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悪魔契約に縛られた異世界生活 第2幕(異世界生活編)  作者: 雨宮 白虎
第3章 トキザミの国(生活編)
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060 バイリンガルの罠

 寝ぼけ(まなこ)に映る天井の模様が、夢見では無く、一日の始まりを告げている事に慣れてきた頃、生活に異変が起こり始めた。

 信永と意思の疎通が難しくなってしまったのだ。

 別に喧嘩をしてしまった、と言うのでは無くて・・・、会話が出来なくなってしまったのだ。


 出会った時は、信永の『共通言語』なスキルで『日本語』で会話が出来ていたのだが、国語の授業を重ねる毎に、信永の言葉がゲシュタルト崩壊・・・って意味が違うか。何となく格好いい言葉と思って言ってしまったのは、反省しよう。

 この国の言葉と日本語がごちゃ混ぜになってしまった。


 イメージとしては日本の文法で単語が英語になってしまった。という感じだろう。

 例えば

「私は、これから、仕事をする」

 という言葉を普通に翻訳すれば

「I well work from now」

 となるはずなのに

「ミービー、ジャスト、ワーキング」

 という感じで、むちゃくちゃな和製英語を聞かされている感じで混乱してしまう。


 違和感を感じ始めた頃は、癖のある話し方とか、子供独特な『キャラ創り』みたいな何かだろうと考えていたし、皆も交えて会話する時は言語が混ざるのは当然の事だから、特に気にしていなかった。

 しかし、だ。

 いつの間にか言葉が多重化してしたのだ。テレビで言う所の『二カ国語放送』で副音声も同時に聞こえている感じで良いだろう。

 この多重化が私達3人で会話する時にも起きて、やっとと言うべきなのだろう、始めて問題として意識し始めた。

 試行錯誤の結果、『日本語だけで話す』と意識すればちゃんと日本語になるのだけども、『この国の言葉ならば?』と考えると多重化してしまう事が分かった。

 そう、信永のスキルは優秀で、聞き手の意識を丁寧過ぎる程に反映していたのだ。良く言えば『ハイスペックなスキル』だが、悪く言えば『お節介スキル』だ。


 しかし、改めて考えれば、問題が在るのは私とクレハの意識の方だったのだ。


 推測ではあるが、言葉を一先ず日本語に翻訳してから思考するのが原因だろう。

 先程の英語の例を用いれば次の様になる。

「I well work from now」

 を一旦日本語として「私、これからする、仕事を。今から。」と考えてから

「私は、これから、仕事する」

 と訳し直して認識する。だから2つの言葉が混ざってしまう。

 もちろん、この国の言葉で話す時は逆の事をするので、同じ事が起きる。

 「I well work from now」は「I well work from now」であって「私は、これから、仕事する」では無いらしい。つまり、ペーパーな受験英語の呪縛に取り憑かれた様なモノだ。



 色々と考えてみたが、一先ず信永とは距離をおいて付き合う必要がありそうだ。

 今までは通訳の為にと、甘言虚言で誤魔化しながら一緒に居てもらっていたのに、問題が起きたから離れてくれって云うのは、大変に身勝手な事だというのは理解はしている。

 しかし、何時までも通訳頼りという訳にはいかない。

 そう。時期が来たのだ。これから独り立ち出来る頃合いなのだ。

 自転車で例えるなら、補助輪が無くても大丈夫になった様なモノだ。逆に、補助輪が邪魔をして運転が出来なくなっている時期なのだ。

 そうやって、自分に言い聞かせて自己正当化を謀る事にした。正当化を謀らないと信永に申し訳なくて顔を見るのを躊躇(ためら)ってしまうのだ。



 では、どうやって距離をおいたら良いのだろうか?

 一緒に居てもらったのは、もちろん通訳を望んでいた訳だが、それと同時に、暴走しない様に監視する目的もあった。

 外国で暮らすというイメージで良いのだろうか? 習慣が異なる国で暮らす場合は、色々とマナー違反とか行儀が悪いとか、そう失態を犯してしまうのは致し方無い。

 それでも子供なら、少々迷惑を感じる位で済むだろう。そしてその反省を以後の生活に活かして行けば、馴染めると思う。

 そう・・・普通の子供なら。

 しかし信永は違う。『3柱の祝福(トリプルチート)』を賜っている。これがどれ程大きいのかは今は誰も知らない。

 そうだなぁ・・・私としては、小さい熊や虎が「遊ぼう」っと飼育員へ(じゃ)れるて、大怪我を負わしてしまう。という事態が起きないか、ずっとヒヤヒヤしていた。

 前に、魔法の呪文を試した時は不発だったけど、あの時は何事も起こらないで良かったのだ。チート持ちの失敗は、それこそ災厄レベルの事故になってしまう。

 事故が起きてからでは遅い。そう考えると、チート持ちを野放しに出来る訳が無い。


 『神様』も、与えた能力の説明や使い方を指導すれば良いのにと思う。「特別な能力を与えたからがんばれよ~」みたいに放り出すのは非道すぎやしないか?

 大きい力は、些細な失敗で大災害になるんだって知って欲しいんだ。



 距離をとって監視できる事と言葉と文字を自習出来る事に、何か良い方法は無いだろうか? まるで禅問答をしている気がしてきた。


「ていあん~! 本は借りられないかな?」

 クレハが案を出した。

「本? 本てどんなモノを? 大切な物らしいから図書館から持ち出すのは無理だぞ」

「ちがうわよ。レミアにおねがいして、童話の本をいくつか、かりるの。それでね・・・はつおんは習わないとダメだけど、それなら国語のときにおしえてもらうの。どお? このていあん」

 自信たっぷりにプレゼンしてきたのには、ちょっと驚いた。普段は聡明だけどおとなしいキャラ、というイメージが有ったからだ。

「みんなのまえでは、おとなしくしてるけど、こっちが自だとおもうよ~。それに、わたしがお姉ちゃんなんだからね。しんぱいになったら、なんでも相談しなさい!」

 見かけで判断してる私には、クレハは、おてんばな妹って位置づけなのだから、クレハの『自称年上』というのは違和感しか無い。まぁ人目が有る所ではしっかり『兄妹』を演じているので、好きにさせいる。

「それで、『私達は本を借りられた』。では信永はどうする。読書なんて付き合わないだろう」

「そこはね、おてつだいの兵士さんにおまかせするの。それで、わたしたちは、みはらしが良い木陰で読書と監視。どう! めいあん、でっしょ!」

「成る程なぁ。最近飽きてきた感じが見られるから、その解消にも良いかもしれないね」

「でしょ、でしょ~。それじゃさっそく、こうどうよ!」


 図書館の本を貸してくれそうな人はシスター・レミアだろう。テレサの方はキツいイメージがあって玉砕して落ち込みそうだから。


 今までの『探検ごっこ』の成果を出すチャンスだ。闇雲に走り回っていたのじゃなくって、一応生活の軌跡というか、足跡の頻度とかも調べていたのだ。院内なら直ぐに見つけられるさ!


 と、自信以て探し回ったけど見つからなかった。

 なんというか、時と場所が違うと出会う人が変わるSLG(シュミレーションゲーム)をしている気分になってきた。

 疲れて礼拝堂の入り口の傍で休んでいると、シスター・レミアが院の外から帰ってきた。どうりで見つからない訳だ。

「ねぇ、シスター・レミア。あたし、本がよみたいの。かしても・・・・・くだ、さい」

「あらあらクレハちゃん。今は『シスター』じゃなくて、ただの『レミア』よ」

 良く見る・・・必要はないか。

 普段のシックな修道着と違って、今はブラウス襟に、水色でスカート部がふんわりしたワンピース姿だった。

「レミア、かわいい・・・」

 ふと漏らしてしまった。私服の柔らかいラインが、レミアの包み込む様な心を表現しているで、本気で綺麗に思ったのだ。

「リト、上手ね。分かったわ。いくつか、さがすわ。後でね」

「あ、ありがとうございます」

「あ・・・りがと・・・う」


「・・・そうそう。私服の時は、『シスター』、いらないわ。私服は、お休み・・・。だから、いらないの。よろしくね、リト、クレハちゃん」

 今まで何となく付けていた敬称は、実は意味があったんだと、今更気がついた。

 私服姿を見たのは初めてだから致し方ないが、こういった礼儀も学ばないとならない。それで学んだ事を信永に教えるのが、今まで通訳をしてもらったお礼になるだろう。


 よし。先ずは私達の方の目処が付いたみたいだ。

 次は信永を、兵士にどの様に紹介してあげるかだ。



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