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裏:第三話 領地と貴族とユニコーン

 盛大な見送りを受けて二週間程滞在していた領地を離れた俺は徐々に速度を上げながらここにいた間の事を思い出していた。



 俺がフィノと一緒に旅をするようになって何日か経った。フィノは神の使いとして世界を廻る旅をしている女の子で偶然出会って以来、俺の背中にしがみついて離れない困った奴だ……うん、言ってて空しくなってきた。

 事故で死んだ後何故かユニコーンの姿で異世界に転生した俺はフィノの手助けをする事で人間に戻れると神から直々に伝えられた。なので今はフィノの乗り物として絶賛活躍中である。野外の旅が辛いのは俺だって同じだから動物避けの結界を張ったりすると物凄く喜ばれて気分がいい。思えば生前こんなに女の子からチヤホヤされたことなかったなぁ……そんな思いを馳せながら歩いていると彼女の愚痴も聞こえてくる。


『大丈夫か? 何なら俺がチューでもしてやるぜ』

「あー……ごめんねユーマ。ちょっと愚痴っただけだから」


 どうせ俺の言葉は通じてないからこんなアホみたいな台詞だって堂々と言える。受け答えがちぐはぐだけどそんなの別に大した問題じゃない。フィノは物凄く心の広いいい子だから俺が慰めてるってことは伝わったんだろう。それで十分だ……その時、俺のユニコーンイヤーが聞き捨てならない言葉を拾い上げた。


「街に着いたら水浴びしたいなぁ」


 何だと……! 水浴びとかエロイベントの定番じゃねーか! 早速俺のユニコーンとしての記憶からこの辺りの土地の詳細を探ると、お誂(あつら)え向きに近くに泉があるという。野外での水浴びというロマン溢れる展開を求めて目的地へと定めた。フィノが戸惑ってるけどこの際無視だ。

 現場に着いたら記憶より濁ってたけどそこはユニコーンの俺、ささっと浄化したらフィノの尊敬の目が心地いい。あと抱き着かれた感触。やっぱ柔らかい……


「じゃ、ヴェルト様は私がいいと言うまで見ないでくださいね。ユーマは見張りよろしく」


 現実はそう上手くいかなかった。まぁ、見張りはいるよなぁ……だがこの程度で諦める俺じゃない! 一旦離れたように見せかけ戻ってくることで水浴びイベントをじっくり堪能するのだ! こういうのはシチュエーションも大事だからな。

 ……そろそろいいかな。少し間を置いて泉へ向かおうとしたその時だった。


「こんなところにどうしてこんな馬が……」


 背後から突然男の声が聞こえてきた。振り返るとそこに立っていたのは金髪イケメン野郎で、なんか俺の事をじろじろ見てくる。見てるだけでムカついてくるくらいイケメンだ。


『寄るな!』


 威嚇(いかく)で大きくいななくと一瞬動きを止めたイケメンだったが立ち去ろうとせず、逆にじりじりとこちらへ忍び寄ってくる。やめろよ、人間ぶっ飛ばしたら俺がフィノに幻滅されるじゃねぇか。本能で蹴り飛ばしたくなるのを何とか堪えて向きを変えて俺は逃げ出した。それなのに……


『追ってくるんじゃねぇ!!』

「逃がさない!」


 血走った目で全力疾走で追いかけてくるイケメンがいた。平原ならとっくに引き離しているのに繁みに覆われた場所じゃ速度が出せずイケメンが変わらず追いかけてくる。とにかく走っていると繁みが途切れて泉と、フィノの姿が現れた。……何だ、ほとんど服着てるし。前閉じてるし。期待外れとガックリする俺の背後からイケメンがやってきてフィノの悲鳴が辺りに響き渡った。


…………


 俺の頭の上でイケメンの謝罪と言い訳が延々続く。イケメンは貴族だという話だがまじで勝ち組だろ……天は二物を与えずなんて言うけど、まぁあのへっぽこな神が上手くバランス取れる訳ないかとある意味妙な信頼があるので納得してしまった。そして気が付いたらフィノが丸め込まれてお持ち帰りされる事になっている。こいつ死なねーかなー……とりあえず俺が欲しいとか言い出したので薙ぎ倒しておいた。ざまぁ!

 その後は頭上で交わされる二人の会話をひたすら聞くだけだった。何でこいつあんな出会いしておいてこんなに仲良く会話してもらえるんだよ……俺が人間の時同じ事やったらどうなるか、半径十メートル以内に近寄るなとか言われそうだ。所詮は顔か! 畜生フィノはそういうビッチ共とは違うと信じてたのに……!

 心の中で血の涙を流す俺の事なんて気づかないまま二人の会話は屋敷へ辿り着くまで続けられて、俺は当然馬小屋に連れていかれた。物凄く嫌だけど馬の身体じゃ無理は言えない、大人しく過ごしていたその時だった。


「まさか……ユニコーンが……」


 声がして顔を上げたらメイド服を着た女の子が俺を見て驚いていた。黒髪で肩よりちょっと短いくらいの大人しそうな美少女だ。メイド美少女は俺の側に駆け寄って首や背中を撫で始めるとうっとりしたような表情で独り言を呟いている。フィノ以外に俺の正体に気付いた人間はこの子が初めてで嬉しくなってついこっちからもすり寄っていく。拒否されない事の素晴らしさを実感していたら覚えのある気配を感じて……フィノがいるし。


「このような所へ何の御用でしょうか」

「あっ、その馬、私の馬なのでちょっと様子を見ようかなって……」

「……そうですか、立派なものをお持ちなんですね」


 何だこの空気。メイドちゃんの笑顔はどこへ消えた。フィノも顔が引いてるし、仲良くしたら駄目な感じだったのだろうか。何をしたか問い詰められてちょっと気まずくて思わず顔を逸らしてしまった。


≪弁明があるのなら伝えてやろう≫

『何もやましいことしてねーよ! ……ちょっと撫でられて気持ちよかっただけです、はい』


 まるで俺がやらかしたみたいに言ってくるのでつい突っ込んだ。俺は悪くない。幸いそれ以上追及されなかったので素知らぬ顔でいると帰って行った。……いいなぁ金持ちの家で過ごせて。俺も早く人間になりたい……


…………


 馬小屋生活二日目、この身体だと暇を潰せるような事もできないのでひたすら寝ているだけだ。目を覚ましたら昨日のメイドちゃんが俺の世話をしてくれていた。たてがみを櫛で丁寧に梳かしてくれている。フィノより上手だなぁ……目を閉じて気持ちよさにうとうとしているとその手が止まった。またフィノだった。どうやらこの子はフィノが苦手らしい。


「あの、そんなに怯えなくてもいいんで……」

「私に責め苦を与えて脅し、神の実在を大旦那様に証言させるつもりではないのですか?」

「そんなことしませんから!」


 逆にフィノの方はメイドちゃん……ラウラに興味津々なのか部屋へ連れ込もうとする。密室で何をするつもりなんだ俺にも見せろ!

 俺の訴えは無かった事にされて二人で消えていった。


『おーい、あの二人何やってるんだ?』


 なので様子を知っているだろう神に尋ねてみる。


≪遥があの娘を口説き落とした≫

『何だよそれ超見てぇ』

≪遥が娘の手を取り囁き掛けた事で渋々頷いたように見える≫

『まじか……』


 神の使いだからフィノは男がいないもんだと思ってたけど、まさかそっちの趣味だったなんて……いいんじゃね? 相手が男でさえなけりゃ俺が近寄れなくなる事はないし、反対する理由は無い。今度は是非俺の前でイチャイチャしてほしいもんだ。ただ今日でここを出る予定だからもうそんな機会はないだろうなぁ……。

 だというのに出発を待っていたら何故か俺は外へ引っ張り出されイケメン野郎の罵声を浴びながら訓練を受ける事になっていた。


「ごめんね、私ユーマと一緒に馬術勝負に出る事になっちゃった」


 フィノから簡単に説明があったけどどうしてそうなってるのかさっぱり分からない。フィノはすぐにイケメンから指導されていてとても事情を聞く余裕がなさそうだ。となると……


『説明してくれ』

≪遥がこの地の代表として競う事となった。敗北すればこの地の者が他より圧力を掛けられるらしい≫

『だから何でそれでフィノが代表に?』

≪神の加護を得た者なら簡単に勝利できるであろうと屋敷の主より問われ、それに応えた≫


 つまりこれも布教の一環で、勝てば俺が人間に戻るのにまた一歩近づくと。だったらこの特訓もそれの為にってのは納得した。したけどそれとこれとは別だ。


「往復十週はじめ!」

「はい!」


 あの野郎が命令してくるのはどうにもこうにも腹が立つ。なので、やっちまった。

 最後と聞いてイライラ解消にちょっと全力で走るだけのつもりだったんだ。一旦走り出したら夢中になって気が付いたら見た事も無い場所にいた。フィノを振り落とさなかった事だけは気を遣ってたと思う。


≪申し開きはあるか≫

『……ムシャクシャしてやった。今は反省している』


 流石にこれでもやり過ぎたと思ってるので気まずくて目を逸らすと許してくれた。その懐の広さに精神的にも物理的にも甘えつつも、迷子の現状は変わりないので早く帰らなきゃいけない。そんな俺達の元に救世主が現れた。

 典型的なお嬢様って感じの女の子。縦ロールが動く度にふわふわ揺れて俺達の隣に並んで馬を歩かせてきた。どうやら道案内をしてくれるらしく見た目はいかにもきつそうなのに意外と親切な彼女に甘えて帰宅の目途が立った事にこっそり安堵の息を吐いた。女の子二人は俺の頭上で話が弾んでいるようで、その内俺の話題になって出会った時の状況を思い出す。

 あの時フィノがいなかったら……俺は自分がユニコーンなのにも気付かず、神の存在も知らず、ただの馬として生きるしかなかっただろう。馬なのは変わらないけど少なくとも今は「人間に戻れる」という希望が持てる。何も知らないままよりずっといい。


『あれは運命の出会いってことか……』


 あの時出会ったのがフィノでよかった、しみじみと実感していたので話を聞いてなかったのは仕方ない。屋敷に着いたらイケメン野郎が待ち構えていて怒られた。解せぬ。

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