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142 くはし女(め)にあり通わせ

 広げられていた衣服を材料にと、数着預かって部屋に帰ってきた。


「おかえり。って、なんか香りが凄いね。女の子の部屋ってフローラルな香りだった?」


 ナーガから「フローラル」なんて言葉を聞くとは思わなかったけど、洗剤や消臭剤の広告とかコマーシャルで「フローラルな香り」をアピールしていたのを思い出したのだろう。そう考えれば、別に変では無いよな。

 

 香りの元は? と考えるまでもないか。

 預かってきた服に鼻を近づけて確認をした。

「うわ~。おんなのこのふくに、かおをちかづけて、においかぐ? ふつうは、しないよ。きも~」

 再び、クレハにドン引きされた。

 篭を抱えて両腕が塞がっているから、そのまま顔を近づけたんだけど、言われてみれば、この行為はまるで変質者だ。

 幸いというか、ナーガ目線では、只の洗濯物として映っていたらしく、クレハのオーバーなドン引きの仕草に首を傾げていた。


 ただ単にクレハが揶揄(やゆ)っているだけだと分かって安心したよ。ありがとな、ナーガ。


 さてと、とにかく香りの元が気になるので、篭を降ろして服を取り出して畳んでいくと、小さい小袋が転がった。

 これはポプリか。香水の代わりに服に入れていた物か。

 小袋が汚れているから捨てるのを忘れてポケットに入れたままだったのだろうか。


「多分これだと思うよ」

 と言ってナーガに手渡した。

「女の子って時々良い香りがすると思ってたけど、この香水を持っているからなのか」

 これは香水じゃ無くって芳香剤だよって言いたかったけど、それよりも、ナーガも異性を気にする年頃なんだなって思った。

 冒険とか剣とか、ゲーム大好き少年かと思ってたけど、普通の男の子なんだな。なんかホッとした。


「な、なんだよ。ジロジロと見るなよ」

 何を想像したのか知らないが、異性への免疫が無くて恥ずかしいのか、顔を赤らめていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 さてと、何度も催促されたく無いから、早速手がけようか。

 真っ新(まっさら)な生地を裁断するのでは無くて、古着を加工するのだから、型紙の様な物を作る手間は省けるので、早く仕上げられそうだ。

 そんな甘い考えをしていた。

 まぁ私の場合、裁断から始める時は仮縫い以前に、とりあえず体に布を巻き付けて縫い合わせ、それを切り離して型紙の元としながら、という作業を何度も繰り返して、やっと仮縫いできる型紙を作っていた。

 だから、生地を沢山無駄にするので、ワゴンセール等の安い生地を買い込んでいたなぁ。

 そんな訳で、他の人用のを繕う始めてな今回は、古着を解いて縫い直す方法を考えたのだ。


 仮縫いの手間は減ると思うけど、だからと言って何度も女の子の部屋へ通うのは好ましくないよな。夜這いというか、殆どストーカー行為っぽいじゃ無いか。

 出来ればトルソーが欲しいけど、そうそう手に入る訳がないし…。


 あ!

 そういえばナーガが大体同じ背丈だった。

 ナーガの方が2歳程年上だけど、この年代の女の子は成長が早いから大体同じだ。

「ねぇナーガ。この紐を持って立ってくれるかな?」

「これ? 別に良いけど、なんだいこの紐は?」

「そうそう。紐の下の結びが床に触れる位に持ち上げて」

「これで良いのか」

「うん。ありがとう」


 え~と、首元から踵(かかと)までは大体同じ身長か。ナーガの方が足は長いけど、腰位置は同じ位だ。

 良かった。これならトルソーの代わりになる。

 問題は、協力してくれるかどうかだけど、とりあえず、聞いてみない事には始まらない。


「ねぇ、お願いがあるんだ。洋服を作るのを手伝って欲しいんだ。もちろん、お礼はするから」

「手伝いって云っても、俺は家庭科の勉強は出来なかったから、手伝えないと思うけど」

「かていか? かていか、って、な~に?」

 クレハがあえて問い掛けた。

「家庭科っていうのは、料理したり、縫い物の勉強だよ」

「そっか~。おうちの、おてつだいの、おべんきょう。ならったんだね」

「う、うん。そう言うのかな」


 そうか、私が小学校の頃と同じく、ナーガの世代でも家庭科の授業があるのか。内容は分からないけど、似た様な授業だと期待したい。


「大丈夫。ナーガでも出来るよ。仮で縫い合わせた服を着てくれるだけだから」

「え~。なんか、やだよ。女の子の服を着るなんて、恥ずかしいじゃないか」

 ま、そうだな。好き好んで女の子の服を着たがる訳がないか。好まれたら、それはそれで心配事が増えるけど。

「ナーガ、おねがい。これはね、あたしたちの、おしごとなの。だからね、おしごとの、おてつだい。きょうりょくしてくれると、とってもたすかるし、あたし、うれしいの」

「仕事、そうか仕事か。リトとクレハだと大変なんだな。分かった。恥ずかしいけど頑張って協力するよ」

 説得に苦労するかと思ったけど、うるうるな涙目でお願いするクレハのお願いが効いた様だ。

 女の武器を上手に使って籠絡(ろうらく)するなんて、手練手管(てれんてくだ)の限りだよな。もっとも、中身は私と同じ300歳近いババアだから、使い所を心得ていて当然か。


 うっ! 痛っ!

 私の思考を呼んだのか、何時もの踵(かかと)落としを受けてしまった。癖でバレるのか、それとも勘が良いのか、クレハの『読み』には本当に驚かされる。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ナーガにはトルソーの代わりとして、仮縫いの合わせを確認する為のモデルになって貰った。

 クレハは手が小さいし力も弱いから、細かな縫い物が出来ないので、解れ止めの巻きかがり縫いという、重要な仕事をして貰う。これをしないと縫い合わせが綻(ほころ)んで穴が空いてしまうのだ。

 服の内側で見えなくなるから、雑になっても大丈夫。

 そして私はデザインとメインの本縫いの作業を行う。


 用紙に書き写したデザイン画を見ながら、イメージを膨らませて形を作る。



 ~~ サフィールの衣装 ~~


 とにかく、いかり肩を気にしていたので、身頃の首と肩の幅を狭めて脇まで斜めのラインになるようにして、肩周りをふんわりと膨らむ感じにギャザーを入れた。

 肩周りの所が撫で下りる様に身頃をAラインにして整えた。これで肩が落ちてる様に見えるだろう、と思う。コレが私の精一杯のデザインなのだけど。

 そろそろ初夏なので半袖にし、袖先には襟と同じ生地でフリルをあしらった。、

 そうそう。襟は肩と当たらない様に『立て襟』にした。

 まぁタンクトップに『立て襟』と大きなショルダーを付けた。というイメージで良いかもしれない。

 胸元に大きなリボンを付け、その下に中くらいのリボンを3つ揃えた。

 ウェストには内側にベルトループを作り、横に紐を出して、ウェストを絞れる様にした。

 上着の裾(すそ)はフリルで飾った。

 スカートは膝丈程の長さとし、フリルを3段にした。

 これでも充分広がるけど、もっとふんわりしたい時様に、腿丈のパニエを用意した。隠れるので、端切れをふんだんに使った。

 ちなみにカラーはダークグリーンをベースに、リボンは明るいレッドにし、でフリルはイエローにした。



 ~~ アンブラの衣装 ~~


 明るいベージュのワンピース。

 左胸に赤い花、スカートには緑の葉の刺繍がされていてるのを渡された。既に仕上がっている衣装なので、デザインを考える余地は殆ど無かったが、バランスを調整するのが大変だったな。


 刺繍されているのでお高い服だろうと思ったけど、目立つシミがあり格安で買えたそうだ。ただ、サイズが大人用なので、仕立て直しして欲しいという要望。

 幸いにもシミは刺繍の箇所には無かった。

 シミの箇所は切り取り、上着とスカートの2ピースの衣装にする事にした。

 上着は着物の合わせの様にして、花の柄が中央からやや左になる様に幅を縮めた。ただ、そうすると背中が余ってしまうので、長さを整えた。

 長袖だったので、内側に3段の折り返しをしてみたら、パフの様に膨らんでしまったので、気に入らなかったら単純に袖の長さを短く切ってしまおう。

 問題は襟の合わせが左右のバランスが非常に悪くなってしまったので、ここは付け襟で何とかしようと試行錯誤の結果、セーラーカラーの先端をピーコートの様に重ねる事にした。

 ただ、問題があって、そのままだと首周りがとんがる様に盛り上がっていまうので、平たく成る様に首回りをカットするのが苦労したわ。


 スカートは、リーフの刺繍を裾(すそ)にした2段のフリル。

 大人サイズなので、子供用にするとギャザーを沢山作るのでボリュームができた。タックなデザインでも良かったかもしれないけど、子供服は広がりやすい方が可愛い。と思う。

 上着をスカートの中に収めるので、ウェストには帯みたいな幅広の布を当てて、リボンしばりが映える様に、裾を更に広くし斜めにした。


 そうそう、襟の生地は青色で接ぎがない一枚布が必要だから、服屋へ足を向けた。

 春先には寒ざらしで紺染めされた生地が並ぶ。寒ざらしだと色が濃く染まるのと聞いていたのだが、見習いが染めると水の冷たさにかじかんで、色が薄かったり染めムラができたりしてしまう。つまり失敗作だ。

 失敗だからと捨てる訳にもいかないので、安く店に並ぶ。

 この染めムラを『失敗』と受け止めるか『デザイン性のある染め味』と受け止めるかは微妙な所だ。

 幸い、探しに行った店には3人組は『お手伝い』をしていたので、事情を説明し、アンブラ本人に選んで貰ったので、悩まなくて済んだ。



 ~~ コラルの衣装 ~~


 大人っぽくなりたい。

 という要望。

 流石にワイシャツにタイトスカートでは無理があるのは容易に想像できた。

 あえて体のラインが出にくい、ロングスカートのワンピースが良いだろう。


 先ずは身長だよな。

 体格はどうする事も出来ないが、下駄というか、シークレットブーツというか、まぁ底上げした靴で身長を伸ばそう。ロングスカートで隠してしまえば、誤魔化せる。と思う。

 靴は流石に作れないので、コラル本人に履ける高さの靴を特注して貰う事にした。

 どんな靴を用意するのか分からないけど、調整し易い様にスカートの裾は、フリルの縫い付けで調整しよう。


 あとは、胸は大きく、腰は細く見える事だろうか。

 コルセットが普及した事を考えれば、今も昔も女性が求めるモノは同じだろう。ただ…、エロオヤジっぽい発想力しかないのが情けない。

 とはいえ、早く仕上げたいので思いついたイメージで進めるしか無いか。


 胸は綿で膨らせるのが簡単だろうな。ブラ風のを用意しよう。

 偽乳(にせちち)を隠す為に立ち襟。喉元にはリボンをあしらってっと。身頃のベースはメイド服のように黒をベースにて細く見える様にしようか。

 スカートはおへその辺りからAラインに広がる様に切れ目を入れてっと。

 開いた所は明るい色で、ペチコートというか下地のスカートの様に見えるという風にしてっと。

 それから、腰を細く見せる工夫として、明るい色で両側にフリルがあるリボンの様なのを用意して縁取りにしよう。

 肩先から少し下に進めて脇辺りからおへそ辺りへ絞って、そのあとは黒のスカートが広がる通りに縁取りにする。

 後ろ側も同じように縁取りをしてっと。

 脇辺りから絞るのは胸を大きく見える為だけど…、そうそう、絞る起点に下側のみフリルの縁取りを付けよう。

 黒い服に映える様な明るい縁取りで体のラインを演出する訳だけど、良く見ればくびれが無いのは直ぐに分かってしまうだろうな。

 それならば、いっそうスカートを膨らまそう。パニエで広げてボリュームをつけて、場合によっては裾も広がる様に輪を吊るタイプのワイヤーパニエも検討しよう。

 袖は、スカートに合わせて、肘を超えた辺りで切れ目を入れて広げてっと。


 黒板にイメージを描いて見たモノの、その通りにできるだろうか?

 この衣装は何度も仮縫いして調整が必要だろうな。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんなこんなんで1つ月が経ち、5月も後半になってしまった。


 何度も女の子の部屋へ通った。

 明るい中休みの時間に通ったので、『夜這い』じゃなくって『昼這い』っていうのだろうか? 傍から見たら、なんとマセタガキだろうか。

 クレハが一緒に居てくれるから、「私はクレハのお供で一緒に来ています。だから、やましくないんだ」と、自分に言い聞かせているが、流石に不謹慎だよな。


 勢いに負けて請け負った『仕事』だけど、流石に変だよ。衣装を納めたら終わりにしたいと思う。

 まぁ、あの勢いに押し負けない事が前提だけど…。



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