078 計画を実行へ
布生地の質は諸事情があって予定よりも安くなってしまったが、その代わり量は確保できたから良いとしよう。
諸事情・・・まさか買い出しの段階でノブナガが金袋を無くすとは予想もしなかった。
無くした、と言っても何処かにうっかり置き忘れてしまったのではない。私もクレハもそこはしっかり管理していた。無くした理由はスリ盗まれてしまったのだ。
道ばたで私達よりもボロを纏った子供2人が擦れ違いの時に不自然によろけてぶつかってきた。私の方はかろうじて無事だったが、ノブナガの方は間に合わなかったのだ。
金銭の殆どを私が管理していたとはいえ、ノブナガの手持ち分を失ったのは痛手だった。
「それで出来上がったのが、この髪飾りなのね。リトって器用なのね」
今日は休みのレミアは、私が作ったコサージュを眺めながら率直な感想を口にした。
コサージュのデザインは大きな花に小さな2つの花を添え、谷切りした2重のリボンを垂らしたものだ。これを髪に留めるヘアクリップに縫い付けた。
ヘアクリップの形状は100均でも売ってる様な細長で『A』のシルエットをしたバネ式と云えば分かるだろうか? 洗濯ばさみ風でも針金を2つ折りにしたピンでもない。
「あの、失敗作で良ければレミアの分もあるけど、どうですか?」
「ありがとう。気持ちだけ受け取るわ」
「でも『お手伝い』先を選ぶのとか、これから渡す段取りを組んだりとか、協力してもらったから、お礼をしたいのだけど・・・」
「大丈夫よ、気にしないで。『報酬』は後でしっかり頂くから、本当に気にしないでいいわ。それにね、アリアの為に手作りした物はアリアだけの物なのよ。私が身につけたら変でしょ」
アリアだけの物、と言うのは一理ある。失敗作とはいえ、ついでに出来た物があるのは余り良い気にならないと思った。
そう諭したレミアは心からの笑みを浮かべていた。普段とは違う笑顔は、2人きりの時に見せるクレハに似た雰囲気を漂わせる。
ちなみにノブナガはというと、女の子に贈り物するのは恥ずかしいから部屋で結果報告を待つと逃げ出した。3人一緒じゃないど意味が無いと諭したけど駄目だった。異性を気にするお年頃なのだろうか、このおませさんめ。
「ほうら、厨房の片付けが終わった今なら誰も居ないから、気兼ねなく渡せるでしょ。行ってらっしゃい」
そう言ってレミアは私を押し出す勢いで送り出した。少し遅れてクレハが追って来る。
「あら、リトどうしたの? こんな所で。『お手伝い』はお休みにしたの?」
「あ、あのう・・・、アリア」
「なぁにリト」
可愛い笑顔と返事に顔が火照る。
「あの、アリア「今までありがとう。ここに来た時からずっとお世話してもらえて嬉しかった。これは、そのお礼です」3人で作りました」
そう言いながらコサージュを2つ、クリップの向きから左右1対分を目の前に掲げた。
レミアから教わった言葉を丸暗記しただけなので、めっちゃくちゃ棒読みだった。しっかり伝える事で精一杯で恥ずかしいとか感じる余裕は無かった。
「これを私に? ありがとう、高かったでしょう。無理してない? 大丈夫」
「大丈夫だよ。手作りだからそれ程でもなかったよ」
直ぐに気遣う言葉が出るなんて、アリアって優しいなぁ。と思いながら私も心配しないでと切り替えす。
「そうなのね。・・・でも・・・たしかにリトに私の生い立ちを話した事はあったけど、誕生日まで教えた事あったかしら?」
「いや~、今までお世話になった、お゛おぉぉぉ・・・」
突然、クレハが両手の親指を立てて両脇というか腰に突き立てた。不意を突かれたのもあり、痛さと、くすぐったさでに耐えきれずうずくまってしまった。
「あらら、どうしたの突然うずくまって?」
「アリア~。おたんじょうびなの。おめでとう。お礼といっしょにお祝いできるなんて、あたしうれしい」
「あらあら、クレハ。ありがとう」
そういえばアリア自身から生い立ちを教わったのを思い出した。きっと修道院にお世話になった今日を誕生日としたのだろう。
「リトってば、女の子が誕生日の事を話したのに、野暮な事を言うんじゃ無いわよ。アリアの事分かってあげなきゃ駄目だよ」
クレハは、うずくまったままの私に覆い被さり、日本語で囁いた。
「この飾り、ここで着けてみてて良いかな」
「うん。いいよ」
「でも変わった形なのね? どうやって着けたらいいの?」
「アリア~。リトがね、着けてくれるって~」
突っつきながらクレハが答えた。余計な事を言うなよって思ったが、このクリップ形状のモノはここには無いから戸惑うのも当然か。
しゃがんで目線を同じ高さにしたアリアの前で、簡単にクリップの着け方を説明してから
「それじゃ飾り付けるけど、ヘアバンドは外しても大丈夫?」
「ヘアバンド? え~とこのスカーフかしら。ちょっと待ってね・・・はい、それじゃお願いね」
お願いされました。と頷いて、大体こめかみ辺りで髪の毛が目に掛からない様に引き寄せながらパッチンパッチンと飾り付けた。
顔が近いとか、女の子って良い香りがするな、とか甘い感情が湧き上がり、胸がアップテンポに円舞を奏でる。微酔いに似た目眩を感じながらギコチなく着けた飾りは大丈夫だろうかと、少々心配になった。
「はい。できました」
その合図から直ぐにコサージュを手で確認してから
「ありがとう。ねぇどうかな。似合ってる?」
「うん。似合ってるよ」
お約束みたいな返事に、クレハが柏手1つ打って割り込み、全身で喜ぶ様に表現した。
「アリアすてき~。とってもきれい~」
「そぉ?! 嬉しいわ。リトにクレハありがとう」
そういったや否や、待ちきれないという感じに、足早で厨房へ去って行った。桶の水鏡に映る姿がとても嬉しそうで、眺めている私も嬉しくなる。
もう良いだろうと、一旦レミアの方へ戻りながら、クレハが日本語で呟き始めた。
「折角良い雰囲気なのに、なんで「綺麗」って言えないかな。このヘタレ! 見た目通りウブなの?!」
「中身中年に『ウブ』は禁句だ。それに恋とが幼女には早すぎ」
「なによ。中身なら、わたしの方が2歳年上よ。恋バナくらい楽しませなさい」
「こ、恋バナって・・・」
「なんだ、やっぱり気付いてなかったんだ」
「2人ともお帰り。何を話してるのか分からないけど仲が良いわね。それと『ごちそうさま』リト。とても素敵だったわよ。アリアの嬉しそうな立ち振る舞いも新鮮だったわ」
レミアが笑いを堪える様な笑顔で迎えてくれた。
そっか、『報酬』ってこの告白みたいなやり取りを間近で、特等席で眺める事だったのか。レミアって恋バナが好物そうだもんな。
今頃になって顔で茶を沸かせそうな位真っ赤になってしまった。
「それよりも、リトはもっとアリアに踏み込まなきゃ駄目じゃ無い。心的な意味で。折角日取りとか調整したのに」
「そうだよ~。もっと近づきなさいよリトったら~」
「も、もしかして2人とも、こっそり話し合ってたとか?」
「話し合いなんてしてないわ。女の子が『誕生日』って口にしたのよ。気があるかもって、誰だって分かるわよ。しかも『手作り』の贈り物なんて、なんて美味しいかしら」
「そうだよ。『てづくり』だもんね。アリアのえがおを見たらわかるじゃない」
「そうよね、クレハ」
「だよね~、レミア」
恋バナになると、なんでこんなに息が合うんだこの2人は?
しかし、ノブナガへの報告はどうしようか。クレハにからかわれたくないから「無事に手渡せた」ってサラリと伝えるか。男の子なのだから恋バナの興味が薄い事を願おう。




