苦虫を
その頃、織田信長は逢坂関を通過中……。
織田信長「利三の顔見たか?」
森蘭丸「えぇ。」
織田信長「先に京に入ったよな?」
森蘭丸「はい。私を見るなり怪訝な表情を浮かべていました。」
織田信長「その時はまだ?」
森蘭丸「はい。殿と合流している事は伝えていません。一通り洛中の様子を聞いた後、」
『京を鎮めていただきありがとうございます。もうすぐ殿がお戻りになられます。』
と。」
織田信長「どうであった?」
森蘭丸「舌打ちをされていました。」
織田信長「わしを見るなり奴は……。」
苦虫を噛み潰したような顔をしておったな?
森蘭丸「御自身が仕出かした事を後悔されているのでありましょう?」
織田信長「しかしわしは教育を誤った?」
森蘭丸「と言われますと?」
織田信長「……信忠の事だ。」
森蘭丸「村井様の使いから
『立派な最期で。』
と聞いていますが。」
織田信長「それが間違いだ!」
森蘭丸「と言われますと?」
織田信長「いくさにおいて大事なのは勝ち負けでは無い。勿論勝つに越した事は無いが、いくさは常に勝てるわけでは無い。此度のようにどうする事も出来ない状況に追い込まれる可能性もある。そこで大事なのは……。」
大将が生き延びる事。
織田信長「今川との戦いで、わしは2つの砦を見殺しにした。何も手立てを講じる事が出来なかった。これに義元は満足。悠々兵を引き上げていた。もしこのまま奴を駿河に帰したら、織田は内側から崩れる事を確信しての行動だ。ただそこでわしは……。」
今川義元を討ち取る事に成功した。
織田信長「敵方の主力は尾張南部で健在。うちが戦って勝てる相手では無い。しかし奴らは兵を退いた。その後の今川がどうなったか其方も知っておろう?」
森蘭丸「はい。」
織田信長「逆の例が武田勝頼。奴は長篠で家康に敗れた。そこで信玄以来の多くの家臣。それも指揮系統を司る事が出来る者を失った。しかしその後、武田は7年命脈を保った。そればかりか上野をほぼ制圧する等権益の拡大にも成功している。それが出来たのは偏に……。」
当主が生きていたから。
織田信長「もし信忠が生きていたら、わしは危険を冒して光秀の管轄地を通過するような真似はせぬ。猿の所へ走り、美濃へ戻った信忠と東西から光秀を討ち果たす。しかし今、それは出来ぬ。美濃尾張に付いてもわしの家臣では無く、信忠のそれである。すぐに動かせる状況には無い。故に今は光秀を泳がせる。」
森蘭丸「はい。」
織田信長「ここからは光秀の本貫地。油断せず進むぞ。」
森蘭丸「わかりました。」




