061 力の見極めと対策と
出会った時から私とクレハの世話焼き・・・主に通訳なのだが、その為に好きな事をさせてやれなかった。そんな罪悪感は、ずっとあった。
特に最近は、稽古をつけて貰っている少年達を羨ましそうに眺めている信永を見るのが辛い。男の子なのだから剣を振るうのは好きそうだもんな。
今、信永の声が多重化して聞こえる問題が出てきたというのは、私とクレハは自分の力で会話が出来る様にステップアップする時期になったと同時に、信永もこの世界に慣れてきたのだと、都合良く考える事にした。。
クレハの提案通り、信永を修道院に手伝いにきてくれる(多分非番の)兵士さんに面倒を・・・じゃなくって稽古つけてもらおう。屈強な彼らならそうそうに怪我をする事は無いし、加減して怪我をさせる事もないだろう。
ただ・・・お願いをする前に確認しておきたい事があった。
それは基本ステータスがどれ程あるのか? についてだ。
だいたい、異世界に転移とか転生された人達は『神様の祝福』によって基本ステータスが上昇している場合が多い。チートスキルがあれば尚更に上昇しているに違いない。
心配し過ぎだと思われるかもしれないが、用心に越した事は無いと思う。
これは私的な考え方なのだが、大きな力を手に入れている状態を現代社会的には『自動車を運転している』状態だと思っている。
自動車を運転するというのは、自分の体力よりも『速く』『長く』『力強く』行動する事が出来るのだから、ある意味チートな能力と例えても過言では無いと考えているからだ。
多くの人達が運転するのだから特別な事では無い。と軽んじるかも知れない。しかし、よくよく考えて欲しい。ほんのちょっとの気の緩みで『人を殺せる力』を駆使している事を。
殺傷事故を起こしてしまってからでは「反省して今後気をつければ」等と言っている場合ではない。その1度きりの事故で全てが終わってしまうではないか。
その1度の事故を防ぐ為には、過剰でも、臆病でも、用心深くなくてはいけないのだ。
だからこそ力を見極めて、仲間を傷つけないようにサポートしなければならない。
同じ異世界の転生者であり、無駄に? 長く生きてきた私だからこそ、サポート役に徹する必要があるのだと責任感を感じている。まぁ余計なお節介かも知れないけど
しかし・・・、見極める以前にこの世界の人達の平均的な力量なんて知っているはずが無いのだから、どう判断して良いのか解らない。
兵士の方々にお願いして相撲でも取って貰うのが手っ取り早いとは思うけど、この国には相撲ってスポーツあるのかなぁ? 拳闘士ならあるのかも?
拳闘士・・・ボクシングか空手な競技だとして、信永が、というより子供が大人にボコボコに殴り蹴り倒される絵図らは見たくない。
やっぱり私自身を基準にして比較する方法しか思いつかない。
たしかメフィストが言うには、この私の体は『人族の標準』らしいから、この方法が一番良いのかもしれない。
中休み、以前は疲れて休むしか出来なかったが、最近は要領を覚え始めていたので気持ちに余裕ができてきた。あえて言うが、手抜きしている訳では無い。大切な事なのであえて伝えたい。決して手抜きはしていないんだ。
「ねぇ、信永は剣が使えるの?」
「いきなりどうしたんだい? リトは」
「ここの生活に慣れてきたから、僕も皆に交ざって剣の稽古をしたいな~って思ってるんだ」
そう言って兵士達の方に視線を送る。
「振る位なら出来ると思う。けど、なんでワザワザ聞くんだい?」
「剣は、ちゃんと振らないと手首を痛めるよって聞いたから」
「へぇ~そうなんだ。リトは物知りだね。ちちお・・・いや、誰から教わったんだい?」
信永は「父親から教わったのか?」と言いかけたけど、メフィスト設定の『生き別れた家族』を信じているのだろう、気を利かせて言い換えた。
私から「父親から」と言うのは易いし「気を利かさなくて大丈夫」と意味を含めて伝える事が出来るけど、『行商人』が剣を振るえるというのは、どうも違和感を感じる。身を守る為に剣が使えても変ではないだろうけど・・・この『何となく』な感じに従った方が良い気がする。そうすると、何て答えたら良いのだろうか? そこまで考えていなかった。
「あのね、にもつの馬車を、まもる人に、聞いたの。はい、リトこれ。おてほん、できる?」
言い詰まっていた所に、クレハは助け船な言葉と一緒に、穂先が磨り減ったホウキだった物を手渡した。
「そ、そうそう。隊商の隊長さんに、少し教わったんだ。・・・たしか、両手で持つんだって・・・」
掃く方を自分に向けて柄を握りならが考える。
話しの流れでは、下手でも良いから『教わった振り方』を実践するべきなのだが・・・。
手本っていってもなぁ・・・。野球のバットなら何度も振った事あるし、写真用バットでゴムボールを弾いたなんて冗談をした事もある。でも、実際に剣の振り方を教わった事なんて無かった。
学んだとしたら、漫画で読んだ程度しかないな。正しいのかは知らないけど・・・
そうやって、どうしたモノかと考えていると、
「リトの剣の振り方って、やっぱりへただよね。なんで振りながらバックするの」
クレハは目配せながら、少々呆れた感じにに言い放った
無意識、と言って良いのだろうか? ただ、自分なりに振り易い方法を試していただけだった。
改めて素振りに意識すると、振りかざす度に半歩、足継ぎとか足捌きという前進と後退のステップを踏んでいた。
そうだ、中学の頃だろうか? 体育で何度かあった剣道の授業で教えられた素振りをしていたのだった。
雀百まで、とは言わないだろうが、子供の頃に習った動きというのは少しでも結構残っているんだなぁと、感心してしまった。もちろん、間違った癖も残るから正しいフォームで練習を行うべきだったとも実感した訳だが・・・。
先程のクレハの呆れた物言いで「下手」だと罵ったのは『剣道』の真似事をしている事に気付かせない様にする為の揶揄だろう。目配せでやっと気がついたのは既に手遅れかもしれないけど、これ以上ボロが出ない為にも誤魔化す必要がありそうだ。
「ははは・・・クレハに笑われちゃったよ。これは悪い見本だったね。今度は信永の番。好きな様に振ってみてよ」
ホウキだった物を手渡すと、信永は体の向き格好を試行錯誤して、居合抜きの構え取った。私から見てホウキだった物の先端は体に隠れて見えなかった。剣の長さを悟られない構えがとても見事で感心してしまった。
たしか、居合抜きとか抜刀術って言うんだったかな? 構えは格好いいよな。糸をピンと張った様な張り詰めた雰囲気と、気を抜けばどこから刃が襲いかかってくるのか解らないという、より一層に緊張した空気が寒気すら感じさせる。
「リト。これから振るから良く見ててよ」
「わかった~」
「それじゃ、いっくよ~。1,2,3!」
3のかけ声がしたと思ったら既に振り終わった体勢だった。それも音もせずに・・・。目を、そして耳を疑った。どうやって動作すればそんな芸当が出来るのだろうか? いくらなんでも「ブンッ」とか「シュバッ」とか効果音があるはずだと思ったのに。
1で力を貯めた。
2で振る体勢に。もっとも、『鞘』が無いから『鞘走り』という動作は考えていないし、きっと知らないのだろう。そのまま弧を描く様に振りそうだった。
そして3の時には音も無く終わっていた。空気を切ったと言うよりも『効果音』さえも切り裂いた。そんな威力だった。
パチパチパチっと、感動と感嘆で滾る思いを以て、拍手で絶賛した。
「信永。凄い! 凄いよ!! どこで身につけてたのさ。前の世界では戦国の事が詳しかったけど、本当は剣の師範・・・先生だったりするのかな? それとも『チャンバラ』で鍛えたのかな!?」
「何もしてなかったよ。漫画読んだりゲームしただけだし、普通に学こう・・・。あ! そうそう、『チャンバラ』ってどういう事を言うんだい!?」
「チャ・・・チャンバラってな~に? そんな事、言ったかな?」
「あれ、言わなかった?」
「う・・・うん。言ってないよ。歴史が詳しい人って、実践しなくても剣の扱いは「チャンと学」んでると思ったから、信永はそういう人から教わったのかな~って思ったんだ。しゃべり方が変だったらご免ね」
『チャンバラ』遊びを誤魔化してはみたが、信永の『共通言語』ではしっかり翻訳されていただろう。ここは「発音を間違えた」という方法で誤魔化すのが一番だと、咄嗟に言い訳を吐いた。
この国に来てから『チャンバラ』なんて言葉は聞いた事が無い。代わりに『稽古』と言っている。だからこの言葉で私達も異世界から来た。と疑われる危うさがあった。
剣技の凄さに思わず興奮して口を滑らしてしまったのは猛省だ。
そういえば、さっきも気になったけど、信永って学校の事になると『くぐもる癖』があるのは何故だろう。深入りするつもりはないけど、とても気になってくる。まぁ私自信も詮索されたくないから、やぶ蛇にならない様に、あえて聞こうとしないけどな。
「リト! どうしたの! て、て、てから血がでてる! だいじょうぶ?! だいじょうぶなの!!」
「そうだリト! その右腕、切れてんじゃないか。何処かでぶつけたのか? それともホウキを擦らせちゃったかな。ご免な、痛かっただろう。速く手当をしないと!」
信永は慌てて、汗拭き用の布を井戸水で洗ってきて乾き始めた血を拭う。
既に血は止まっており、見た目の出血の割には軽傷だった。この程度なら直ぐに治るだろう。子供の自然治癒力は以外と速いんだ。
「大丈夫だよ。ここに来る途中に柱の小さな棘に当たっていたのかもね。信永のせいじゃないから」
そう言って信永を安心させたものの、実際は何処にもぶつかってはいない。有るとしたらホウキが擦った事だろうけど、安全を気してホウキ2本分の距離は取っていた。擦るはずが無い。
「ねぇリト。傷口めだつから、布でしばっていてね。みんなしんぱいすると、困る・・・かもよ。だけど、ほうとうに痛くないの?」
「ありがとう。全然痛くないよ。やせ我慢でもないから安心して」
「うん、わかった」
そう言ってクレハは傷口を隠せる程度に布を巻いた。
痛みの無い鋭い切り傷を見て、即座に『鎌鼬』を想像した。ゲームっぽく言えば「ソニックブーム」とか「ウィンドカッター」とか、そんな所だと思う。
音さえ切り裂く剣の振りは、流石は武器チートスキルであり、武器を操る体力は間違いなく高い。熟練の大人だってできるスキル・技能じゃ無いぞ(多分)。
やっぱり、用心に越した事は無かった。本当に確認しておいて良かった。こんな技を気にせず連発したら、周囲が傷だらけの死屍累々に成ると事だった。ほっと胸をなで下ろす。
では、どうやって対策を取れば良い?
漫画だけど、剣の稽古シーンをふと思い出した。これ使えるんじゃ無いか? と駄目元で教えてみる事にする。
「剣を振るうのは凄いけど、狙った場所へ叩き込むのは大丈夫そう?」
「狙った所かぁ・・・・・駄目というより・・・イメージが出来ないなぁ」
「剣を習う始めはね、初めの内はゆっくり、狙った所に振って行くんだよ。ゆっくりいだよ、ゆっくり。それから徐々に力や早さを乗せるの。狙いが逸れたら、始めからやり直し。なんだって」
「詳しいね。これも隊商の大将さんからかい」
「う、うん。そうだよ。まぁ実践は今が始めてなんだけどね。あははは・・・」
言われて気付いたけど、『行商人の子供』という立場は結構、言い訳のネタが多い気がする。兵士としての技能、商業としての計算は話術の商才など、大人を見て学んだ。といえばそれなりに誤魔化せるんじゃないだろうか。予想以上に便利な経歴だと考えた。
「それじゃ、これから稽古に参加しようか。今日が始めてだから、剣の振りからを習って、ゆっくりと目標めがけて素振りをしよう。それからゆっくり、ゆっくりと教えてもらおう。急ぐ必要ってないんだから」
「解った。リト・・・に教えた大将さんの言葉を信じて稽古するよ。これからも色々教えてくれよな」
そう言いながら、皆の輪の中へ向かって言った。




