144 街の視線とアリアのドレス
「今日も『お手伝い』ありがとうね」
「いいえ、こちらこそお世話になりました」
「おせわに、なりました~」
衣服店にて『お手伝い』の報酬を受けとった頃に、ナーガが店主と一緒に倉庫からやって来た。
「おつかれさま」
「あつかれ~」
「おう。リトの方も片付いたのかい」
「うん。いま報酬を受け取った所だよ」
「みんなそろったか。今日はありがとうよ。明日も頼むな」
「はい。俺達の方こそ、宜しくお願いします」
店主が見送りの挨拶を兼ねて、翌日の予定の確認をする。
「だけど最近、仲良しの女の子達は『お手伝い』に来ねぇな。居れば騒がしい分、居ないと寂しい気がするもんだねぇ。同じ修道院に住んでいるんだろ。何か知らないか」
「あ~、え~と、僕にも詳しい事は分からないです。ごめんなさい」
「ほらほら、あんたったら。女の子の事を聞くなんて野暮な事はするんじゃないよ」
店番の奥様が質問を遮った。
女の子には『女の子の事情』というモノがあるのだからと、気を利かせてくれた様だった。
「それでは、僕達はこれで帰ります。ありがとうございました」
「ござい、ました」
「また、来ますから」
そう云って帰路に発った。
ゆっくりと歩いているから、夫婦の会話だ聞こえてくる。
「小さい男の子は、変に丁寧に話すんだな」
「なんでも、家族は旅の商人だったらしいわよ。詳しい事は知らないけどさ」
「子供は親の姿をまねするもんかねぇ? 家のせがれも見習って欲しいもんだ」
「あぁ、似てるではありませんか。お父さんそっくりですよ」
何処の『お手伝い』先でも、夫婦の会話って似ているもんだなぁなんて思う時があるが、子供への期待は大差ないのだろう。
しかし、少女達が『お手伝い』に来なくなった理由を知ったらどう思うだろうか?
自分の為に仕立てられた服が嬉しくて、華やかな姿を見て貰いたくて、ずっと街を歩き回っているのだ。
少女達のお得意先なら、気が付いて良いだろうと思うのだが、孤児服とのギャップで気が付かないのか、あえて少女達がこの店を避けて散策しているか、そこまでは分からないけどな。
ただ、その衣装を仕立てた結果が、何時もの仕事をさぼる原因になっているのかと思うと気が引けた。
そういう気持ちがあり、代理として私達が衣服店に『お手伝い』する事にしたのだ。
始めの頃は、男の子だから服には興味ないので、役に立たないだろうとがっかりしていた。
しかし、何度か来ている内に頼られる様になったのは、嬉しい。
季節から、服の入れ替えをしたい人達が多い時期でもあり繁盛しているのだ。当然、商品を運ぶ量は多勝った。
店主としては、服とか生地は結構重いから、ナーガの力持ちのおかげで運ぶのが随分と楽になったと喜んでいた。
奥様は、留守番程度に来客が来たら声を掛ける程度、しか考えてなかった様だった。
だけど、数えるのと計算が得意なのを認められ、店頭を任される様になった。
修道院でお世話になっている孤児は半強制的に授業を受け無ければならない。いずれは街の、国のお役に立てる様にという教育方針もあるのだろう。ある程度の読み書き計算は期待されている。
私とクレハは中身が中身だから、今更語る必要は無い。
ただ、ナーガは小学校での成績が良かったのだろう。義務教育で学んだ知識ではあるが、『お手伝い』の依頼を受けるには充分に重宝されている。
「あ~リトだ~。どうしたの?」
「本当だ。3人、いつも一緒」
「そうだね。仲が良いね~」
声の方を振り向けば、あのドレスで着飾った少女3人組が、スキップする様に近づいて来た。
裾が長いスカートをたくし上げて歩くコラルの仕草は、なんというか、華があるというか、他の2人よりもちょっと目立っていた。
「こんにちは。僕達は『お手伝い』帰りですけど、みなさんも、もうお帰りですか?」
「そうよ~。夕餉の仕度があるの」
「そうか。今日の夕食はなんだろうな。俺達は楽しみにしてるよ。でもさ、慌てて転ぶなよ。気をつけろよ」
サフィールの返事に、ナーガが見送った。
衣装を繕う時にから、少女達と話す機会が増えたものあり、気の利いた台詞が言える様になっていて、成長したんだな~って感心していた。
「腕によりを掛けて作るから期待してね」
「あ~。わたしが言いたかったのに~」
アンブラがサフィールの台詞を先に言う事で、アピールをした様だった。
「気にしない。気にしないの、サフィール。それじゃお先に帰るね~」
「はい、さよなら」
「ばいばい~い」
「なたなー」
コラルはスカートが気になっているのだろうか、会釈程度で去って行った。
大変そうだなって思うけど、あのデザインの服では端折りが出来ないんだよな。どうしようか…
パンプスみたいにカカトが高い靴を用意しようか。前回はドール衣装を意識しすぎてヒールを高くし過ぎたのが原因だったので、反省を取り入れて無理しない高さにしようか。
そんな事を考えながら見送っていた。
しかし…なんというか、三つ編みで森ガールな衣装が似合う田舎の風景に、原宿ファッションのゴスロリっ娘が混ざっているみたいに目立っている。
まぁ、都心でも発表会ドレスで歩いている様なモノかも知れないな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「テレサ。修行を邪魔して悪いけど、リトを貸して!」
礼拝堂の入り口で、街を巡回しているメイドから手紙を受け取ったのだろう。シスター・レミアが急ぎ足でやって来て、開口一番、慌てて私に用があると言った。
「レミア、どうしたの? そんなにあわてて。問題なければココで事情を話して下さいな。一応ね、師匠として弟子の事を知る必要もありますし」
「それもそうね。今居る孤児はリト達3人で間違いないかしら」
「ええそうよ。みんな出かけているから、聞き耳立てる子は居ないわよ」
「ありがとう、テレサ。では、ココでお話ししましょうか」
シスター・レミアは息を整えてから、強い口調で私に言った。
「リト。アリアのドレスも仕立てなさい。大至急よ!」
「え? どうしてアリアのドレスを繕う必要があるのですか?」
「街中で問題が起きているよ! 解決する為にもアリアのドレスが必要なのよ!」
「ご、ごめんなさい。僕、状況が良く分からないのですが…」
「事情はこれから説明するわ。まぁリトが全て悪い訳では無いのよ。でも、何かしら対策とらないといけないの!」
「ほらほらレミア、落ち着いて。私にも分かる様にゆっくり説明してくれるかしら」
マスター・テレサは、シスターレミアを軽く抱きしめて、鼓動を整える様なリズムで背中をポンポンと叩いた。
「ありがとう。テレサ。それでは、姫様からのお話しを伝えましょう」
街を巡回するメイドは姫様にとって情報収集と対策案の相談役と云う訳か。
誰が考えたのか知らないが、国の平和維持の為に良くも思いついたモノだと思うよ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
問題の内容はとっても単純だった。少女達が最近、あの衣装を着て歩き回っているのが気に入らないと、一部の、というか富裕層の人達が噂をし始めたのだ。
孤児のくせにドレスを着ているのは変だ! 養われているのだから、質素にするべきだ!
そういう不満が流れていると教えられた。
ネツレム(子守の『お手伝い』先の少女)の時もそうだけど、富裕層というのはどうして階級に拘るのだろうか、どうも理解が出来ない。
彼女たちは、長い間お小遣いを貯めて、伝を探して頼み込んで、時には羞恥心と向き合いながら、精一杯の気持ちで頼み込んだのだ。
その希望を否定されている気がして納得できないが、生活し難くなる方が問題だから一旦棚置きしよう。
私も、こっそり見守っていたシスター・レミアも、まさか毎日着飾って街中を散策するとは思わなかったし、あまりにも嬉しく愉しい姿を見ると注意し難かったのもあった。
そういう事も有り、この度の問題は修道院の気配りが足らなかったという事で、姫様より至急対策する様に言い渡されたという事だ。
「それで、対策の方法ですけども、「リトが故郷が恋しくて塞ぎ込んでいるから、心が落ち着ける様に助けましょう」と、姫様は仰っておりますわ」
「あの…、僕は別に、寂しがっていませんけど…」
「ああ。「リトはなんて可哀想なのでしょう。妹のクレハを心配させない様に、寂しい態度を隠しているけど、独りの時は辛そうなのよ。何とか元気になって欲しいわ」どうしたら良いかしら」
シスター・レミアはあえて棒読みで強調した。
「レミア。今は修行中なのよ。遠回りに言わないで、簡潔にしてくれるかしら」
「それは失礼しましたわ。リトがどの様に反応するか、興味ありましたので」
ホホホと笑うシスター・レミアに対して、私は娯楽のネタかよ! って心の中で訴えた。
「それでね、修道院としては、「リトの故郷で行っている、豊作を願うお祭りをしましょう」という事になったのよ。お祭りと言っても、塀の外で耕作に勤しんでいる方々への労いも兼ねて、演奏と踊りを披露するのよ。「リトの故郷でしているお祭り」を真似してね」
踊りを披露する。そこでアリアのドレスが必要になるという訳か。
だけど、踊りを披露するのと、ドレスを着て散策している少女達の風評にどう関連するのだろうか?
「踊りをすると、少女達の悪い噂は無くなるの?」
「ええ。そう仕向けるのよ。踊りの為にドレスに着慣れる必要があって、街を散策していたのよ。っていう噂にすり替えるのよ」
成る程。
国の食料を担う人達への労う事も兼ねて必要なんだと、風評を変える訳か。
それは分かった。
でも、なんでアリアのドレスも私が繕う必要があるのだろうか? 聞いてみた所、
「当然よ。これは「リトの故郷のお祭りの真似をする」のよ。リトがドレスのデザインをしないで、誰がするのよ。統一した方が信憑性あるでしょ。まぁ姫様からの提案ですけどね」
なお、この演奏にはブリーイッド予備軍というか、表舞台でお披露目を出来る機会が少ない方へ、発表の場を提供するという事も兼ねているのだそうだ。
まぁ、本当によく思いつくもんだよ。
アリアのお年頃とか考えると、そう何度も仮縫いに立ち会い出来ないから、寸合わせはレミアの部屋で行う事になった。
アリアの同室のマリアベルの視線が気に掛かるので、別部屋で行う必要があったのだ。
まぁ私が立ち会った仮縫いは1回のみで、後は寸法の調整、手直しはアリアとレミアが行い、その都度デザインの見直しをした。
仕上げはアリアとレミアにお任せする事になった。
なお、マリーはアリアのお下がり服が良いと言い出したので、エプロンを大きくしフリルを沢山追加した殆どメイドっぽいデザインを提案して、縫製はアリアに任せた。
~ アリアのドレス ~
ブリーイッドの贈り物の中に、色褪せして空色のになった青いワンピースが有った。何かに引っかけてしまったのだろう。左裾から身頃まで裂けてしまっていた。
思い切って、左腰までスリットの入った右に広がるワンピースにし、脚が顕わになる部分には、明るいベージュのロングのパニエ風スカートを下地にして、Aラインが出来る様に広がる工夫をした。
身頃は大人用を少女用へ詰めた結果、胸元が余ったので綿で膨らまし、シワが依った襟周りにはセーラーカラーの様に、前後が幅広い付け襟で隠して誤魔化した。




