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辿る未来は借り物頼み  作者: 津島秋葉


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1ポンド

「ただいま」


 無事に帰れた……いつもは気にも留めないことだ。でも、今はそのことが身に染みる。


 返事はない。ただ、今日に限ってはそれも関係ない、というよりそのほうが有難いかもしれない。


「さて、何からやるべきか……」


 部屋に戻り、リュックを椅子に掛ける。

 ファスナーを開いて、中身をかき分け財布を取り出した。


「やっぱりこれだな」


 きっかけになった100円玉も、核心に至った1ポンドも、この中に現れた。

 この財布に異変が起きている、という可能性もある……


「それを確かめる前に、あれが本物かどうか……」


 小銭入れを開ける。見慣れない硬貨は、やはりそこにあった。

 表、裏と見返す。どちらがどちらかはともかく、両面側面と眺めても明らかにおかしいという点はない。



「1、ポンド……と」


 検索ボタンをひと押し、答えは出た。

 映し出された写真は、手元にあるものと瓜二つ。本物の1ポンド硬貨を出現させてしまった、そうに違いない!


「召喚か……転送か?それとも創造か!?」


 思わず、声が大きくなってしまった。興奮のせいか、身体が震える。


「……確かなのは、種も仕掛けもなかったのにこれが現れたってこと……しかも、全く現物を知らなかった状態で、だ。つまり、妄想ではないはず。この考えが間違ってるとしたら、検索結果まで捏造してることになる」


 視覚と触覚は一致している。角張った手触りは、日本の硬貨にはないものだ。その二つとも幻覚に苛まれている──などということは、有りえても手に負えないので置いておく。


「……やってみたい」


 そうして残るのは、この現象への興味だけだ。なにが理由なのか?どうやって起きているのか?

 それを知るためには、試してみるほかない。


 危険も潜んでいることは想像できる。望み通りの結果だけが起きるなどとは言えない。何か対価を要している可能性だってあるだろう。

 だとしても……ここで踏みとどまるのは口惜しい。


 財布をしまい、念のためカーテンを閉めなおした。部屋の真ん中に立てば、自分が基点になっているか分かりやすいだろうか。あとは自分が願うだけ……かもしれない。


「……よし、何を試そうか」


 片づけに困らない、持っていても怪しまれないような……そうだ、板書でよく使われる黄色いチョーク。ノートを取る時、あれをどう書くか迷っていた。黄色いボールペンでもあれば解決する。ただ、白い紙に溶け込まないような色合いで──


 果たして、それは現れた。

 筆箱を出し、ボールペンを1本取り出す。既に持っているオレンジ色のものと比べれば、たった今それは確かに黄色く見えた。


 裏紙を手繰り、それぞれ線を引いてみる。たった今呼び寄せたものが描く線は確かに黄色いが、紙の白さに同化することもない。山吹色に近いのだろうか。しかし、オレンジ色のボールペンが描いた線とは確かな違いがあった。


伊奈(いな)光樹(みつき)


 この通り、名前も書ける。

 引っ込めたペン先を手のひらに押し込む──痛い。

 夢では、ない。

 

 「とんでもない……ことに……なったのでは?」


 今のところ、ごく小さな、硬貨1枚ほどの価値のものしか呼び出してはいない。だが、だとしても──信じられない、奇跡に等しいことだ。


「──落ち着け、落ち着こう」


 いや。手のひらに収まるような現象であること、それは事実だ。そもそも、たとえ常人でも時間が許せば買い物に行ったり両替したりはできる。難しいこと──ダイヤモンドを生成するとか──ではない。


 果たして、この現象をもっと規模を大きくして引き起こせるだろうか……気になる。もっと試してみないことには!



「ただいまー」



「ぅおっ、おかえり!」


「元気がいいね~。お米を買ってきたから運んでくれる?」


「分かった、手伝うよ」


 ……母さんが帰ってきた。今はまだ、話さない方がいい、かな……いずれにせよ、検証はまた明日だ。

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