139 『試し』の内容とその結果
今、私達のはコソ練の場所に今し方辿り着いた所だ。シスター・テレサの手配が早かったのもあり、昨日の今日で『試し』で受ける事になった。
辿り着くと、純白で綻びの無い普通のデザインな衣装を纏った、プラチナブロンドの少女が、客車から降り立った。
その予想外の出来事に、私は驚きと理由を求めて駆け寄ったのだ。
「あの~…」
「はい、何でしょうか」
少女は何事も無く明るく言葉を返した。
「あの…、姫様? これはシスター・テレサが責任を持っての『試し』と聞いていたのですが、姫様が審判をされるのでしょうか…?」
「ええその通りよ。これはテレサによる『試し』。わたくしは関係御座いませんわ。それとも、何かしら? わたくしが居たら迷惑とでも?」
「いいい…え、とんでも御座いません。てっきりシスター・テレサのみかと思いましたので」
「ええその通りだわ。責任はテレサが受けもつのでしょう。今の所、わたくしには関係有りませんわ。そうねぇ、リト風に言えば『野次馬』かしら。だから気にする事は無いわよ。ただ刺激が欲しかっただけだからね」
『試し』って、入学とか卒業試験みたいな、将来の人生に影響する事なんじゃないのか?
それを「暇つぶしに来ました」みたいにいって、何様だよ! っと心の中で呟いた。いくら『女王様』だとしても平民を玩具扱いするのはどうなんだよ。
「あら、「暇つぶし」ではありませんわ。強いて言えばテレサの『お手伝い』と思って下さいな」
しまった! 声に出してしまったか? いやいや、そんな筈は無い。不足な事態で歯を噛み締めていたのだ。声なんて出るものか。
「あ~。ひめさま~。ごきげん、うるわしう~」
クレハが半身を私に隠して挨拶をした。
正直、私達、特にクレハがだけど、姫様に苦手意識がある。この国の女王だから? 身分が高いから? 会社で言うなら重役だからだろうか?
違う。そういう『緊張』では無い。表現するには曖昧な言葉しか思い浮かばないので、今の所は色々と息詰まる心持ちだとしておこう。
そ、そうだ、不意な来賓で驚いてしまって挨拶をするのを忘れてしまっていた。
「こんな…、かの様な何も無い所では御座いますが、姫様のお目通し頂き、胸が一杯になる思いで御座います」
慌てて挨拶を告げた。「胸が一杯」なのは感激と驚きと、まぁ色々な意味で、だけどな。
「姫様。この度はお手間をおかけし、申し訳ございません」
「姫様。お会いできて光栄です」
「姫様だ。会えてうれしいです」
「ひ、姫様。こ、こ、この度は、お会いできて嬉しく、思います」
私が思わず駆けだして行った為に、後から遅れて辿り着いたみんなが挨拶をした。シスター・テレサにハンスとガッセルは、これが普通なのだろう。
しかし、ナーガは違った。この浮ついたというか、どもった言い方は、まるで好きな子に話す様に緊張した口調だった。
そういえば「姫様ってとても綺麗だよね」って、言っていたから、気持ちとしては、クラスで一番人気の女の子と声を交わす。位に浮かれ半分、焦り半分。と言った所だろう。まぁ何とも初々しい光景だな。
ござる丸は、貰うモノを手にしたらもう用はない。と言いたそうに黙ったまま立ちすくんでいた。
こいつは~! 一宿一飯の感謝も無いのかよ。せめて会釈ぐらい出来るだろ。
…って考えていた時に、姫様から
「リト。良いのです。挨拶もそうですが、もう少し気楽にして下さいまし。それに世話をしているのはテレサ達ですので、わたくしには恩義を抱かなくても気にしませんよ」
と、先程もそうだけど、まるで心を読まれた様な事を口にして、驚愕な表情をしてしまった。
しっかし、シスター・テレサの制服、修道服を除けば継ぎ接ぎなボロ服を纏った子供達の中で、ござる丸の如何にもな黒装束と、姫様の『野次馬』ですよと言わんばかりなラフだけど白く綺麗な服は、変に目立ちすぎだろうに。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それでは1つ目。模擬戦を行います。サスケは兵士として長剣と盾を、ハンスは盗賊役として短剣を2本で行ってもらいます。一応忠告しますが、寸止めですよ。怪我をしたら修道院の仕事が出来なくなりますからね」
「いえす。ミーは何時でもいいでござる」
「盗賊役ですが。経験はありませんが、どうぞ宜しく」
ござる丸は、経験無いという言葉から、既に勝った気になったのだろう。忍び装束からでも充分の分かる表情をしていた。
「それでは始め!」
シスター・テレサの号令早々に、ござる丸は右手の長剣を振り下ろした。それは寸止め出来る勢いでは無かった。長剣を樋というか腹というか、広い面を相手に向けて構えていたので、間違いなく痛めつけて降伏させようって魂胆が見て取れた。
ハンスが痛めつけられるのを想像してか、思わず目をつぶり「大怪我をしないように」と祈る。
ドサ!!
そんな鈍い音をと当時にテレサの判決が下った。
「勝者、ハンス!」
ござる丸が寸止めをしなかったの反則負けになったのだと思い、恐る恐る瞳を開くと…、
そこには、振り下ろした長剣を半身で避けて、左手の短剣を喉元に突きつけているハンスの姿があった。
「ハンス、やったな! 格好良かったぜ」
「ありがとう。これもガッセルとの稽古のお陰。オレ達2人の力です」
ハンスはガッセルを気遣っていたが、それでも勝った喜びを隠さなかった。
「ネクスツ! もう一度だ。武具の差で油断させるとは卑怯で、ござる。もう一度真剣に戦え!」
ござる丸は納得いかなずに叫んだ。
油断した時点で、充分に負けだろ! って止めに入ろうとした時に
「わかりました。ではもう一度勝負をしましょう。良いですか。それでは始め!」
またもや、号令早々にハンスへと向かって行った。
今度は盾を前に出し、長剣は盾で受け止めた時に突き刺すのという分かりやすい格好だった。
勝利の余韻で身構えるのに遅れたハンスは、ガッセルを突き放し、突進してきた盾を受け止めたものの、勢いに負けて弾き飛ばされた。
…様に見えたが、結果、仰向けになったござる丸の右腕を脚で絡め、盾の左腕は上半身で押しつけていた。「これで、終わりです」
短剣の柄の方でみぞおちを叩き込んだ。コレが実践なら短剣は心臓に突き刺さっていただろう。
「勝者、ハンス!」
勝負としてはあっけなかったが、どういう顛末だったのか速くて見えなかった。
すると、ナーガが「やっぱりハンスは凄いな。バランスを崩しているのに、そのまま利用するなんて」と口に出していた。どうやら始終が『見えて』いた様だ。
「ナーガは、この勝負、見えたの? ハンスはどうやって勝ったの? 僕は見えなかったから、教えて欲しいんだ」
「なんだ、リトには分からないのか。いいぜ、教えてやるよ」
「うん。ありがとう。おねがいします」
俺の手柄。様な感じで身振り手振りを交えて実演してくれた。
流れとしては
1:ハンスがバランスが取れていないフリをして、中腰で盾を受けて、後ろ向きに倒れ込みかけた。
2:ござる丸が、突き飛ばしたと思って反撃されないと思い込んで、長剣を思いっきり振りかざした。
3:ハンスは長剣を振りかざす勢いを利用して、ござる丸の腰に手を当ててて投げ飛ばしたのだ。倒れた様に見せかけてしゃがんでいたのだ。
4:ござる丸は、ハンスの反撃というか立ち上がる勢いでを大地に背中から落とされた。背中を強く叩かれた以上の衝撃を受けたので呼吸が上手く出来ずにいた。
5:その隙もあるが、体で押しつけるように大地に落としたのだ。その体勢から、両腕を絡めて押さえ込んだ。
という結果だそうだ。
大雑把に例えるなら、合気道で投げて、柔道の寝技で押さえ込んだ。と言えば分かるだろうか。
しかし、倒れてからの絡め取りまで『見えた』動体視力が稽古による経験ではなく、『神様の祝福』の一部なのだとしたら、なんと羨ましい事だろう。
時折、ナーガの能力に嫉妬してしまうが、『平穏』を選択した私には過ぎた能力なのだと自分自身に言い聞かせる。
「これはアンラッキーなだけだ。ミーの力はこんな訳がない。納得出来ないでござる。魔法で戦うなら絶対に負けないでござる」
はぁ…。負けん気が強いというか、面倒だなぁ。
自分の弱さ、未熟さを認め、共に修練すれば仲良くなれるだろうに、頑なに自分の方が強いと意地を張るから争いは無くならないのだろうな。
シスター・テレサはどういう判断をするのだろうか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そうですか。それでは仕方がありませんね。この勝負は一旦保留しましょう。
では、2つ目です。魔法を見せて貰いましょう。使う魔法は、クレハと同じ魔法が使えれば良いでしょう」
クレハの出番が来た。
まさか小さい子に手を上げたりしないとは思うが、この激情ぶりだと心配がある。
私はクレハを守る目的で傍に居る事にした。
「それではクレハ、教えた通りをしてみてね」
「あ~い」
小さな指を立てて唱えた。
「精霊よ、このゆびさきに、ともしびを」
指先にロウソク程度の火が灯った。
「さぁ、同じく灯火を照らしてみなさい」
「…うぬぬ。ああ! もう! こんなちまちました事出来るか! だいたい、そんな小さな火で何が出来るでござるか。戦いなら火力が強い方が良いに決まってるでござる! こんなのは無意味でござる!」
ござる丸はそう言って腕を天に掲げて「業火球!」と叫ぶと、上空に直径10mはあるだろう火の玉が浮かび始めた。
「この魔力があれば、敵は一発さ。戦いにもならないでござる。ミーを認めるでござる」
クレハに負けた憤りか、激高し実力行使に移ってしまった。
予想はしていたが、最悪な結果だ。急いでナーガに近寄って頼んだ。
「あの火の玉を上空へ弾き飛ばす事は出来るかな?」
「上空へ弾き飛ばすだけなら、大丈夫と思うけど、マスター・テレサから魔法の使用許可が無いから無理だよ」
「緊急だから、きっと許してくれるよ」
「う~ん。…そうだね。怪我をするよりは怒られた方がマシだな」
ナーガがおでこの右の痣に手を当てて応え、詠唱の準備に入った。
「ナーガ。大丈夫ですわ。テレサにお任せなさい」
姫様にこれから何をしようとしているのかを気付かれ抑止されてしまった。こんなチートの力に対抗するには同じチートな力しか無いだろう。
って考えたが、姫様の言葉を無視する訳にいかない。
ここは準備のまま待機としよう。
「それではテレサ。どう責任を取るのかしら。必要な武具なら客車に用意してありますわよ」
「いいえ、武具でしたら自分の短剣が御座います。この度はご迷惑をおかけする運びとなり、大変申し訳ございません」
「良いのですよ。今のわたくしは、ただの『野次馬』。気兼ねする必要はありません。さぁ存分に責任を果たして下さいな」
こんな窮地なのに、姫様は愉しそうだった。
目下の者をいたぶる、というよりも、これからの催しに期待をしているって余裕な表情だった。
シスター・テレサは短剣2本を取り出してから
「では、責任を果たしましょう」
と言うや否や、短剣を斜め十字に振り切っていた。
火の玉はクロスに切り裂かれ、消えるように霧散していった。
あまりの出来事に、姫様を除いて、みんなが驚いたまま口を半開きにしていると、
「短剣で扇いだだけで消えてしまうなんて、ガッカリね」
シスター・テレサは、皮肉っぽく口に出した。
マスター・テレサは凄く強い、とは思っていたけど、いったいどんな技を切り出せば、こんな事が出来るんだ? 改めてマスター・テレサの力の底が見えない事を思い知った。
だれもが驚きに声を出せずにいる中で、この現象を満足に眺めていた姫様が口を開く。
「ござる丸。 では無かったわね。 サスケよ。クレハが見せたのは洞窟で探索する為の魔法ですよ。 サスケは洞窟ではどうするつもりだったのですか? 今の魔法を使ってロストするつもりなのですか」
ローストでロストって思い浮かんでしまったが、口にしたらクレハに揶揄られるので我慢。
口にするのは我慢はしたけど、含み笑いまでは駄目だったので、何を考えていたのかバレてしまったのだろう。何時ものように踵が落ちてきた。
「今のサスケは、大砲を抱えて、剣を構える敵と戦うようなモノ。結果は如何か、サスケなら分かるでしょう。力だけが全てでは無いのです。テレサやみんなから沢山学びなさい。これは命令です。
では、テレサ。なかなかと愉しい余興でしたわ」
「ありがたきお言葉。私には勿体なく存じます」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
姫様が去って行き、片付けを済ましてから、来た時同様に荷馬車で帰路に入った。
姫様が大砲を知っている事に驚いた。この国にはマスケット銃等無く、当然火薬というのを見た事が無い。それなのに何故大砲などと言う大型兵器を知っているのだろうか?
図書館の蔵書から、他の国には火薬はもちろん、大砲という兵器が存在しているのを学んだのかも知れない。
そう考えながら、ユラユラ揺られていた。




