裏:第四話 領地と貴族とユニコーン2
女ってのはこっちの都合なんて考えてくれない、彼女持ちの友達がよく言ってたことだ。
そして今俺はその言葉が正しかったと実感している。
「ね? お願い。頑張ってくれる?」
夜中突然やって来たフィノは、昼間散々走り回った俺に夜通し走れと言う。何でそんな事をと思ったけど甘えた声で頼み込まれたら嫌とは言えない。そう言えば友達も何だかんだ言いつつ楽しそうだったな……。
俺が了承の合図を送るとあっさりしたものでさっさと準備を整えて背中に乗り込まれた。……はぁ、全くしょうがねぇなぁ。表情は作れないけど気分だけ苦笑して頼まれた事を試してみる。
『身体の周囲に結界ね……漫画とかアニメでよくある感じにすりゃあいいのかな』
ユニコーンの記憶にはそういう使い方が無かったので昔見た創作物を参考にイメージしてみる、するとあっさり成功した。結界ってイメージ次第で割と何でもできるもんなんだな……これは鍛えたらもっと便利になるかも? ユニコーンの無限の可能性を感じながら夜の道を駆けていった。
…………
「やっと着いた……」
目的地に辿り着くと何故かフィノに恨みがましい目で見られた。何でだ。
とりあえず言われるままに走ったけどこんな朝っぱらから何の用で平原に来たのか分からない。
『なぁ、何しにここへ来たんだ?』
≪さて。我も知らぬ事≫
相変わらずの当てにならなさを発揮する神だけど俺の聞きたい事は代わりにちゃんと質問してくれた。ドヤ顔のフィノ曰く、昨日の縦ロールちゃんに会ってそこの領主と面会の約束を取り付けたいらしい。何をする気か気になってもどうせ俺は人間同士の会話じゃ蚊帳の外。布教のあれこれは全部フィノに任せて俺はのんびりしてるかな……草地に座り込むとフィノまで寄りかかってきたのでじんわりと体温を感じつつ朝寝を楽しんだ。その後、脳内にブツブツ聞こえてくるまで。
『うるせぇ! さっきから語りかけてくんな!』
≪遥が目覚めぬ。我の声では足りぬ故汝に任せる≫
長い首を曲げて見て見ると区とを半開きにして眠りこけているフィノが全身で俺にもたれ掛かっている。完全に爆睡状態だ。これ、何しても起きないんじゃね? ちょっとイタズラ心を起こして立ち上がったら支えを失ったフィノは勢いよく倒れ込んで強制的に目覚めざるを得なかった。惜しい。
その後はお目当ての縦ロールちゃんが現れて何やら約束をしている。隅で半分寝ながら二人の会話を探るとどうやら俺はまたここへ来なくちゃいけないようだ。やれやれ、しょうがないなと溜息を吐いてフィノの手綱捌きに従って屋敷への道を急いだ。……今日もいるのかよイケメンめ!
…………
それからは特に何事もなく何日かが過ぎ、イケメン野郎の特訓が段々エスカレートしてきたのに危機感を覚え始めた頃に例の約束の日になった。
「じゃあユーマ、この前のところまでお願い」
すっかり乗馬に慣れたフィノを背に乗せ走り出した。今日は休憩もあったので昼前には目的地に到着し大して待たない内に例の縦ロールちゃんが現れた。初対面の時はもっと和やかだったのにただでさえキツイ目で睨んでくるので空気が重い。
こういう時はその場にいないで見てるだけの神ポジションが羨ましくなる。無駄に深刻な空気の中いかにもな屋敷に案内されたフィノを見送り俺はin馬小屋。しばらくしてフィノが戻ってきたので屋敷を出たはいいものの、様子がおかしい。
「……はぁ」
明らかに凹んでいる。ここまで落ち込んだ状態何て初めて見たから何て声を掛けたらいいかわからない。
「やっぱり私一人で人の意識を変えるなんて無理なんじゃ……」
『おい、どうしたんだよこれ』
≪交渉が決裂したらしい≫
『それだけで?』
何の話があったか俺は知らない。けどこんなに落ち込むようなら致命的な事だったのか。女の子を慰めるには話を聞いて共感し相槌を打つのが大事だそうだけど今の俺じゃギャグにしかならねぇ。
『おい』
俺が意を決して語り掛けると天から返事があった。悔しいけどフィノを慰める役は喋れない俺じゃ難しい。今回はその役を譲ってやろう、いくら空気読めなくてもそれくらいはできるだろう。
『フィノが弱ってるのどうにかしてやれよ』
≪どうにか、とは≫
『とりあえず出来ない事は無理にしなくていい、って言ってやるとか』
≪……成程≫
これでよし、そう思ってたんだ。なのにフィノがキレた。
「ちょっと何言ってるかわからないんですけど?」
「絶対駄目です!」
「や・め・て・く・だ・さ・い!」
どうしてこうなった。神がフィノにどう伝えているか分からないって事がこんなに不安になるとは思わなかったぞ。頭上の会話にハラハラしてると最終的にフィノが脱力して終了した。……確かに凹み状態から復活してるけど予想と違う。生前は女心が分かってないとか言われた俺だけど自分以上に駄目な奴を見て、しかもそれが神という存在であることに妙な安心を覚えたのだった。
…………
いやぁこの三日間は楽しかった。うるさいイケメンがいなくてのびのびと走り回っていられて気分がいい。これなら勝負とやらも楽勝で終わるだろう、そう思っていた時期が俺にもありました。
半ば逃避しかけてぼんやり目の前の光景を眺める。もう何度思ったかわからない「どうしてこうなった」が頭の中で繰り返される。ただ走ってただけの俺が何でこんな目に? 疑問に思っても誰も答えてくれなかった。
『おいおい……何だよこれ……』
赤々と燃える平原を前に独り言のように呟いて周囲を見渡せばさっきまでの俺の様にフィノが呆然としている。頬を一舐めすると正気に戻って考え込み、その直後突然声を上げた。その変わりように俺の方が驚いた。戸惑う俺の背中に乗り込むと目の前の火の壁を飛び越えろと無茶ぶりかましてくる。
『え? できるけど俺だって怖いんだけど?』
そんな訴えは全く通じず空気を読んでやるしかなかった。
「オクタヴィア! 大丈夫!?」
無茶ぶりに応えた俺の事は即座にスルーで倒れている縦ロールちゃんの介抱に必死なフィノ。あの、俺もちょっと腹焦げたんだけど……目で訴えても気づかれないのが切ない。まぁ意識がない人間が優先なのは当然か。前に見た癒しの光が発動すると縦ロールちゃんがようやく目を覚ました。
「貴女どこを触って……」
「お願い、じっとして」
「待って! そんな」
途端始まった百合的空間に目が釘付けになったのは、うん。男なら仕方ない。そこから俵担ぎのフィノに目が点になったのも仕方ない。……あれぇ? フィノって実はめちゃ怪力……?
女の子二人分の重さを背に感じながら俺は脳内で突っ込みをするしかなかった。
そこからは外野で見てた奴らから何が起こったのかを知る事ができた。あの光は雷で、それが原因の火事が広がりつつあり何とか火を消そうと四苦八苦している状況だ。現場がパニックに近い中、スッと前に出る人影があった。フィノだ。
「こういう時こそ、神に祈り助けを求めるべきです!」
……成程! 混乱に付け込んで布教するのか! 頭いいな、言葉だけなら説得力はイマイチだけど騒ぎの中一人落ち着いて堂々と立つフィノは思わず従ってしまいそうな雰囲気があった。こうなるとボロボロになった服さえ逆にかっこよく見えてくるから不思議なものだ。呪文っぽいのを唱えたらちょっと間が空いて火が消えていく。初めて見る神の使いらしい奇跡のような光景に目が離せなかった。
『すげーな……神様もやるじゃん』
≪我は知らぬが≫
『は?』
何言ってんのこいつ。真っ先に思ったのはそれだ。神じゃなければ他に誰があんなことできるんだ。
『じゃ、誰が?』
≪あれは……火の精霊であろう≫
どうせわかんねーだろと思ってたらあっさり解答されて少し面食らってしまった。知ってるならはよ言えと。しかし火の精霊と聞いて納得はいった。神がいる世界だ、それくらいはいてもおかしくない。フィノは聖職者と火の魔法使いってところか……珍しいタイプだな。そんな事を考えているといつの間にかフィノがいなくなっていて、辺りを見回そうとしたその時だった。
『……ひえっ』
急に強い気配が立ち込める。特に角で反応しそのせいで人間でも動物でもない何かの存在に気付いてしまった。恐る恐る遠くを確認するとまるで山のような巨体が視界に入る。あれは間違いなくドラゴンだ。
『神にユニコーンに精霊ときて、ドラゴンもかよっ!』
そりゃいてもおかしくない、むしろ定番だけどさ! だからってこんな時に出るこたねーだろ!
話も通じないタイプだったらと思うとめちゃめちゃ怖い。でもフィノが食われたりしたら俺の今後は詰み確定だから何が何でも守らないと。無理矢理勇気を振り絞ってフィノの隣に立った。
そこからはドラゴンが語る昔話を聞いたが感想としてはフィノと全く同じ。何せこの場にいる他の面子が神とドラゴンじゃ人間の意識を持った俺らが共感できる訳がない。暴れたのがここだけじゃ亡いって言うんだから迷惑な話だ。ちょっとの足踏みで地震とかファンタジー生物ってやばい。
……しかし俺もどうせならドラゴン転生の方がよかったなぁ。神とフィノとドラゴンの会話を眺めながら思った。言ってることは理解できても喋れないのがこんなに辛いと思わなかった、疎外感が半端ない。せめてテレパシー的なものでも使えたらフィノと直接やりとりできるんだけど。
「ひ、ひゃっ」
その場の話が終わったのを知ったのはフィノの小さな悲鳴が聞こえてからだった。この時のドラゴンの目付きは覚えがある。あれは、エロいこと考えてる時の目だ!
案の定子作り要請とかしてきやがった。瞬間ユニコーンとしての本能と俺自身の怒りでカッとなって
身体が勝手に前に出ていた。
『ふざけんな! 俺が先に目付けてたんだぞ!』
「下位の幻獣が我に歯向かうか」
『うるせぇエロ竜が!』
睨み合っていたのをフィノの仲裁でどうにか矛を収めるけどまだ警戒は解く気はない。フィノがこいつにヤられるくらいなら刺し違えてでも……俺の悲痛な決意はドラゴン自身に相手にされてなかった。
それ抜きにしてもこいつは腹立つ。今まで女の信者とっかえひっかえかよ……こんな奴に絶対フィノをとられてたまるか!
嫌な捨て台詞を起こしたドラゴンを見送り、あいつに触られた部分の浄化をしながら一人決意を新たにした。
…………
それからはフィノの独壇場だ。
当然のような顔で土地を癒していく様子は何というか、神々しいとか神秘的とか、俺の語彙じゃ表現しきれないけどすごくきれいだった。舞台裏を知ってる俺でもそう思うくらいだから初めて見る人間なんてどう感じる事やら。最初にインパクトのある光景を見せつけて丸め込む手法は洗脳っぽいけどそういう奴らに向けた話で「神の裁き」やら聞いてて吹き出しそうになってしまった。まるっきり怪しいセミナーだ。
『全部あんたのやらかしになってるけどいいのか?』
≪遥がそうするべきと判断したからこそであろう、我は全てを任せている≫
『へー。フィノには寛大だよな』
ボケてるとまで言われても腹を立ててる様子はない。フィノ相手だと気に掛けているのがよく分かるし、それ以外に対しての違いはなんなのか。
≪遥は特別だ≫
『は?』
≪全てを失いかけた我と世界にとっての唯一、他と同一には出来ぬ≫
それ以上は何となく聞きづらくて会話が途絶えた。想像以上の入れ込み具合にフィノに不用意に関わればどうなるのか空恐ろしくなってくる。その内目の前でイケメンと縦ロールちゃんが青春しだしておっさん二人に絡まれてやたら大変だった一日が終わった。
…………
「ユーマもお疲れ様。今回はちょっと無理させちゃったことも多いけどこれからも頼りにしてるからね」
代わり映えのしない平原を走りながらフィノが労ってくる。貴族のゴタゴタに関わって随分時間を費やしたけど結局布教は成功したんだろうか。俺が人間に戻れるようになったのか。
≪未だ指先一つ作るにも足りぬ≫
『うへぇ……一体何年掛かるんだ』
≪それは遥と汝次第としか言えぬ≫
どうやら全然足りてないらしい。こんなに苦労するなら人間になる時には超イケメンにでもしてもらわなきゃ割に合わない。
≪望むならどのような姿にでも≫
確約も取れたしいつかのその日を目指して俺達の旅はまだまだ続く。美少女ハーレム目指して!




