146 将来は何になりたいの?
『豊穣のお祭り』の時に農園から頂いた食材を荷馬車に積んだままにしていたので、翌日の朝食後に荷下ろして食品庫へ片付ける。
まぁ芋等の根菜や豆が殆どだったかな。
片付けが終わった中休みの頃に、全ての戸が閉められていた礼拝堂から、火を消した手燭というか燭台を持ってシスター・レミアとアリアが現れた。
アリアがシスター・レミアを見送ったのを確認してから、声を掛けた。
「アリア。シスター・レミアと何を話していたの?」
「これからの事を話し合っていたのよ」
「これからの事? 何か始まるの?」
「あ~、アリア。かみかざり、きれいだね~」
クレハが会話に割り込んできた。ちょっと邪魔だよ。
そう思ったけど、クレハが意識してくれなければ、昨年にお世話になったお礼として贈った髪飾りを付けているのに気が付かなかった。
「その髪飾り、大事にしてくれているんだね」
「ええ、誕生日だからね、大切な日だから付けているのよ。どうかな、まだ似合ってる?」
「アリア~、とてもすてきだよ~」
「うん。とてもきれいだよ」
「そう。ありがとう」
キレイキレイと連呼するのはどうなのだろう、ちょっと棒読みだったかな? そんな心配も、言葉通りに受けとめて喜んでくれると、嬉しいやら恥ずかしいやら。
「アリアって、今日が誕生日だったのかい?」
ナーガが気に掛けた。
「さぁ、どうでしょうね?」
「あれ? さっき「誕生日」って言ってたよな」
「そうよ。今年は昨日が誕生日にしたのよ」
「今年は? って、毎年違うのかい?」
「リトには話したけど、わたし、自分の誕生日を知らないの」
「なんだよ、リトは知ってたのかよ」
そういば、物心つく前に礼拝度にそっと置かれていたのだと、カミングアウトしてくれたのを思い出した。「私には言った」と言う事は、修道師の方以外は私とクレハしか知らない。そう考えた方が良さそうだ。
もしかしたらアリアは、私がナーガと会話して伝わっていたと想像したのかもしれないな。
流石にプライバシーに深く関わる話しを気軽に話せる訳が無い。
まぁ、そのまま今の今まで忘れてたんだけど…。
「ど、どうだったかな? 6月が誕生日って聞いた様な気がするけど、ごめんなさい。忘れちゃってた」
「まぁ失礼ね。でもわたしも知らないから仕方ないのかな。だから6月が誕生日ってしてるのよ。それでね、今年は昨日のお祭りがわたしの誕生日。昨日はわたしの誕生のお祝いの日って思う事にしたの」
「あ~、そっか~。だからアリアはかがやいたんだね。ドレス、とてもすてきだったわ~」
「ありがとう、クレハ。そうなると、あのドレスは誕生日プレゼントって事になるのかしら」
「うん。きっとそうだよ。おくりものだよ~」
アリアはとても嬉しそうにクレハの頭を撫でていた。
「それで、さっきは何を話していたの?」
「わたしね、昨日で12歳になったのよ。それでこれからどうするのか? ってお話し合いしてたの」
「12歳なんだね。おめでとう。でも、これからの事って、何? 成人になるのは15歳だったよね。まだまだ孤児院に居られるんでしょ」
「ここはね、12歳になったら成人するまでに、何をしたいのか決めなくちゃいけないの。決めるのは早い方がいいわ。早く決めたら、その分沢山学ぶ事が出来るでしょ。成人していきなり生活を変えるのは、きっと大変よ」
12歳といったら、将来の仕事はまだ『夢』や『希望』の段階だ。少なくとも前の世界では、小学校での進路相談は『夢や希望』だった気がする。
この国の常識なのか、孤児院の規則なのか分からないけど、結構大変なんだな。
…と、数年後には自分の番だと言う事を気付かずにいた。
「そうなんだ~。アリアはなにに、なりたいの?」
そうだ、アリアは何になりたいのだろうか。
「わたしはね、姫様のメイドさんになりたいと思ってるの。でもね、シスターになってみんなと一緒に暮らしたいとも考えてるの。リトはどう思うかな」
「あたしは、シスターになって、いっしょに、くらいしたいの。 ううん、でも姫様といっしょに、くらせるなら、メイドさんのほうが、いいかも…」
「ありがとう、クレハ。いっしょに暮らせたら良いね。 それで、リトはどうなの?」
何故、私に聞くのだろうか?
人の進路に口添え出来る程、私は立派じゃ無い。
社畜だった私の考えは、出世のチャンスがあるなら決して手放しては駄目だと言う事だ。
「僕もクレハと同じだよ。一緒に暮らしたいけど、姫様の、女王様の傍に居られるのなら、その方がアリアの為だと思うよ」
だいたい、国王のメイドに成れるにも身分がある。貴族の子女が条件という事例は極当然にある。学問に教養、作法と多くの知識が必要だから貴族身分ではないと修学出来ない。という現実もある。
そして、国王に取り繕う為に、私腹を肥やす為に、貴族が更に上の身分へ子女を差し出す事が多い。
当然、孤児がメイドさんになるのは夢の更に夢物語と言っても過言では無いはずだ。
だからこそ、この有り得ないチャンスを大切にして欲しいと願う。
ただ、この国では貴族が居ないのが不思議だ。貧富に差はあっても、身分は皆平等なのだ。小さい国だから貴族派閥が存在しないのだろうか?
そういった政は、まだ分からないけども。
「ふ~ん。それがリトの気持ちなんだ」
アリアのがっかりした口調から、私が冷たくあしらってしまった様な気がして、心に棘が刺さった様な嫌な感覚に襲われる。
私だって、できる事なら、この生活を続けていたいと思う。しかし人は成長するのだ。今を優先して将来を失わせるたくはない。
「アリア。まだじかん、あるよね。ゆっくり、かんがえよ~」
「そうだよ。慌てなくていいじゃないか。ゆっくり考えようよ」
「そうね、まだ初日ですし、ゆっくり考えるわ。またね、リトとクレハにナーガ。それと、ござる丸」
手を軽く振り去って行った。
「ミーはサスケでござる。何度言ったら分かるでござるか?!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私達4人が庭に取り残された。そんな格好になってしまった。
少女3人組にハン・セルは、ブリーイッドの人達の住まいへ荷下ろしの手伝いに、マリーとアルは何時ものパン工房へ『お手伝い』。
ハン・セルは兵士に、マリーとアルはパン工房にと、将来の希望を決めている。改めるまでも無くしっかり者だよ。
年下の4人の意思を知っているから、アリアは将来を焦っているのだろうか。
大切な事だから、ゆっくりと相談相手になれればいいな。と思う。 社畜な浅はかな思いだけど。
「ねぇ、ナーガは将来どうしたいんだい」
来年12歳になるナーガに、思わず問い掛けてしまった。別に急いでいる訳じゃ無いけど、先程のアリアとの話しを聞いてどう思ったのだろうか。ちょっと気になった。
「悪魔に使徒に答えるつもりはないでござる!」
いやいや、ござる丸には聞いてないから。
私の事を鑑定スキルでどう見えたのか分からないが、印象がとても悪いらしい。
たしかにメフィストと悪魔契約でこの世界に来ているので『悪魔の使徒』というのは間違ってはいないが、あからさまに避けられるのは寂しいものだ。社交辞令的な返事くらいしてのいいだろうに。
「俺は『勇者』になるんだ。神様がこの世界を平和にして欲しいとお願いしたんだから、『勇者』になって世界を平和にしたいんだ」
転生者の模範解答みたいだな。正義感のあるナーガらしいと言えばらしいけど。
「そうでござる。ミーも頼まれたでござる。人々を苦しめる邪竜王を倒せと、頼まれたでござる」
だから、ござる丸には聞いてないって。
「ナーガも邪竜王を倒すでござるか」
「いや、俺は魔王を倒せって頼まれたけど」
「そうでござるか。この世界は邪竜王と魔王に支配されているでござるか。共に力を合わせ様ではないか」
「パーティーは有り難いけど、俺にはリトとクレハがいるから、置いていけないよ」
「おぉ。素晴らしいでござる。魔王の手下を既に拘束しているのでござるか。感服極まれないでござる」
おいおい…、いつの間にか魔王の手下扱いかよ。発想が飛びすぎだ!
邪竜王に魔王が存在するとかおかしくないか? もしかして勢力争いしてるとか、妄想が膨らんでいるのだろうか。
そういえば、ござる丸ってたしか14歳じゃなかったか? 私以上に中二病をこじらせている様に思えて仕方が無い。
なにより、一番の疑問がある。
メフィストとの契約で平和に暮らせる国に送られたのは別としても、この国はいたって平和そのものだ。
猛獣等に脅かされているかもしれないけど、邪悪な存在に虐げられてはいない。
とりあえず、どんな考えをしているのか確認してみるか。
「ナーガさぁ。この国はとても平和で幸せだよ。神様の事はよく分からないけど、本当に魔王なんているのかな?」
「そうだな、リト。たしかにこの国は平和だと思うさ。でも、知らない国では誰かが苦しめられているかもしれないだろ。だから『勇者』になって助けたいんだ」
「騙されるな! でござる。この悪魔は『勇者ナーガ』をこの国に足止めしようとしているでござる。早く始末するが良いでござる!」
どれ程、嫌われているのか知らないが、やたらと邪魔して迷惑だよ。私はナーガと話しているのに…。
もういいや。スルーだスルー。
「ナーガはどうするの。12歳まで1つ年あるからゆっくり考えても良いと思うよ。『試し』を受けられないと、旅に出るのを、姫様が許してくれないと思うよ」
「それもそうか。『試し』は12歳にならないと駄目だったかな」
「そうだよ。僕もクレハも、ナーガが『試し』で許される様に協力するよ」
そう。将来何に成りたいかは別として、選択肢は多い方が良い。若い芽を摘む様な事はせず、沢山の可能性を育ててあげよう。
こういう気持ちって、親心なのかな? まぁ立場は弟妹だけど。
「耳を傾けては駄目でござる。『試し』なんて関係ないでござる。旅は、冒険は何時でも出立できるでござる」
会話の邪魔ばかりするし、私の話は聞いてくれないし、もうそうしたらいいんだよ! ござる丸は。
「ねぇ~リト~」
クレハが手招きをしながら語りかけてきた。
…なるほど、そういう方法もあったか。ありがとうな。
「ナーガ、お願いがあるんだけど」
「なんだい?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そういえば、ござ…、サスケは14歳なんだよな。それなら『試し』を受けられるんじゃなかったかな。俺が協力するから、姫様から許しを頂ける様にがんばろう」
「当然でござる。ミーは直ぐにでも大丈夫でござる。だがしかし、魔王の手下を放置するのは駄目でござる。ナーガに協力するでござるよ」
まったく、選ばれたっていうエリート意識なのか、自己中な考えなのか分からないが、めっちゃくちゃやっかいだ。
だけどナーガの話しは聞くのだから、『試し』までおとなしく修練してもらって、早く許しを得て旅に出て貰いたいモノだ。
私達の平穏の為にも…。




