049 『迷子』がやって来た
何時しか、外から響く音は木が木を叩く音から、木で土を掘り返す音へと変わっていた。
そういえば昼食・・・もとい、中食が用意されなかった。
前の世界・・・いや、社会では朝、昼、夜と食事を取るのは普通だった。まぁ私の場合は寝る時間に費やしたので朝は食べなかったけど。
この世界の習慣はどうなのだろうか? 「居候3杯めはそっとだし」という感じで2食しか出さないよ。とかあるのだろうか。それだとちょっと寂しいな・・・。
「え~と、突然だけどクレハに『なぞなぞ』です。私達の立場はなんでしょうか?」
「いきなり、なにをいうのかしら? そんなの,しるわけないじゃない!」
「そうだよな。今予想できるのは『客人』か「居候」か。この2つしか無いと思うんだ」
「そうなの? それじゃ『きゃくじん』ってどういうの?」
「『客人』というのは客として来ている人。ってそのまんまだな。招かれた人の方が良いのかな?」
「それじゃ『いそうろう』は?」
「『居候』は他家に身を任せて養って貰っている人」
「なんだ。どっちも、ただめしぐらい。だよね」
「おいおい、謎かけじゃないんだから、大喜利している場合じゃ無いだろ」
「とんち、じゃないわよ。こどもたちは、はたけさぎょう。いまのわたしたちは、いそうろう」
ここに来て3日目。早々に即戦力になれっていうのも無理があるが、ピィピィ鳴きながら口を開けて待つのはどうも居心地が悪い。つくづく社畜気質だなぁと実感してしまう。
孤児の皆は何かしら役目が有る様で、少なくとも外では少年達は畑作業をしている。手伝った方が良いのだろうか?
異世界な物語では、余計な事をするとフラグが立って面倒なイベント発生! と云うテンプレがあるのでは? と、思い留まった。
もちろん面倒な事は避けたいので、ここでおとなしくしていよう。と思ったけど、流石に夕食まで引きこもるには時間が余り過ぎる。
それに、畑の手伝いをしたら巨大な土竜が現れて「世の眠りを邪魔したの奴は!!!」って事になるはずもあるまい。
「クレハ、ちょっといいか。夕食まで暇だから畑作業を手伝おうと思うけど、どうする?」
「うん。いっしょについて、いくよ」
この新しい世界でどうやって暮らすのか考えていた。失敗を重ねた経験から、幸不幸を感じる大半は人付き合いだと思っている。好かれれば嬉しいし、嫌われたら辛い。当然の事だ。
人と良好な関係を築くにはどうしたらいいのか。手っ取り早い方法は、仕事を手伝う、だと考える。
助けてくれる人を嫌いになる事はそうそうにないだろう。もちろん過度にお節介をやけば疎まれるし、『良い関係』も『都合の良い相手』とされては本末転倒。匙加減は難しいが、それは大人の時の経験であり、子供ならば何度でもやり直す機会はあるだろう。
そんな打算をしながら、畑仕事の・・・先ずは一番年上の人に尋ねる事にした。
「お兄さん。こんにちは」
「こんにちわ」
青年は鍬を杖にするように構えてから返事を返す。
「やあ。見かけ・・・子供・・・・なん・・だい?」
言葉は聞き取りにくいが、断片な言葉から、「何の用だい?」と推測する。
「手伝い、する、できる、教えて」
「おてつだい、する」
青年は大変に困った顔をしてから仕事中の人達、といっても少年を含め4人になるが、皆で作戦会議を始めてしまった。
「ありがとう。だいじょうぶ。また後で」
やんわりとお断りされてしまい、仲間はずれにされた気がした。友達の輪に入ろうとして追い出された感じに近い。
もちろん、笑みながら頭を撫でてくれたので、疎んじている訳では無い。と云う気持ちは十分に伝わっている。
孤児院に来て間もない子供に仕事を教えるのは逆に大変かも知れない。更に言葉がたどたどしくて指示指導も出来ないとあっては尚更だ。
それに、ここの生活に慣れるのが先なのだから、怪我をさせてしまったらシスター達に余計な迷惑をかけてしまう。
こういう風に考えての配慮なのだろう。
礼拝堂の壁に背もたれて、畑作業を眺めながら考える。
私だったら・・・、逆の立場だったらどうしただろうか。
耕している最中と言う事はこれから種まきをするのだろう。農繁期なのかもしれない。もしもそういう時期なら私も同じ事をしたと思う。
雑草取りならまだしも・・・タイミングが悪いというか手伝いの申し出は勇み過ぎたのだろうか。
それとも言葉が問題なのだろうか? 意思疎通が難しいと距離を取りたくなるのは分からなくも無い。
分からなくも無いが、『距離を取られる』という雰囲気というか疎外感は相当に堪えた。孤独なのは慣れていたが、疎まれるというのは自分が空虚な存在なのだと思い知るに十分で有り、孤独以上に虚しさを生み出した。
気付いた時には視界は滲み、頬に冷たさ垂れる。
「リト、だいじょうぶ?」
心配した表情でクレハは涙を拭をうと指を目元まで伸ばしてきた。
「あ・・・だ、大丈夫。大丈夫だよ。ありがとう」
そう応えて、腕で目の縁の涙を拭う。
「リト。わたしは、ずっといっしょだよ。だから、そんなにさびしがらないで。かなしまないで」
クレハが抱きつきながら慰めてくれた。
気がつけば私の頬を垂れるソレは温かい雫へと変わっていた。
遠くからブルルッという声と共に土を穿ち、木が転がり音が響いてきた。聞き覚えのある馬と荷車・・・とはちょっと違う。ガタゴトガッタンって感じではなく、カタンタンタタンって感じだ。
その音が修道院で一旦止まる。放し飼いの鶏が逃げない為の背高い柵板で何が来たのか分からないが、柵板から頭を出した見覚えのある装飾品。屋根にある千木・・・と言っても分からないか。まぁシャチホコみたいなのが見えた。
そして去って行った。
修道院の扉が開くと、メイドとレミアやテレサとは少々デザインの違う修道服を纏った女性、そして少年がやって来た。
メイドが足早に私の所にやって来た。
「シスターは・・・・? 『迷子』・・・・来た。連絡・・・・・どこ・・か?」
「え~・・・あの~・・」
メイドの言葉はかろうじて聞き取れたものの、シスター達が何処に居るのか知らない。しどろもどろしていると、先程声を掛けた青年がやって来て代わりに対応してくれた。
ゆっくりと歩いてくるシスターと少年を見つめる。
修道服は襟元に『円と中央からV字』のマークというか装飾がされていた。
少年はというと、黒髪で見慣れた様な背格好と洋服。そう、見慣れた感じのデニムのズボンに無地のTシャツ、その上のギンガムチェックのYシャツを羽織っている格好をしているだ。
私が着ていた、卒園式や入学式にで参列出来そうなお仕着せに比べれば、十分に地味な私服ではあるが、この世界ではそれでも浮いた感じがしている。
そして、メイドとシスター・レミアがやって来てた。丁度、私達が居る所で待ち合わせた感じになっている。
「おかえり・・・ませ、トキザミ様。いらっしゃい、『迷子』の少年・・・。歓迎・・・ます」
そう言いながら挨拶をするシスター・レミアの言葉は本当に聞き易い。




