145 田園での宴
ここは南門をくぐった先にある農耕・畜産が広がっていた。
1つ年超えての事だから記憶が曖昧だけど、たしかこの南門から入国したはずだ。
見覚えのある守衛室には門兵のアインの姿は見えなかった。休みなのか、配属先が変わったのかは分からない。
なにせ、この耕作している広野を通り抜けてきた記憶はなかったのだ。
単純に、初めてくぐった門を忘れているだけかも知れない。
耕作地は柵で区切りがされており、それぞれに、主食の麦、他の野菜、酪農、そして雑草が茂る何も無い広場。
臨時で開催される『お祭り』はこの雑草が茂る広場で行われる。
舞台に立つのは、演奏者と『私の国のドレス』で着飾った孤児の少女達。
そういえば、アリアからドレスを仕立てる時に、
「このドレスのデザインはリトの国の民族衣装なの?」
と質問されたっけな。
ドール衣装が民族衣装だと勘違いされるのは、別にどうでも気になって仕方が無い。ただ聞き流せば良いのだろうが、凄く変な嘘をついている様で気持ちが落ち着かない。
やっぱり嘘は駄目だよ。そう思って
「そうだよ。僕の故郷ではお祭りの時に着るドレスだよ。あまり良く覚えていないから似ていないかも知れないけど」
と回答する事にした。
ここまでフリルでコテコテなのは結婚式かコスプレ等のイベント会場位だろう。嘘は言っていないはずだ。まぁ何処まで本当かなんて知りようがないけどね。
この『お祭り』は豊穣を祈る事、表舞台に出る機会の少ないブリーイッド予備軍な演奏者の参加、修道院で教えているダンスのお披露目、色々な目的があった。
厳格な儀式という訳では無いので、姫様及び側仕え、位の高い人達には参加を遠慮して頂いている。
生活を華やかにする臨時の催しなのだ。緊張した空気では愉しめないだろうという気遣いもあった。
街の人々も珍しい催しに興味津々と集まってきて、会場は人で溢れていた。お陰で気軽な催しとなって、みんな楽しんでいる様に思える。
さて、私達3人は一応『迎賓』という立場なので、準備とか何もする事が無い。
開催まで少し暇だな~っと思いながら散策する事にした。
屋台、と呼べるモノでは無いけども、食べ物屋では取れたての豆をメインとしたスープと焼いた芋が頒布されている。取れたてが食べられるのは農園の特権なんだろうな。もちろん支払いは必要なんだけど。
お店は、農園の人達が会場の周りを囲んで 建ち並べていた。きっと耕作中の土地に入らない為の配慮も兼ねているのだろう。
手際が良いというか、きっと前例が有ったのだろう。
今回の宴は、その前例を繰り返しているだけだと思うと、気が軽くなった。
なにせ、私がやってしまった失敗の善後策の為に迷惑を掛けている。とか、私達のために考えられた特別な企画とか気が引けていたからだ。
まぁ、ナーガは遠慮無く宴を楽しみにしていたから別に良いんだけど。
テーブルでゆっくり食事をするのも良いかもしれないけど、色々と見物したいから、バターを塗った焼いた芋を串にして、食べ歩きながら時間まで散策をしてまわった。
同じ宴でも、縁日といった厳格な様式より、農業祭、街興しの食べ物イベントという感じが一番近い気がする。
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『お祭り』は休憩を挟んで2刻(4時間)程行われた。
ダンスの授業は、アリアのドレスを繕っていて不参加だから、どんな踊りが見れるのか楽しみだった。
流石に小学校の学芸会といった感じで、綺麗というより可愛らしさが際だった内容だった。
スカートが長いコラルとアリアは対になって、フラメンコみたいな踊りになっていた。ドレスのボリュームがあってか、迫力があり魅了された気になる。
アンブラとサフィール、そしてマリアベルは、スカートを広げる様にクルクルと回る動作を取り入れていた。
跳んだり跳ねたり回ったりと、子供の可愛らしさを上手く表現しているなって感心するばかりだ。振り付けはレミアだろうか? と、余計な事を考えてしまうのは私の悪い癖だ。
ココは、素直に楽しませて頂こうではないか。
演奏者も持ち前の演目を披露できたので表情がとっても輝いていた。
農園では「えいや、そいや」と鍬と鋤に合わせて歌う事は有っても、楽器を使って演奏する機会は殆ど無いのだろう。
物珍しいのか、楽器の音色に魅入られたのか、演奏終了毎の拍手は楽しいリズムを奏でていた。
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賑やかで楽しい時が終わると、風音が止んだ凪の様な静かで物静かになっていた。
『祭りの後の静けさ』という状況ではあるが、そういえば、イベントで出店の経験をした時は『祭りの後の(片付けいよる)慌ただしさ』なんて比喩した事合ったな~。って思い出した。
原因はどうあれ、結果はともあれ、片付けは手伝わせて貰おう。
クレハとナーガを連れて舞台の方へ向かうと、言い争っているのが聞こえてきたので、心配になって口論の方へと向かった。
農園の方々と口論しているござる丸に、なだめるハン・セルの姿があった。
「あの~、どうしたのですか? ござる丸が何かやらかしましたか?」
「なんだ、リトか。何でもないでござる。だた、収穫を手伝ったのに豆が少ないので多くと、言っているでござる」
「みんな等しく、だよ。ござる丸。俺達は取れたてが食べられた。それで良いじゃないか」
「ミーはサスケでござる。ナーガも使い魔のリトみたいに呼ぶな、でござる」
「ござるまる~は、ござる丸だよ~」
「ノー。クレハまで呼ぶでござるか~」
流石に幼いクレハに怒る程、周りが見えていない訳では無い様だ。ただ『使い魔』は余計だ! この腐れ丸が。
って、激情したら大人げないな。ココは冷静にっと。
「それで、何があったのですが? 僕に出来る事がありましたら、お手伝いしますよ」
「そうか。ありがとうな、リト」
「あとは任せるよ。助かったよ、リト」
「「それじゃ、オレ達は片付けに行くから、後は宜しく~」」
そう言い残して、ハン・セルは逃げる様に、舞台跡へ向かっていった。仲が良いだけ有って、別れの言葉は意気が合い、ハモっていた。
あ~あ、面倒を押しつけられた気がする。これからどうしたモノか?
そう思いながら、農園の方を見ると、見覚えのある顔が並んでいた。
「おう、先日農園の体験に来た子供達か。クレハと、誰だったかな?」
なんか既視感があるが、クレハの場合は男の子の中で一緒に居るから覚えられ易いのだろう。
「僕はリトです。こちらが義兄のナーガです。で、あれが自称サスケの『ござる丸』です」
「そうだそうだ。ござる、ござる、っていうから『ござる丸』って呼んでいたんだな。思い出したよ」
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少し時間を遡ろう。
今回の『豊穣のお祭り』をする会場の視察を兼ねて、モンク・ビリージェルを保護者に、この国の食料を担う農園の体験学習をする為にココに来たのだ。
私達3人とござる丸の4人だ。
他の子供達は準備で忙しくて参加出来なかった。という事になっている。なんだかな~…。
その時に農園を案内してくれたのか、ござる丸と口論していた人達と云う訳だ。
半日程だけど、顔見知りだからこそ、ござる丸も不満を言いやすかったのだろう。威圧有る様に話す割には、以外と気が弱いのかも知れないな。
この農園で学んだ事。
この国の農業は殆どの土地が国営で、食料が不足しない様に管理していてるのだそうだ。
だから、兵士やメイドも手伝いとして参加している。
農地が柵で分割されているのは、土地毎にローテーションをしているからだそうだ。3回だか4回かは知らないが多毛作をしている。
全部の土地を同じローテーションにすれば楽なのに?
と思ったが、酪農もしているので、動物用の食事用の草が無くならない様にしているのだという。主食の麦の苗を餌にされては当然困るから、当然の策だろうな。
それに、別ける事で、旬な野菜を収穫できるという利点もあるのかも知れない。
ちなみに、農園の方々は『草の根街』程では無いにしろ、言葉が不自由だ。だから農業をしている、と言うのもあるらしい。
それでも、空いた時間には、兵士やメイドが先生となって青空教室を開いているのだ。
残念ながら、『共通言語』があっても農園の人とは会話が出来ない。それは、言葉を知らないので殆ど声に出さないというのが原因だ。
言葉が出なければ翻訳しようが無い。
推測なんだけど、「収穫したら(みんなが)沢山食べられる」という言葉を「収穫した分、沢山食べさせてあげられる」と、ござる丸が都合の良い様に勘違いをしたのだろう。
言葉が平行線だから、どう説明しても解決にはならなそうだ。『共通言語』能力については、ござる丸もナーガも大差が無いから、説得するのは難しいな。
妥協させるか? そうなるとどちらかに遺恨が残る。
いっそうの事、両方ともキッパリと忘れてくれた方が、手っ取り早いんだけどな。
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「聞き覚えの声がしていると思えば、何をしているのです。貴方達は」
以前聞いた様な声が届いた。振り向けば少々小太りな農民だった。
「おや、誰かと思えば、リトとクレハではありませんか。一緒にいる2人は『迷子』ですな」
「はい。お久しぶりでございます」
「おお、覚えていていましたか。嬉しいですね」
ごめん。本当は誰だか知らない。声は聞き覚え有るんだけどな~。以前の農園体験学習で会った人だろうか? 人の顔を覚えるのはあまり得意じゃ無いんだよ。
あれ? でもナーガとござる丸が『迷子』と知っているのは何故だ? 近しい人以外には使わない呼び名じゃ無かったか?
色々と悩んでいるとクレハが
「あ~。あいん? あいん、だよね」
「ええ、そうですよ。覚えていましたかクレハちゃん。うれしいね」
アインはそう言ってクレハを背よりも高く抱き上げた。
「あ、アイン。あの時は、ありがとう、ございました」
入国する時は門兵をしていて、その時に色々と気遣って頂いた事を思い出した。
アインはクレハを降ろすと
「リトは、もう怪我は大丈夫ですか」
「はい。おかげさまです。 でもアインは、兵士、辞めちゃったのですか?」
「いえいえ、今日は門と農園を守っていますよ。あの時も今も」
成る程。当時から兼任していた訳か。
農園の人達とコミュニケーションが取れるなら、この事態を救済して貰えないだろうか。
「あの~。久しぶりの所、悪いと思うんだけど、僕達を助けてくれませんか」
「いいですとも。お役に立てるのでしたら」
事の経緯と推論を説明すると、
「もう暫くしたら、焼くと甘い芋の収穫がありますよ。どちらが沢山収穫できるか競ってみては如何ですか」
勝った方は沢山芋を貰えるという提案をしてくれた。
何となくだけど、私達を収穫の手伝い要員と期待している様な気がして嫌だけど、農作業も経験も何時様だろうな。
そう考えて承諾したのだけど…、ござる丸は「今、勝負を付けたいでござる」と断った。せっかちにも程があるだろうに。
「では仕方がありませんね、腕相撲なんて如何ですか。コレなら直ぐに勝負が付きますよ。勝ったら採れ立ての芋を上げましょ。農園の方も良いですか?」
「おう。そんで、何度の勝負だ? 代表、選ぶ。お前らは、誰が勝負する?」
「僕達は全部ござる丸が勝負するよ」
「ノン! ござる丸、違う。ミーはサスケでござる」
「勝負に気合い入ったようなので、どうぞ宜しくお願いします。僕達は応援する方で」
◆◇◆◇◆◇◆◇
丸々とした芋を賭けて腕相撲3回勝負。
結果は1勝2敗で、ござる丸の負け。
まぁ『神様の恩恵』かどうか知らないけど、基礎体力が上がっていても大人と子供の勝負。1勝出来ただけでも充分だろう。
それに、アインが気を遣ってくれて、「次は頑張れよ。応援するからな」と言って、残った小さい方の芋を1つ、おまけをしてくれた。
このおまけが効いたのか、ござる丸のご機嫌は良くなった。
この度はこれで済んでホッとしたけど、同室で暮らしているハン・セルの日常は結構苦労してそうだ。
そんな心配をしながら、修道院へ帰る荷馬車に乗りこんだ。




