138 はた迷惑な自称『勇者』
「ナーガー、頼むよ。あいつ何とかしてくれよ-」
「頼むよ。同じ『迷子』だよな。俺達じゃ、もうどうにもこうにも…」
ござる丸がやって来て3つ日が経った朝、ハン・セルが助けを求めて来た。
「ハン・セル、どうしたんだ? 何があったんだい」
驚いた声色でナーガが返事をした。
「どうしたの~。ねぶそく~?」
「寝不足にもなるさ、クレハ。リトも聞いてくれよ。『ござる丸』ってヤツは夕食後にアレだのコレだの五月蠅いんだ」
「そうそう。ガッセルの言う通り、自由時間に五月蠅くて眠れないんだよ」
「五月蠅いって、どんなの? いびきが酷いの? それとも歯軋りが響くの?」
「違うんだ、リト」
「それじゃ~、おねぞうが、わくるて、たいへんなの?」
「クレハ、寝相は大丈夫だよ。部屋は広いからね。踏まれたりしないよ」
「なぁハンス。それだったら、何に困ってるんだ? なんで俺に助けてって言うんだよ?」
「俺達の事なんて全然聞いてくれないんだ。それで、2人で話し合って、同じ『迷子』のナーガに頼むし何も出来ないって結論になったんだ」
ハンスの問い掛けたのに、ガッセルから返事が返ってきた。
話しの雰囲気から、ござる丸と喧嘩…までは発展していないが、それでも、そうとう口論に成っている様に感じた。
ガッセルは普段から言葉が少し荒い。まぁ荒いと言っても普通の少年の口調なのだが、比較的に丁寧なハンスと一緒だから、荒い様に聞こえるだけだ。
損な性格だな。
なんか気の毒に思えてきた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「少し考えさせて」
そう返事して、宿題として持ち帰ってきた。
どうやら、ござる丸がわがままを言っているらしい。
私が名付けたあだ名で呼ぶ位なのだから、相当に迷惑を被っているのは容易に想像が出来た。
その場しのぎにしか成らないけど「『迷惑な子』だから『迷子』なんだよ。そう心で考えてみよう。そうすれば少しは怒りは治まると思うんだ」と教えてみた。
社畜時代に嫌な上司への鬱憤を、言葉を換えて口にする事で、溜飲を下げてやり過ごしてきた経験だろう。悪口が直ぐ思いついたのだから、改めて思えば、私って性格悪いんだな。とプチ反省。
さてと、その「わがまま」だけど、どうやら
「この世界を平和にする為に転生したミーは、神様から選ばれた勇者!なんだ」
という事を散々聞かされているのだ。
「王様の謁見が無い!」
「武具と道具、当面の金銭は国が与えるべきだ!」
「勇者はもっと立派な宿に泊まるのが当然だ。なんで孤児院で寝泊まり、しかも手伝いまでさせられるんだ!!」
「勇者を称えるのは当然の事だ。苦しめられている民を救うのだから」
っと、まぁこんな感じで、威張っているので、数日保たずに辟易したって訳か。
まったく、勝戦国出身って、どうしてエリート意識が高いのか。
たいだい、1人で異世界転生だか転移をして来た時点で、とりあえずは『勝戦国』という後ろ盾が無い、只の平民だ。って意識が欠けているだよな。
ゲームもそうだけど、数多の物語では、異世界からやって来た人を、殆どが主人公だけど、その人を勇者とか英雄とか褒め称えるメディアの影響なのかもな。
例えば冒頭で
「あんた、変な格好だけど、どこから来たの」
「俺はココとは違う、文明が発達した世界から、神様の頼みで来ました」
「まぁ、この魔王に苦しめられている世界を助けて下さる勇者様だわ。わたしったら、なんて失礼な事をいってしまって…」
そんなやり取りが脳裏に浮かんでるのかもな。
まったく、もう!『プライド』なんて掃いて捨ててしまえば良いのに。
だいたい、トキザミ様も問題だよ。
捨て猫や捨て犬を拾ってくるみたいに『迷子』を拾ってくるなよ。先住…じゃなくって、前から暮らしている人と問題が起きたらどうするんだよ。実際、問題になっているんだけど。
あれれ、ちょっと待てよ。拾ってくる、って事は言葉は乱暴だけど、『迷子』と呼んでいる『異世界人』が捨てられている。とも言い換えられないか?
この世界に連れて来た神様が、後は面倒だからと放り投げている、そんな気がしてきた。
契約による誓約が有るのかも知れないが、、不覚にも私達をこの国の近くまで案内してくれたメフィストの方がずっと『マジ天使!』だと思えてしまった。
そもそも、『異世界人』との遭遇が多い気がする。なんかとても不自然で仕方が無い。
「そうだね。とっても不自然だけど、そんな事より、目の前の問題をなんとかしないとね。リト」
「あれ?! もしかして、また声に出してた…り、してた訳?」
「それはもう、小声でボソボソと。悪い癖だよ」
「ごめん。気をつける。…けど、クレハは普通に話して大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。お気に入りの樹の元には、わたし達だけよ。ナーガはハン・セルと組み手してるわよ。よっぽどストレスが溜まってるみたいね。何時もより激しいわよ」
確かに、ハン・セルは凄く気合いが入っていた。
ナーガは武具が無いとチートな能力が発揮できないのか、当初の動きは素人そのもので心配な所があったけど、今はマスター・テレサの『手厚いご指導』のお陰で体幹がしっかりしているので安心して見ていられる。
マスター・テレサの『手厚いご指導』は私も同じく賜っているので『容赦無い愛情』を嫌と言う程、思い知っている。武芸に関しては教えるのが一番上手いかも知れない。
「あ! そうだ! テレサに相談しよう」
「どうしてテレサなの? 面倒な事を押しつけようとか、考えてない?」
「押しつけなんて考えてないよ。ござる丸って、テレサの言う事には従ってるじゃないか」
「あ~、そっか~。面前で短剣捌きを見せつけられたからでしょうけど、テレサには服従してるわね」
頼まれた事を直ぐに他の人へ振るのはあまり良い印象は無いし、「先生に言いつけてやる~」的なお子様発想で気が引けるけ。
だけど私達は実際にお子様なのだから、自分達で解決出来ない問題は直ぐに上長へ報告する。という会社のルールに従うのが一番だろう。
時間が解決してくれる。という感じじゃ無いし、何より長引かせたらこじれるだけだ。
そう言う訳で、5人一緒にシスター・テレサへ事情を説明して、対策をお願いする事になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
相談した翌日の中後、私達6人はシスター・テレサの呼び出しで庭に集まっていた。
「サスケの使命「この世界を苦しめている邪竜を倒して平和にする」というのは立派よ。そういう人は勇者様って呼ぶのよね。勇者様はみんなと仲良くするのも大切な事なのよ」
「もちろんさ。みんなは勇者と仲良くするものさ。当然で、ござる」
うっわ~あかんわ~。
なんちゅ~自己中な考え方をしてるんだよ。それにその語尾。馴染めてないなら止めれば良いのに。
あまりの凄さに呆れて脱力してしまった。
その瞬間に『ドスン』とクレハのお得意な踵落としが直ぐにあって正気に戻った。
「みんな、しんけん、なんだよ~! だめだよ! …ま、きもちは、わかるよ」
「ごめん。気をつける」
「ミーは強い。そして既にパーティーは居る。だから働かなくても良いのでござる。直ぐにでも出発したいので、用意して欲しいでござる」
ナーガを指差しながら言い出した。
ここまで自己中だと本気で『勘当』するわ~。と、無表情のまま、心の中で精一杯ツッコミを入れた。
視線だけで見渡せば他のみんなも呆れていた。
怒られたばかりだから我慢したけど、嘲って良かったのか。と思った。
「そうですか。やはりリトの話しの通りになりましたわね。商人として先見の明があるのかしら。それとも別の何かでしょうか」
シスター・テレサの視線だけが私の見た。まるで剣を突きつけられた様な威圧を感じる。
威圧を掛けるのは私では無くて、ござる丸の方だろうに! そう言いたかったが全てを任せている以上、不満があっても傍観するしか無かった。
「それではサスケよ。『試し』をお受けなさい。本来なら姫様の御前でされるべきなのですが、私が代理を担いましょう」
「『試し』? 試しってなんだよ。どう考えてもミーの方が強いだろう、でござる」
「『試し』とは力を示す事。成人していない子が『旅人』として、『冒険者』として生きていく力を示す事。これが『試し』。サスケの年はまだ15ではないのですから、力を示しなさい!」
「力など示す必要は無いでござる。時間の無駄でござる」
「そうですか。では、みなさんと共に力を合わせて生活をするというのですね。それとも共同生活を拒みますか? それならば仕方がありません。院の規則を守れないのであれば『草の根街』、いいえサスケには『貧民街』と言った方が分かりやすいでしょうね。そちらに移って頂きましょう」
「『貧民街』だと?! お断りだ!! もう日銭を稼ぐ為に手を赤く染める気はない!!」
なるほど。「ござる」を言い忘れる程に動揺しているって事は、前の世界では相当に治安が悪い環境で生活しており、そこで正義を求めたのだろう。
想像を絶する苦境で暮らしていたのかも知れない。
悪者が肩で風を切って歩く世界を知っているからこそ、そこで虐げられている者を知っているからこそ、世界を救いたいと急いているのだろう。
口が悪いのも納得できた。
そして忍者スタイルに拘る理由。
派手なヒーローでは無く、悪を成せば跡を残さず消し去る『闇狩り』というか『仕事人』なイメージを重ねているのだろう。
『神様』とやらがそそのか…、もとい、選ぶ訳だ。
想像ではあるが生い立ちには同情する。でもな、この国にもルールがある。郷に従う必要があるのだ。さて、ござる丸はどう出るだろうか、様子を見ようじゃないか
「分かった。『試し』を受けよう。OKなら、武具や装備の一式を用意して貰うでござる。当然、判定がハッキリしたテストなのでござろうな」
「承知しました。『試し』は簡単ですよ。2つ程、力を見せて頂きましょう。
1つ目はハンスと模擬戦で勝って見せなさい。
2つ目はクレハと同じ魔法を使って見せなさい。
以上を満たせば合格としましょう。姫様に代わり責任をもって約束を果たしましょ。できますか? 怖じ気付いたのでしたら遠慮無く諦めて頂いて良いのですよ」
「そんな簡単な事でござるか。諦める訳が無いでござる」
ハン・セルは今までの鬱憤を晴らすんだ! と意気投合し気合いを入れ始めた。
「ちょっと~。まってよ~。なんであたしなの~。テレサ、ひどい~!」
「まぁまぁ、クレハちゃん。ここは協力をお願いね。孤児院で一番年少のクレハちゃんが適任なのよ」
「ああ、そっか。一番幼い子が使う魔法が使えないようじゃ、駄目だって事なんだね。でも怪我をするのが心配だけど、大丈夫?」
「大丈夫よ。魔法を見せ合うだけだから」
「ぶ~~~…」
クレハはほっぺたを膨らまして不満を訴えたけど、適任が自分しか居ないのを理解して、渋々と頷いた。
「では『試し』は明日、リトがこっそりと練習している広場で行いましょう」
おい! ちょっとまってくれ。 どうして私達のコソ練の広場を知っているんだよ?!
…って、驚いたけど、知っていて当然か。
左のおでこの痣に手を当てて、迷惑掛けた事を思い出した。




