077 アリアへの贈り物
「なぁ、なぁ、リト。アリアへの贈り物って決まったの?」
「ごめんね、まだ決めてないんだ。何が良いと思う?」
「女の子の好みなんて俺にも分からないよ。商人だったリトの方が詳しいんじゃないのかい」
「そうだよね、ごめん。今度の『冒険ごっこ』の時に、またお店探ししようか」
夕食後の自由時間、濡れたボロ布でお互いの汗を拭いあっている時の問い掛けに、情けなくも質問で返してしまった。
正直な所、何を選んで良いのか悩んでいたのだ。
装飾品が良いのかな? という考えはある。だけど装飾品といっても種類は沢山ある。ペンダント、ネックレス、ブローチ、指輪にイヤリング。どれだと喜んでくれるだろうか?
国、と言っても現代の日本的には地方都市程度の規模なのでアクセサリーショップは無いのだ。
せいぜい衣類を扱う店が、箱に入れたまま置いていて、お客の要望で「これは如何?」と提案する時しか箱を開けないので、どういうデザインがあるのか分からない。
衣類を扱う店といっても、布生地と古着の扱いが主で、『志ん邑』みたいな出来合いの服なんて滅多に見かけないが、詳細は機会があればその時にでも。
それで『お手伝い』に行ったお店でアクセサリーについて尋ねたら銀貨1枚は掛かるのだというのだ。院の小遣いでどうなるって額じゃ無い。
逆を考えれば、孤児院の子がそんな高価な装飾品を身につけたら周囲との軋轢は避けられないだろう。
そんな訳で手詰まっていた。
「ん~・・・それじゃリトより女の子の事ならクレハに聞いた方がいいね。クレハなら何が欲しいかな?」
「あたし? ・・・あたしならカンザシほしい」
「カンザ?」
「あ、ううん、かみ飾りがほしいの~」
丁度黒髪を拭っていたのもあるのだろうが、髪に掛ける装飾品を提案してきた。
髪飾りというと、髪をまとめる為にリボンやスカーフで縛っている人が殆どだから、布生地を探して終わりだけど、これで良いのだろうか。
「え~と、リボンを探せばいいのかな」
「そこは、リトが考えようよ。とくいでしょ」
「へ~、リトって縫い物できるんだ」
「あ、うん。ちょっとね」
男の子が裁縫できる、というのはちょっと恥ずかしい気がしたが、小学校では家庭科の授業があるから裁縫は少し得意、と言っても違和感はなかったかな? まぁ無理に隠したり遠慮する必要は無いか。
ノブナガが寝静まった後に作戦会議を始めた。
「それで、髪飾り案で進めるとして、リボンやスカーフだと素っ気なくないか」
「そこはリトのオリジナルにしましょう」
「オリジナルって、刺繍するのか・・・。勘弁してくれ、あんな細かい事は無理だから」
「それなら簪に飾りを付けるのが良いの」
「簪だとレース編みか小さい布折り、あるいはシルバー調のアイテムだろうけど、無理! そんな細かい事出来ないし、レース編みはした事が無い。それにアリアはボブカットだから簪を刺せないし似合わないと思う」
「無理無理いうけど、お人形用にはちゃんと繕ったじゃない。その大きいので良いんじゃない」
「人形って、黒歴史をほじくり返すなよ。ま、まぁコサージュなら何とかなるけど、この国でヘアピンなんて見た事ないぞ。どうするんだよ」
「作ればいいじゃない?」
「作るって簡単に言うなよ。材料も工具も技術も無いって」
「別にリトが作るんじゃ無くって、『お手伝い』先に頼むのはどうかしら。これなら何とかならない」
「なるほど『お手伝い』先に外注か。都合良く見つかれば良いけど・・・」
最近の『お手伝い』は工房とか商店から呼ばれる事が多くなってきた。理由は数えられるから。つまり計算が出来るから、材料や仕入れの数を任せられるというのだ。まぁクレハが居るので重労働的なのは避けて貰えているのもあるけれど。
とにかく計算出来るのは仕事の幅が広くなるので有り難い。
ノブナガはここの算数の授業は不参加だけど、小学校の授業分は問題ないので助かっている。教育環境が整っていない中世的ファンタジーな世界での仕事を考えれば、現代社会の義務教育って素晴らしいなぁって改めて思った。
今日の休みはベストプレイスな木陰の下で、行き詰まった計画の修正を考えている。
なお、ノブナガには久しぶりに稽古の参加を条件付きで促した。条件、それは武具を使わない事。戦いの場では必ず武具があるとは限らないし、折れ、無くし、奪われる事は容易に起こり得る事だ。
そんな状況に追い込まれた時に徒手空拳での戦わなくてはならない。稽古道具が無い今ではこれを学ぶのが良いだろう。
『武器チート』を封じられているから苦戦すると思ったら、基礎ステータスアップの恩恵だろう。大人と十分にやり合えていたのは少々驚いたが、武器があるより技のキレが格段落ちているのが分かった。
空手とか柔道のような素手の技を身につけるのを、今後の課題にした方が良いだろう。
さて、計画を打ち合わせるのに邪魔なノブナガからは体よく離れる事ができた。普段の猫なで声ではなく、本来の会話を聞かれたくなかったからだ。
先ず、材料の目処は付いた。布生地は特に問題は無いが、できるだけ質の良いのを探すのみだ。
ヘアピンは鍛冶屋の『お手伝い』があったので当てが付いた。バネが必要な形状の為に特注品になってしまうから、そうとう費用掛かると思っていた。
所が、時計用のゼンマイ工房に事情を説明したら安価で作ってくれるとの事。少々複雑な形状をお願いする事になるが、「新しい物に挑戦する事は技術と精度の向上にもってこいだ!」との事だった。本音なのか気を利かしての言い訳かは知らないけど。
一抹の心配としては工房の専売品にされたくないので策を練る。3又のホーク状でデザインして、これなら髪に絡みやすいよ。とお願いする。
仕上げ作業で3又の両端をリベットで打ち付けるのは自分で行う事で隠匿を図る。まぁ直ぐにバレてしまうだろうか、工房の漢達が少女の髪飾りに興味を持つ可能性は薄いと目論んでいた。
ここで材料ばかり気にしていて裁縫について失念してしまっていた。針は問題なく手に入る。しかし裁縫用の鋏が高価過ぎた。銀貨2枚以上なので手に入らない。借りる当ても無いので行き詰まっていたのだ。
「リトとクレハがここに居るのは珍しいわね。どうしたの」
困惑している私達に気付いてか、シスター・レミアが近づいてきた。協力者のレミアに事情を説明すると、
「鋏なら先折れの壊れたのならあるわ。あげてもいいけど、ちゃんとつかえるの? 怪我したら心配だわ」
「ほんとう、ですか。ありがとう。レミア!」
「こらこら、リト。『シスター』忘れてるわよ。それに壊れてて使えるか分からないから期待されてもこまるわよ」
「レミア~。ありがとう~」
クレハがぎゅ~っと、シスター・レミアの脚に抱きついて、先にお礼を言った。
「2人とも仕方ないわね。後で渡してあげるけど、本当に期待しないでね」
届いた先折れの鋏には錆が結構あった。壊れて使ってないと言っていたからそれ相応だろう。
何処かの工房でお願いするか。砥石が使えれば自分でも出来るから、何とかなりそうだ。
「なんだい坊主。刃物研ぎなんてできるんかい。こりゃたまげた。どうだい、うちの工房に来ないか」
「え、と。僕が使える程度ならできるよ。でも人様のはまだ研げないよ」
「がはは。そりゃそうだろうさ。坊主が商売に出来たら、俺たちが干上がっちまう。でも心配はいらねぇ、みっちり仕込んで一人前に育ててやる」
「・・・ありがとうございます。考えてみようと思います」
期待されたのは嬉しいけど、将来の選択としてはちょっと微妙だなぁ。物作りは好きな方だけど、灼熱と鉄粉塗れな生活は遠慮したいかな~。
まぁ急がなくても『お手伝い』している内に天職が見つかるだろう。ここは急がずに濁して返事しておこうか。




