137 迷惑な『迷子』
「いえす。ミーは『サスケ』でござる。名は捨てたでござる」
ナーガよりも背の高い少年は、まるで時代錯誤な言葉で自己紹介をした。
格好は、如何にも忍者という黒装束にフード付きの黒マントを羽織っていた。
自己紹介の時にフードをまくって先ず目についたのは、金髪が日差しで輝く中、鉢金が黒く渋く光っていたのだ。
鼻高で瞳が青く、肌白で彫りが深い顔立ちに、ナーガよりも年上なら13・4歳位で学年で言えば中学2年生だろう。
ジャパニメ(ジャパン・アニメーション)に影響されたとしか思えない成り立ちは、中二病的に憧れたキャラのコスプレをしているとしか言葉が出てこなかった。
「サスケ」と自称した事から、相当に思い入れがあるのだろうな。は分かった。
私にとって『さすけ』と云えば、真田十勇士の屈指の実力者『猿飛佐助』か、父親と2人で旅をする5つ子の内の1人の少年が思い浮かぶのだが、このギャップは年齢差によるものだし、当然に仕方が無い事だろう。
ただ1つ言わせてもらえば、その元キャラはは、キザな言い方をするから、間違っても「ござる」なんて語尾は言わない。
忍者だから? 隠密だから? だから語尾に「ござる」を付けるのは、例え海外の人だと言っても安直すぎないか?!
コスプレする位なら、名乗り方もしっかりとコピーしておけよ! って突っ込みたくて仕方が無い。
こんな勘違いなコスプレイヤーを「サスケ」と呼ぶのは、何となく癪だな。「ござる」「ござる」というのなら『ござる』と別称してやろうか。漢字なら『御猿』でもいいが、流石に大人げないよな。
それに『さすけ』つながりなら、真田十勇士の大将、真田幸村が築いた大阪城の出城の名称『真田丸』を引用して『ござる丸』なんてどうだろうか。
うん、日本武士の駆け出しっぽくって合ってるかもな。
私の名付けのはなんと素晴らしいのだろう! とか自画自賛したくなった。
もっとも、人様の勘に障る言い回しが思いつくのは、ある意味、才能だよな。悪い意味で…だけど。
「ねぇ、リト。リトったら~」
「え? なに? どうかしたのかい?」
「なによ~「なに、どうかしたのかい」って、なに、かんがえてるのよ~。また、つまらないこと、かんがえてる~」
「はいはい。その通りです~。クレハはお見通しだな」
「おみとおし、ってほめてくれるの、うれしい。でも、いまは、かわった、じこしょうかいだよ~。なにボーッとしているの」
「別に褒めてないけど。って、あれれ? 「変わった自己紹介」してるって言ったけど、『ござる丸』が変わっているのは見ての通りだけど、これ以上に変わってる事ってあるのかな?」
「『ござる丸』? ああ、ごびに「ござる」っていう子のことなんだね。へんな、あだな、つけるのはとくいだね」
溜め息まじえて返す言葉は、どう考えても呆れているとしか思えなかった。
「はいはい、ごめんなよ」
「ネクスツ、ユーはハンセル。将来は国を守る兵士希望か。これからよろしく」
「ネクスツ、ユーはガッセル。ハンスト同じく兵士希望か。これからよろしく」
「すごいや。何も言わないのに名前わかるんだ」
「すごいよ。何で希望している事もわかるんだ」
順番として何度も見てきているだろうが、自分の番だとやっぱり驚いてしまうのだろう。ハン・セルが驚きを隠せないていた。
ござる丸は、自分の能力をアピールするのを兼ねて、名前当てと将来の希望を言い当てをしていたのだ。
ただ、本人の目を見ているのではなくって、斜め下というか、まるで空中に浮かんだタブレットと操作している様に見えるのは、気のせいだろうか?
そういえば、
「なぁクレハ。アリアは何て言ったんだい」
「アリアがどうしたの?」
「アリアの将来の希望は何だったんだろうなって」
「へ~、にぶいリトも気になるんだね~」
クレハがからかう様な、口元が吊り上がった様な意地悪な笑顔していた。
この後、どんな風にからかわれるのが分かったので、話しをナーガへ振った。
「ねぇ、ナーガ。アリアの時はなんて言っていたの? 覚えてる?」
「…あ、ごめん、リト。なんて言ったんだい。聞いてなかったよ」
上の空なのはナーガも一緒だった。
「あれれ? ナーガが考え事って、珍しいね。どうかしたの?」
「リトは知ってるかな? 相手を見ただけで分かる能力って」
「占い? 霊感? それとも予知能力の事?」
「いや、そうじゃなくって、相手のステータスが分かる能力の事なんだけど…やっぱりリトは知らないのか」
ステータス…か。
この1つ年の生活で、この世界がゲームでも何でも無い『現実』というのは理解している筈だけど、ナーガの言葉は相変わらずゲーム用語が多い。
ゲームに興味があるお年頃なのだから、流石に仕方が無いのだろう。
「あのね、鑑定眼っていうのなら知ってるよ。家族が「鑑定眼があると、目利きが強いから商売していると欲しい能力だ」って、言ってたから」
「そうなんだよ。鑑定眼だよ。相手の強さとか特殊能力とか分かれば、有利に戦闘出来るんだよな。うらやましいよ」
そうか。ナーガが賜った『3柱の祝福』に鑑定する能力は無かった気がする。ただ見るだけの能力だから地味だけど、今までの生活…そういえば狩りの体験をした頃から必要に感じたのだろう。
羨ましく思うのも当然なんだろうな。
なんの能力も与えられなかった私達にとっては、諦めている感情ではあるけども。
「ミーもパン屋の生まれだけど、パンを焼くのは大変。マリーもアルも頑張れよ」
「ありがとう。頑張って美味しいパンをいっぱい作って、姫様に喜んで貰うんだ」
「そうですか。パン屋の生まれなのですね。分からない事があったら教えて下さいな」
ござる丸の応援に、アルキメドとマリアベルが嬉しそうに応えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
とうとう、私達の番になった。
「ノブ? ナーガ? なんだんだ?バグか? 文字が重なって読めないぞ」
今まで高い鼻をより高くした口調が、ここに来てくぐもってしまった。
名前や将来の目標を焦点に鑑定していたのなら、私がコロコロと方向性を変えてしまった影響が出ているのかもしれない。
助け船を出すつもりで私の方から言葉を掛けようと思った。
「なす、と、みーとー。ボーイネーム、ナーガ・レナウ。マイファミリー。マイネーム、リト・レナウ。あんど、ガールネーム、クレハ・レナウ。れがーず、ふろむ、なう」
当然『共通言語』な能力は有るのだろうが、ござる丸の風体に萎縮してしまったのか、英語もどきを棒読みしてしまった。
恥ずかしく思ったが、きっと自動翻訳されて普通に聞こえているさ。そんな考えも有り開き直る事にしたのだが、唯一気が付いたクレハが足下でクスクスと笑ってた。
「海外の人だからって緊張するなんて、リトって可愛いわね~」
と、小声な日本語を口にしていた。コレを聞いた瞬間、顔が真っ赤になってしまった。
そうだった。クレハには翻訳無く聞こえるんだった。当然、言葉の意味も分かる。流石にコレは恥ずかしいと後悔したが、今更だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「リトと言ったな。 貴様は何者だ!! でござる!」
ござる丸が、私に指を突きつけ叫んだ。
突然、名指しで恫喝されてしまった訳だけど、社畜精神のお陰なのだろうか、別に動じる事は無かった。クレーム案件の第一声が恫喝に近い怒った言い回しなのだ。こう云った状況には慣れていた。
「あの~。ごめんなさい。僕が何か失礼な事を言ってしまいましたでしょうか?」
タンタンと冷静に応えた。何より怒りの勘所が知りたい。慌ててしまっては聞く事もままならないからだ。
「しらばっくれても無駄だ。ミーの目にはステータスが見えるんだ。リト…、ノンノン、悪魔の使徒のリト。勇者ノウナーガを堕天させて何が目的だ!」
「あ、悪魔の使いってなんだ…ですか? 僕はただの商人の子供です。訳あって孤児院にお世話になっています。ござる…サスケの言いたい事、分かりません。ごめんなさい」
「この万華鏡の瞳に分からない事なんて無いんだ。白々し嘘をついても無駄だ」
『万華鏡』とか言っちゃったよ。ジャパニメを愛好してくれるのは嬉しいし、こんな状況じゃ無ければナーガを通して色々と親睦を深めたい気分だ。
だがしかし、今はそんな悠長な状況じゃ無いし、なにより、あの鑑定眼は何処まで見えているんだ?
ナーガの本名があやふやなのは、それなりなのだろう。
しかしメフィストと、悪魔との契約を交わした私を『悪魔の使徒』と呼ぶのは間違っていない。
このまま否定的な態度を続けると、知られたくない事を衆目にばらされてしまうだろう。これは避けたい。どうしたら良いのだ?
「みんな~。遅くなってごめんなさいね。お祝いの買い物を選んでたの」
シスター・テレサがそっと門をくぐって来た。
「おかえり~。シスタ-・テレサ~」
「おかえりー」
クレハの挨拶を筆頭にみんなが挨拶をしたのだが、私はそれどころでは無い。ござる丸の出方に注意していたからだ。
見透かされた相手と対峙するというのは、何かと難しい事だ。まるで手札がバレているポーカーをしている様でならない。
そんな不利な状況で出方をうかがっていると、突然に
「そうか。分かった。ミーのファーストクエストは、この国に潜む悪魔の退治だったのか。覚悟しろ悪魔の使徒!」
このヤロー。なに自己完結してんだよ! エンカウント即バトルとか、ゲームじゃ無いんだぞこの世界は!!
ござる丸は、息を深く吸い込み攻撃態勢を取り始めた。
攻撃するなら『爆炎球』が『業火炎』なのは間違いない筈だ。
巻き添えにならない様に、ナーガとクレハからゆっくり離れていると、ござる丸は私の方向だけを見つめていた。不幸中の幸いというか、どうやら狙いは私だけの様だ。
最悪の事態にならない様、ゆっくりとみんなから離れなくては。
攻撃の影響を最小に治めるにはどうしたら良いのか。魔法で対抗したら良いのだろうか? いや、魔法はマスター・テレサから禁止されてるし、仮に禁を破って使ったとしても、私程度の魔力ではどうする事も出来ないだろう。
そう考えながら逃げていたのだが、とうとう時間切れになった。
ござる丸が息を吸うのを止め、吐き出す準備が整ったのだ。
「ミーの力で灰となれ! 業火え…」
もう駄目だ。終わった…。 そう諦めた瞬間に、
< ダン! >
と、黒い影がござる丸の背中を叩き、詠唱? が中断された。
叩かれた勢いで、
< ボン! >
と顔の前で爆発した為か、ござる丸の顔は煤で黒くなっていた。
「あらあら、お腹が空いていたのね。遅くなってごめんなさいね」
そう言いながら、シスター・テレサは何事も無かった様に、ござる丸の顔を拭っていた。
って、ちょっとまてよ? 門からここまで50mは有るぞ。そんな距離を足音立てず、疾風の如く駆け寄ってくるなんて、出来るのか? 風の魔法を使ったとしても、何かしらの跡は残る筈なのに、何も見当たらなかった。
まるで自己紹介の間、シスター・テレサがずっとござる丸の傍に居たかのような振る舞いに唖然としてしまった。
謎は残るが、とにかく無事に済んで良かったと、膝の力が抜けて崩れ落ちてしまった。
安堵の為か、恥ずかしくも、後の事は殆ど覚えていなかった。
部屋に戻ってから、ナーガとクレハが寸劇を交えて教えてくれたのだが、
「お腹が空いていたのね。遅くなってごめんなさいね。取り急ぎコレで我慢してね」
そう言って、テレサが篭からリンゴを取り出すと、軽く放り上げたまま、自前の短剣で綺麗に切り分ける。という芸当を見せたとの事。
漫画ではよく見かけるシーンかも知れないが、実際に目の当たりにした2人にとっては歓喜だったに違いない。
「ユーが居るのなら、心配ないな」
そう言ったらしい。
そしてその後に、テレサがこれから寝泊まりするハン・セルの部屋へ案内したのだそうだ。




