141 個々の好みとデザインと
「え~と、
紐が3巻き。
ナイフはもしもを考えて2本。
チョークと消す雑巾は、この位有れば足りるかな?
ロウソクと幅広な端切れの生地を多めに用意してっと。
手持ち黒板が2枚、僕のとクレハの。それと、材料のチェック表としてナーガから借りた1枚。
先ずはこれで大丈夫かな」
黒板のリストを確認しながら、篭に収めた。さぁ3人組の部屋へと向かおうか。
「なぁリト。紐とかナイフなんて用意して、何をする気だよ。悪い事に使わないよな」
「わるいことって、な~に?」
「悪い事は…、ん~と、紐で縛って動けなくして、ナイフで脅す、とか? かな」
「脅してどうるすのさ。あ、そっか、ナーガも男の子だもんね。色々と興味があるんだね。一緒に来る?」
「いや、いいよ。冗談だよ。それに女の子の部屋に入るのは、ちょっと恥ずかしいかな」
まぁ確かに、ナーガの言う通りの事が出来そうな道具一式ではあるな。誘拐犯か変質者に成れるかも知れない。
言われて、始めて気が付いた。
ただ、ナーガに邪な考えがあるとは思えないから、さしずめヒーローごっこな遊びでも思いついたのだろう。
例えば…
少女を縛って猿ぐつわして、私がナイフで脅すような振りをしながら「僕は悪魔の大王だ。この美しい娘は僕の嫁としてさらっていくぞ!」って言うんだ。
それから、ナーガが私を押し飛ばして、「助けに来ました。ご無事ですか」ってお姫様抱っこするとかかな。
まるで、配管工が樽を飛び越えキノコを踏む話しみたいだな。これだと私は猿か亀かどっちだろう?
…なんて妄想していたらクレハがからかってきた。
「あ~。リトがやらしいこと、かんがえてる~」
「か、考えていませんです~。考えてるのはクレハです~」
「すご~い。リトはあたしのかんがえてること、わかるんだ~。それじゃ、あててみて~」
確かに、想像しなかった訳では無いけど、人前で言うネタでは無いし、そんな恥ずかしい事言えるか!
「はいはい。冗談はもういいだろ。中休みの時間が勿体ないから、もう出かけよう。ナーガ、黒板貸してくれてありがとう」
慌てつつ、クレハの手を引いて部屋の戸を開けた。
「いってくるね~」
「おう。行ってらっしゃい。ナイフで怪我しないようにな」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
コンコンコン。とノックする。
「リトです」
「クレハで~す」
「は~い、いらっしゃい。約束よりちょっと遅かったわね。忙しかった?」
サフィールが戸を開けた。
「ごめんなさい。準備に時間掛かっちゃった」
「良いのよ。それじゃ中に入って」
と、招いてくれた。
女の子の部屋かぁ。どんなに可愛く綺麗な光景だろうか? そんな興味と期待を抱いた事は否定しない。
否定はしないけど、足を踏み入れた瞬間、甘い期待は裏切られてしまった。
服が散乱していたのだ。『汚部屋』と呼んでもおかしくないかもしれない。
まぁ、服で散らかりやすいとか聞いた事有るから、プライベートではコレが普通なのだろう。
「うわ~…、コレはすごいな~」
思わず声に出してしまった。失言してしまったと慌てて口に手を添えたが手遅れだ。
どうしよう。気まずい雰囲気を作ってしまったかも知れない。
「うわ~い。おようふく、たくさんだ~。すごいね。いっぱいあるんだね~」
クレハが、色々な服が見れて喜んでいる風に声をあげた。
これは間違いなく、失言のフォローだよな。と、猛省。
「お気に入りの服を並べてみたの。ちょっと小さくなっちゃったから着れないの。これを材料に仕立て直しできるかな?」
アンブラが部屋の惨状を説明してくれた。
なるほど、そう言う事か。
「私達、これからどうしたらいいの?」
コラルが問い掛けた。
◆◇◆◇◆◇◆
「今日はね、採寸と希望の衣装を聞きに来たんだよ。それでね…」
流石にこの後「服を脱いで」とは恥ずかしくて言えなかった。自分が「はぁはぁ」と言っている変質者見たいに思えてしまったからだ。
部屋を出る前に、あんな会話をしてしまったから、妄想が湧き上がってしまって困惑してしまう。
ああ…どうしよう。先に希望のデザインを聞いた方が良さそうだ。
「…それで、みんなはどんな服が希望なの?」
「そうだったわ。採寸が必要だったね。服を脱ぐんでしょ。待ってて」
そう言って、アンブラはおもむろに服を脱ぎ始めた。
見ては駄目だと咄嗟に腕で両目を覆った。
「はい。これでどうかな」
せっかちだなって思いながらも、目を閉じたままでは何も出来ないので、ゆっくりとまぶたを開く。
キャミソールと腰辺りまであるショーツな肌着姿がそこにあった。なんとなく眩しい。
「どうしたの、リト。わたし、変かな?」
「へ、変じゃ無いよ。とっても綺麗だよ」
「そう。ありがとう」
恥ずかしいとか戸惑いの無い口調から、男として見られていないんじゃないのか? って気がするけど、堂々とした立ち振る舞いで、私は開き直る事が出来た。
早く採寸して、服を着て貰わないと寒いよな。急がないと。
「お姉さん達も手伝ってくれませんか」
「「いいよ。何をしたらいいの」」
サフィールとコラルが口を揃えて返事をした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
この国の尺貫法…じゃなくって、長さの単位とかまだよく分からないから、紐を使って体の位置を記録する。
身長の長さで両端を結び、首、肩、腰、股、膝、踝(踝)と結びを入れた。
首元の位置から左右に紐を足して、肩、肘、手首、指先と結びを入れて、胸囲、腰回り、お尻に輪っか結び足す。
そして、結びが緩まないようにロウソクを垂らして固定した。
これを3人分作った。
同じように見えていたけど、3人とも体格が違うのだな。
個性があるのだから当然だけど、孤児服が同じデザインだから、背丈が同じなら同じように見えて当然か。と改めて思った。
だが、同じに見えると遠目では動きの癖が分からないし、しかし、ずっと近くに居たらストーカだよ。
そんな訳で、判別する為にしばらくの間は左手首にリボンを巻いて貰う事をお願いした。
サフィールには、1巻きのボウリボン。輪が左右に1対の蝶々結びとイメージすれば分かるかな。
アンブラには2巻きで、コラルには3巻きを縫い付けた幅広の布を手渡した。
そして、トルソー代わりの紐の頭の部分に、それぞれのボウリボンを結んで区別しやすくする。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さてと、ここからが本題だよな。
「どんな感じの服を繕ったら良いの?」
と、軽く質問をしたけど、正直言って体にぴったりな服は繕える程の技量は無いから、内心ヒヤヒヤだったりする。
ドールの衣装の場合は、動きは無いから派手なドレスが多かった。
派手に広がるスカートとか、風なびく様に演出する為に針金を縫い込んだり、レースをふんだんに使ったりして誤魔化していた訳で…。
そんな経緯で、体のラインにそった衣装はまだ繕えない。
だから、人用となると、ゴスロリみたいにフリルが沢山な衣装を推奨したいのが本音なのだ。
黒板を片手にボウリボンの順に聞き取りを始める。
◆◇◆◇
先ずは一重のサフィールだ。
「私は、可愛く見えれば良いな。ほら、肩幅広いでしょ。クレハみたいにヒラヒラしたのが良いわ」
採寸の時に実感したけど、スポーツが得意そうないかり肩なのだ。自分のなで肩をなで下ろし、羨ましいなぁと思いながらも考える。
ちなみに、今のクレハの衣装は前後左右、正面と背中と両脇を運動靴の紐のようにリボン縛りで幅を詰めている。同じように、腰とスカートの裾も和服で言う所の端折りでそれっぽくしているだけの手抜きだ。
「リボンが多くなっても大丈夫? フリルは沢山有った方が好み?」
「この肩が目立たないようにしてくれたら、後はお任せするね」
少し考えてから、黒板にラフな衣装デザインを描く。
肩が目立たないようにするならば、一層の事、肩の部分を膨らませてしまおう。たしかルネサンス調だと二の腕周りは膨らませるのが流行っていたと思う。
胸元は魔法少女の様に大きめなリボンを飾り、スカートはふんわりする様にパニエを用意しよう。
丈は試着しながら調整しよう。
そんなイメージを描いた黒板を見せたら、「フリルが多くして欲しいな」と注文有った。
その他の要望を描き直して下書きは終わり。
黒板の隅に○を1つに「サフィール」とメモ。
◆◇◆◇
次は二重のアンブラだ。
「この服が着たくて買ったけど、やっぱり多きのよね。寸法を整えられるかな?」
と渡された衣装は身頃とスカートが別の黄色い2ピース。
胸元には赤くシンプルな花柄が刺繍が施されたブラウスと、横にライン状で描かれた緑のリーフの刺繍をあしらったスカート。
デザインはシンプルだけど、刺繍を活かすとなると、単純に裾上げしたら刺繍が無くなってしまう。
「あのさ、衣装にはハサミを入れても良いんだよね」
「刺繍が綺麗に見えるならいいよ」
スカートは横模様だから、単純に中抜きすればいいか。でもブラウスはどうしよう?
刺繍を活かすとなるとピンタックで詰められないし…。
「ねぇ、ブラウスを着てみて貰えるかな」
「ええ、良いわよ」
そう言ってからササッと、躊躇い無く着替えた。
その勇姿から、恥ずかしいとか、気まずいという感じを受けなかった。お陰で戸惑う事無くブラウスの合わせに手をかける事ができたた。
左胸の刺繍を前にすると…、着物の様に重ねる感じかな。
そうすると首回り、特に襟がだらしなく開いてしまうな。襟を付け足すしかないかな?
2枚目の黒板に完成イメージを描く。
「ねぇ、この襟はな~に?」
セーラー風の襟を指差して質問が有った。
「首元を整えるので、襟を足そうと思うんだ。どうかな」
「そうねぇ、何色にするの?」
「一輪の花をイメージするなら、青系かな」
「そうか、空の色ね。一度色合わせしてみてからね」
「うん。分かった」
黒板の隅に○を2つに「アンブラ」とメモ。
◆◇◆◇
最後は三重のコラルか。
「シスター見たいに大人風がいい!」
彼女らの年齢だと、男の子より成長は早い時期とはいえ、まだまだ子供。なかなか難しい注文だな~。
下手をしたら、子供が大人の真似をして口紅を塗った後の様になってしまう。
「シスター服や、メイド服みたいなのが良いの?」
「違うよ。大人の女性になりたいの」
『大人の女性』と言われてもな~…。
「こういう風に見られたいの?」
と、瓢箪をなぞる様に、ボッキュボーンな形を描いた。
「うわ~、リトっておやじっぽ~い」
クレハがドン引きしてしまった。
ただ、大人の女性をアピールするなら胸のラインが重要だよなって思っただけなんだけど、こうも引かれるとセクハラなエロオヤジをしているみたいじゃないか。
失敗してしまったと恥ずかしくなった。
だけど、セクハラされた実感の無いコラルは
「そうそう。胸が大きく見える様にしてよ」
と言いながら、自分の手で胸の前に何度も丘を描いていた。
「デザインは、宿題にさせてくれる?」
「いいよ。リトにお任せするから、立派なレディーにしてね」
3枚目の黒板には瓢箪のラインと「大人風お任せ」と書き、隅に○を3つに「コラル」とメモをした。
「あ~、私も胸大きくしたい!」
アンブラから追加注文が入った。
「はいはい。アンブラも大人風っと」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そっくりな様で、好みはそれぞれ違っていた。
十人十色って本当なんだな。と当然な事と分かってはいたが、改めて実感をしたよ。




