老ノ坂峠
明智光秀は悩んでいた。
「右へ行けば西国。ここを進めば秀吉と共に毛利を攻める事になる。この事自体問題は無い。殿の命令に従うまでの話。いつもと変わらぬ。ただ左へ行けばそこには……。」
織田信長が眠っている。
「殿から受けた御恩は計り知れぬものがある。何者でも無かった私が国持の大名になれたのは全て殿のおかげ。これは今も変わらぬ。しかし此度の件はどうにも我慢ならぬ。今回、殿は出雲と石見を私に与えると仰った。この事に異論は無い。ただ当地はまだ毛利領。要は働き次第。しかしこれに付いても問題無い。ただ……。」
坂本と福知山は接収される。
「これまで私は坂本と福知山を手塩に掛けて育てて来た。ここまで発展させた場所を私は失いたくはない。織田の仕組みは知っている。土地はあくまで預かり物である事を。ただこの仕組みに慣れる事が出来ない。
不満は他にもある。四国の事だ。殿は四国は長宗我部に任せると仰って来た。しかしこれも覆されてしまった。三好の存在だ。此度の毛利攻めにおいて三好の持つ水軍は大いに働かれた。この事は認める。ただ問題なのは……。」
三好も四国に本拠を置き、長宗我部と戦っていた事。
「殿は調整を余儀なくされた。これもまた仕方の無い事である。ただ問題なのは、その裁定結果にある。殿は長宗我部に対し、
『三好から奪った阿波北部から北の返還を要求。』
長宗我部からしたら、とても呑める条件では無かった。交渉は当然決裂。これを受け殿は長宗我部討伐を決断。今まさに大船団が四国へ渡ろうとしている。そうなれば長宗我部は滅亡。その長宗我部との取次ぎをしていたのは私……。」
これまでの働きはいったいなんであったのだろうか?
「織田家には不安もある。それは……。」
佐久間信盛や林通勝の追放。
「佐久間に付いては職務の怠慢。林に付いてはかつての謀反を咎められての処断であった。皆はどう思っているかわからないが……。」
いづれ私も同じ目に遭うのでは無いか?
「佐久間と林の領域は全て信忠様の物となった。此度の坂本と福知山の接収も……。そう勘ぐりたくもなる。今、京は丸腰。殿を討つなら今しかない。」
そこへ……。
「おぉ光秀!そこにおったか!!」
の声が。
「殿!?」
織田信長「良い表情だ。思っていた通りだ。わしはその顔を見るのが楽しみで1日早く京を出た。しかし其方は律義者よの。日が昇ってからでも問題無かったであろうに。」
明智光秀「(しまった……。)」
家臣の斎藤利三が……既に京に入ってしまっている。




