドの方々と軽い茶会の機会を頂けた。
昨日、いっぱいお話し出来たので静かに・・・済むかと思ったら、
「このお菓子、美味しいよ。リトも食べてみなよ!」
と、陽気なナーガの姿があった。久しぶりの甘いお菓子に、狂喜乱舞っていう感じだけど、最低限のマナーは守っているから、まぁいっか。
「ありがとう。このお菓子だね。 うん。甘くて美味しい」
「おいし~!」
甘くなった口内は、薄めのミントティーが洗い流してくれた。すっきりして食べ易い。レシピは何だろう? そんな余計な事を考えてしまった。
予想とは裏腹に、恥ずかしくも賑やかになった茶会は終わり、ブリーイッドのメグから問い掛けられた。
「何か欲しいものは無いかしら? 渡せるモノなら贈って差し上げましょう。楽しい時間を頂いたお礼ですよ」
「めっそうも・・・とんでもございません。僕達は『お手伝い』として来ているのです。お気遣い頂かなくても結構ですよ」
「依頼の報酬とは別に、ですよ。わたくしとレグ、ベルからの気持ちなのですから、遠慮しなくて良いのですよ」
「あの~。ありがとう、ございます~。でも、リトがこう言ってるから、あたしも、おきもちだけで、まんぞくれす」
『ナーガくんはどうかな。お菓子が余っちゃったけど、どうかしら」
「本当ですか。ありがとうございます。是非ともよろし・・!」
バンッ!
ナーガの背中を強く叩いた。「いきなり何するんだよ!」と不満の声に、「本マグロじゃないんだから。こういうのは、3回は断って、それでも勧めて頂けたら、其処まで仰るのでしたら、是非とも喜んで」ってするのが、ワビサビなんだよ!」
と、教えてみたが、首を傾けられてしまった。
そういえば社会の授業では一度も習わなかったっけ。失敗したかな?
「ナーガはお菓子がお気に入りなのね。とりあえず余り物で悪いけど、帰路の分は包んであげましょう。ナーガくんはお菓子が希望。それじゃ、リトくんとクレハちゃんはどうしよっか?」
ここまで話しが進むと断り難いな。
「僕は、もう着なくなった古着が欲しいです」
「あたしは~、おさいほうがしたいな~」
予想から桂馬飛びな返事に、少々沈黙があったが、間もなくクスクスと笑い声がたちこめた。
「リトくんは変わった希望をするのね、ちょっと驚いちゃってごめんね。直ぐには用意できないから、あとで届させましょう」
「ありがとうございます」
「ありがと~、ざいます」
別れを告げて、帰路の客車へ乗り込んだ。
席順は来る時と同じだけど、空気がとても重く感じる。
それもそのはず。ナーガが表情無く落ち込んでいたからだ。
魔法は便利かも知れない。
しかし、扱い方を間違えると事故を、大怪我を、最悪は体を失ってしまう危険を伴う事を教わった。
先日の魔法暴発事故により、腕を失なってしまう所だったと思い出したのだろう。凄く悩み落ち込んでいる。
確かに、前の世界での経験を思い起こせば、例えば工作ナイフや包丁は鋭利であればある程、便利だった。便利故に油断して、怪我をした時のショックは大きかった。
調子づいて扱ったから当然かも知れないが、2・3カ所、指に深い傷を負った事がある。母親に心配をさせたくなく、治療費も無かったので、薄皮1枚を頼りに自力で縫い合わせた事がある。腱まで届いて無かったの不幸中の幸いだった。
この怪我の後、暫く刃物を持つのが恐かった。
ナーガの心境も同じ感じだろう。それとも、神様から『魔法チート』を授かっている分、私の経験以上に恐れおののいているのかも知れない。
そんな重苦しい雰囲気のまま、ナーガが溜め息交じりに呟いた。
「俺、魔法が使えないのに、冒険者になれるのかな・・・」
「ナーガは、冒険者になりたいの? きっと大丈夫だよ。12歳になって姫様からお許し頂けたら旅に出られるって、ブリーイッドの方が言っていたじゃないか。まだ1つ年以上もあるからゆっくりと魔法の練習をしようよ、きっと大丈夫だよ」
「そうだよ~。あたしもてつだうから、いっしょにれんしゅうしようよ」
慰め半分、応援半分、おまけでこの重苦しい空気を何としたい気持ちを少々加えて、優しく励ました。
「リトは、恐くないのかい? 大怪我をしたらと考えても平気でいられるの?」
「そうだよね。魔法は使えたら便利だけど、危険で恐いって思うよ。でもね、便利な事は同じくらい危険が隠れてるって思うんだ。ナーガはその危険を知ったんだよね。だからこそ魔法を覚えるべきだと思うんだ」
これもまた前の世界の例えとして、自動車運転についての事故報道を思い出しながら、言葉を変えて励ました。
そう、自動車は確かに便利だけど、コンマ1秒のミスで人の命を奪う凶器だと散々教習させられた。
だから「自分だけは大丈夫」「自分だけは失敗なんてしない」と油断せずに取り組めばきっと立派な魔法使いになれると信じている。
「リトは凄いや。大人の中で商売していると、リトみたいに大人っぽくなれるのかな」
ふとしたナーガの一言に、私の過去がバレたのかと一瞬驚いた。驚いたが「商売」という単語があったのでメフィスト設定を疑っていないと安心できた。一応、言い訳を話しておこう。
「うん。もしかしたら、そうかもね。生活の方法は両親に少しずつ教わったからかも知れないね」
「あのさ。リトとクレハは冒険者になろうとは思わないかな?」
ナーガの質問に答えるのに少々戸惑った。同伴のメイドからトキザミ様や、ましては姫様へ伝わったらどうなるのだろうか? 何となく不安を感じたのだ。
「ねぇねぇ、ぼうけんしゃ、ってな~に? あたし、わからないけど、たびはできるのかな?」
「そ、そうだよね。クレハはまだ小さいから分からないか」
「僕は・・・。僕はこの国に助けられたから、お礼をしたいと思っているんだ。だから冒険者にならないと思うんだ。・・・ただ、もしも旅が出来るチャンスがあれば、一度は生まれ故郷に帰ってみたいとは思ってるんだ」
一応、メフィスト設定を強調してみた。
中身は五十路手前の中年とはいっても、流石に異世界に転生したのだから『冒険者』に憧れない訳がない・・・と思う。まぁ厨二病を拗らせている私だけかも知れないけどな。
それに、ナーガと一緒に魔法とか冒険者になる為の特訓すれば、私もクレハも冒険者になれるかもしれない。淡い夢だろうけど、将来の可能性は広げて損はないだろう。
気になるといえば、恩を仇で返す感じになるので、不安というか、申し訳ない気持ちでいっぱいになりそうだと云う事だ。
懐かしの修道院に帰ってきた。
というと大げさかもしれないが、1泊2日なのにとても長旅をしてきた気分なので仕方ないと思いたい。
それで、だ。下車早々に賑やかな3人組に詰め寄られて「客車の乗り心地は?」「どんな所だったの?」「何をしてきたの?」と、答える間もなくひたすらに質問攻めにあってしまった。
この賑やかな囀りが、彼女達の「おかえりなさい」なのだろう。
こう考えたら、本当に長旅をしていたんだと云う気になってきた。
歓迎は嬉しいけど、何時になったら治まってくれるのだろうか? 気疲れている分、流石に辛い。
パンパンパンと柏手の後に、シスター・テレサから
「ほらほら3人共、そろそろ夕餉の時間よ。早く準備なさい」
と指示があった。
「は~い」
3人同時に返事して厨房へと去って行った。
「それで『お手伝い』先はどうでした?」
ナーガが返事に戸惑いオドオドしていた。
あの惨状の跡を思い出したら言葉が思いつかないのも仕方が無いか。
私だって、前の世界では『労災事故報告』を聞いて言葉が出なかった。ましては子供のナーガにはどれほどショックな出来事だろうか。想像に難くないだろう。
ナーガの袖を引いて、返答を耳打ちした。
「こ、この度『お手伝い』では、貴重な体験ができました。ありがとう、ございました」
ナーガがこう言ってから、みんなで一緒にお辞儀をした。
「『どんな体験』が出来たか分からないけど、大切な事を学んだ様でなにより。客車といえ長旅で疲れたでしょう。自室で夕食まで休んでなさい」
確かに、時間的には長旅だった。
客車だからだろう。揺れないようにゆっくりと操車されたので、柔らかい座席といえども座り疲れてお尻と脚が少々辛かった。
「俺、冒険者になれるのかな~?」
部屋に戻り早々に横になって不安が漏れた。
「大丈夫だよ。魔法を覚えればきっとなれるよ。僕だってちょっとだけど出来たんだから、ナーガだって直ぐに出来るようになれるさ」
「でもリトの方が早く出来たじゃ無いか!本当にできるのかな?!」
流石に夜なべして特訓したとは言えない雰囲気だな。
「ナーガは『迷子』というか、この世界とは違う世界から来たんだよね。もしかしたら魔法の方法が違うのかもかもしれないよ。アリアが教えてくれたじゃないか。「その人に合った方法を探す」必要があるんだって」
「そ~だよ~。あたしも、てつだうから、いっしょにれんしゅう、しようよ~」
「ありがとう、リトとクレハ。協力、期待してるから」
「分かった!」
「あ~い」




