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143 ナーガの誕生日は5月

 自分用に繕われた衣装を着た少女達が、ワルツの様なステップを刻んでいた。


 ここは礼拝堂の中。マスター・テレサが魔法の指導で使っている、漆の様な光沢のある鏡の様な大きなボードの前。

 少女達は、着飾った自分自身の姿を眺めている内に、喜びを体で表現していたのだ。

 姿全体を映せるモノはコレしかないので、自分の姿を見るのは初めてみたいな訳で、抑えきれない感動が湧き上がったのだろう。

 少女達は順番に、姿見の前でクルクルと回ってスカートの裾がたなびくのを愉しんでいた。

 そんな喜ぶ姿を見れて、心身の疲労が達成感へと変わっていった。


 ちなみに、コラルが希望した大人っぽく見える衣装だけど、背を高く見せる靴が用意できなかった。

 厚底のブーツが用意できたら良かったのだけど、流石に高価過ぎた。

 厚底サンダルはどうだろうかと、薪を削ってそれっぽく作ってみのた良かったのだが、バランスを崩して足首を軽くねじってしまったのだ。

 幸い怪我にならなかったけど、歩きにくいのと、みんなを見下ろす感じは気が引けるとの事で、諦めたのだ。

 そう言う訳で予定していたスカートは、裾が足下すれすれの丈となり、辛うじて地面を擦らなくて済んでいる状態だ。まぁパニエのボリュームを増やして浮かせたのもあるのだが。



「ねぇ、このまま街へ遊びに行かない?」

「うん。行こう。行こう」

「そうだね。みんなに自慢したいよね」

「もう、自慢じゃ無いからね。綺麗になった姿を見て貰いたいの」

「そうだよ。綺麗だねって話しかけられたら嬉よね」

「そうだね。嬉しいよね。だけどサフィールもアンブラも速く走らないでよね。スカートの裾が長いからゆっくりなんだからね」

「だいじょうぶだよ。コラルに合わせて歩くから」

「そうそう。コラルに合わせるよ。ゆっくり見て欲しいから」


「それじゃ、遊びに行って来るね。リトとクレハ。それとナーガ。ありがとう」

「ありがとう。リトとみんな」

「そうだね。早速でかけよう」


「うん、分かったよ。行ってらっしゃい」

「いってらっさ~い」

「気をつけてな」

 みんなで手を振りながら見送った。



 これでやっと、注文服を納品する事ができた。

 これもそれも、道具を扱うのにチートな能力を授かったナーガの協力のお陰だ。その為に予想よりもずっと早く仕上がった。


 門前の小僧…、と云う訳でも無いが、私達の縫い方を見ている内に何となく出来る様になり、今となっては、まるで人間ミシンと呼んでも良い様な程に上達していた。

 きっと、ナーガの脳内では「チャラリラリ~ン。裁縫スキルを習得しました」ってテロップが流れたんじゃないだろうか。って思っている。

 いつの間にか特技を奪われた気がして、授かった能力を羨ましく思ったのだが、あくまでも縫い方がミシンの様に上達しただけで、縫製の技術、例えばギャザーとか曲線を描く仕上がりにする等の技巧は真似されていない。

 だから「ちょっと優位性は残ってるかな」と、かろうじて自信を残せている。まぁ器(うつわ)の小ささを改めて思い知った訳でもあるのだが…。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 さてと、これから魔法の修行か。

 本当はその為に姿見のボードを用意したのだ。私だけでは大きくて運べないからナーガに手伝って貰えるこのタイミングに合わせて、少女達に自分自身の姿を見た貰ったという訳。


「あらまぁ。今日は準備するのは早いのね」

 マスター・テレサが時間通りにやって来た。

「そ、そうかな。何時も通りだよ」

「どうしたの、リト? とっても疲れてるみたいだけど、具合が悪いの?」

「僕は大丈夫だよ。ありがとう。達成した気持ちを感じていた、だけだから」

「そうだよ~。きもちがおさまって、わすれてたつかれを、おもいだしただけ、だよ~」

「おいおい、クレハ。僕は『疲れていない』から大丈夫なんだよ」

「そうだね~。リトは、つかれてなんて、いないよね~」

「待ってくれよ。リトは息切れしてるじゃ無いか。疲れてるんだよ」


 マスター・テレサは、門へ向かう不揃いな足跡を眺めながら「ふふ~ん」という感じに、くすぐったそうな笑顔を見せた。

「そう。そういう訳だったのね。ご苦労様。と言った方が良いかしら? 私としては女の子の部屋に何度も忍び込むのはどうかしらって思ってたけど、もう済んだみたいで良かったわ」

「はぁ…、はい。迷惑かけちゃって、ごめんなさい」

 やっぱり不審者かストーカーみたいに思われてたのか。ガッカリした分、疲労が増した気がした。

「リトは『仕事』で何度も部屋に向かったんだよ。変じゃないよ」

 ナーガが裏表無い言葉で助けてくれた。そんな素直さがナーガの良い所だよな。まぁ痴情とか色情という感覚を理解していないからでもあるんだろうけど。

 それでも「全然やましくない」と言ってくれて少し気持ちが軽くなった。


 ナーガに「心配した理由」を説明するのは、未だ早いのだろうと思ったのだろう。マスター・テレサは『昼這い』について、口にするのを止めた。

 そして、

「今日の修行はお休みにしましょうか。最近は上の空だったから、どうしましょうと考えていたけど、色々と終わった様だからゆっくり休みなさい。その代わり、明日からは厳しくするからね。しっかり疲れをとるのよ」

「は、はい。ありがとうございます。それと、明日から、宜しくお願いします」

「あい。あしたから、おねがい、します」

「ナーガはどうするの? 修行をしたいのでしたら行いますよ」

「いえ。俺はリト達が心配だから一緒にいます」

「そう、分かったわ。それじゃ今日はこれで解散ね。そうそう、あのボードはそのままで良いわよ」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 部屋へ戻る途中、アリアとすれ違った。いや、そうじゃなかった。アリアの方から近づいて来たのだ。

「やぁアリア。これから『お手伝い』に出かけるの?」

「ええ、そうよ。あら? リトはどうしたの? 少し変よ」

 痛い痛い痛い!

 アリアは足を踏みつけて、引っ張り上げた左耳へ心配だと棒読みな声を上げた。耳の奥に吹き掛かる息がくすぐったい。

 何時ものアリアじゃ無いみたいだった。

「ちょっと待って、待って、アリア。どうしたの?}

「あら? わたしは何時も通りよ。リトがふらついていたから心配になっただけよ。熱があるんじゃないの? 顔が赤いわよ」

 心配してくれるのは嬉しいけど、行動と言葉が全然合ってないじゃないか。

 アリア、本当にどうしちゃったんだよ。『お手伝い』に行くのが憂鬱なのかな? 心配になったので声を出そうとしたけど、引っぱられた耳が痛くない様にと首を傾げているので、息をするのがやっとだった。


 長いのか短いのか、この状態のままでいた所、


「お~い。リトはまだ、そんな所に居たのか。早く部屋に戻って休んだ方がいいよ」

 遅れてやって来たナーガが、遠くから呼んでいた。その声を聞いてか、アリアは足と手を離してから

「そうよ。早く休んだ方が良いわよ。それじゃ『お手伝い』に行ってくるわね。お大事にね」

 手を一振りしてアリアは去って行った。



「どうしちゃったんだよ。変なアリア」

「リトって、もしかして気付いていないの?」

「気付くも何も、今日のアリアは変だなって思ったけど、何か知っているのかよクレハ」

「は~…。その内、こうなるんじゃないかな~って思ってたけど、本当にこうなっちゃたね。それで、リトは本当に気が付いていないの?」

「クレハも、急にどうしたんだよ」

「本当に、もう、鈍いわね~…」

 言い終わるや否や、深い溜め息を吐いた。

 いったい、何が何だか?


「お~い、何時までもそこに立ったままで居ないで、早く部屋に戻ろうよ」

「ありがとう、ナーガ。いっしょに、もどろうね。リトもはやくしないと、おいていっちゃうよ~」

 クレハの言葉の使い分けには、毎度毎度驚かされるよ。本当に器用で羨ましいよ。

「待ってよ。僕を置いて行かないでよ~」


 慌てて歩み寄った。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 コンコンコン。

 夕食が済んだ後の自由時間にノックが鳴り響いた。

「は~い。誰ですか」

 そう返事して戸を開けると、あの衣装、ドレスに着替えた少女3人組が立っていた。

「はい。約束のお礼よ」

「そうそう。手間代って言うのだったかな」

「そうだね。仕立代っていうんだよ。たしか」

 食事の時は普段着だったので、直ぐに着替えてから来たのだ。嬉しい気持ちを姿で表しているのだろう。

 未熟な仕上がりとは思うけど、精魂込めて仕上げたモノを気に入って貰えるのは、これ以上にないお礼だと嬉しく思う。こういう気持ちを職人気質と言うのだろうか?


 そして、差し出された布の包みをそのまま受け取った。

「ありがとうございます。気に入ってくれて、僕の方こそ嬉しいよ」

「おね~ちゃん。ありがとう」


「それじゃ、また何かあったら宜しくね」

「またね。2人とも」

「そうだね。またよろしくね」

 少女達は足早に自室へを帰って行った。



 手触りと金属が擦れる音から、包みの中は硬貨というのは直ぐに分かった。

 材料は彼女らの古着にブリーイッドからの贈り物の古着を使ったから、実際の出費は裁縫用の針と色とりどりに集めた縫い糸の分だけだ。

 女性の衣装を繕うなんて、最初で最後だろうから実費分を頂ければ充分だよ。

 そう思いながら包みを広げると、銅貨、小銀貨、銀貨をかき集めた様に入っていた。

 総額として、銀貨6枚分程あった。

 私なりに現代の日本の価値に換算すると、銀貨1枚が5000円程だと思うから…、1人当たり1万円の仕立代じゃないか!


 流石に驚いた!!


 古着を使ったとは言ってもオーダーメイドだから、手間賃としては安いだろうけど、それ以上に、子供がお小遣いで1万円を貯めるというのは、並大抵の努力じゃ済まないはずだ。

 自分の衣装を求める為に、ずっと貯めていたのだろう。額面以上の重みを感じる。


 この代金は単純に3等分で良いだろう。


「ねぇリト。確かナーガの誕生日って5月だったよね。前の世界とこの世界の暦にはズレがあると思うけど」

「正確な計算は別として、この世界も1年を12等分しているから、同じに考えて良いと思う。って事は誕生日のお祝いしてなかった。どうしよう? プレゼントとか、考えてなかった」

「わたしも、うっかりしていたわ。どうしましょう。もう6月になっちゃったわよ」

「明日は修行だから、買い物に行けないし…どうしようか?」

「本当ね。どうしましょう?」

「何が欲しいか分からないし、現物にする? ちょうど今、収入があったし…」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ただいま。片付け終わったよ」

 ナーガがノックも無しに帰ってきた。

「お帰りナーガ。アリアはどうだった? 変わった事無かった?」

 今回はナーガとアリアとマリアベルが片付け当番だったのだ。

「アリア? 別に何時も通りだったけど、何か有ったのか?」

「ううん。何でも無いよ」

「変なリトだな」

 クレハのジト目が気になったけど、アリアは何時も通りなら大丈夫か。


「ナーガ。ちょっとそこに座ってくれる?」

「どうしたんだよ? なにかあったのか?」

 と言いつつ素直に座り込んだ。



「これがね、3人組が届けてくれた、衣装の仕立代だよ。さっきもってきてくれたんだ。それでね、3等分して、これがナーガの分だよ」

 銀貨2枚分を、それぞれが座った前に置いた。

「え? いや、嬉しいけどちょっとまってくれよ。この『仕事』はリトが引き受けたんだろ。こんなに貰えないよ」

「違うよ。ナーガが手伝ってくれたから出来た『仕事』だよ。だから受け取って欲しいんだ」

「そうなんだ。それじゃ受け取るよ。ありがとう」

 3回遠慮したら面倒だなって考えていたけど、子供の世界は素直で良いよな。


 そして、クレハと頷いてから、銀貨1枚分をナーガに差し出した。

「お誕生日おめでとう。たしか5月だったよね。遅くなってごめんなさい。プレゼントじゃなくってお金で恥ずかしいしごめんなさい」

「ナーガ。おたんじょうび、おめでとう」

「あ、ありがとう。そうだったのか。もう誕生日過ぎてたんだ。俺の方こそ覚えてくれてありがとな。気持ちだけで充分に嬉しいよ。だからこれは返すよ」

 流石に遠慮してきたか。現金だから要らない、というより単に遠慮してるだけだろうな。

 プレゼントを買ってしまったのなら、「折角だから貰ってよ」って言えるけど、お金だとそう簡単にならないか。


 さてと、どう切り出そうか…。

 と、考えているとクレハから

「あのね~。これはいままでのおれいと、おいわいなの。だから、もらってほしいの。 それでね、あたしのたんじょうびに、おいわいしてくれると、うれしいの」

 と、提案があがった。

「そ、そうだよ。今までのお礼とお祝いなんだ。 それでね、僕達の誕生日を祝ってくれたら、おあいこだよ。 これでどうかな? ナーガも欲しいものあるよね。武具とかどうかな? 役立ててよ。」

 事情があったけど、一度武具を取り上げてしまった負い目があるから、買う為に使って欲しいと思う。

「それもそうだな。誕生日にお礼するよ。リトとクレハの誕生日はいつ?」

「10がつ、だよ」

「そう。僕達は同じ10月なんだ」

「へー。同じ月なんだね。それで何日?」

「ひにちは、わすれたけど、10がつだよ」

「そうなんだ。商売で旅をしていたから、日にちまでは覚えて無くってごめんなさい」


 元々は同じ魂で、この世界に送り込む前にメフィストが無理矢理? 私とクレハに別けたから誕生日は同じなんだけど、兄妹が同じ日にちというのはどう考えても変だと思う。

 だから、ここは忘れた事を押し通そう。

 行商というメフィスト設定を言い訳にして答えた。


「俺の方こそ、ごめん。 それじゃ10月にお礼するよ」

「ありがとうー。あたしは、あまいクッキーがたべたーい」

「僕も、美味しいクッキーでお祝いして欲しいかな」

「そうか。分かった。覚えておくよ」



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